小説

土とともに #2(土界へ)

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 やがて体の感覚が戻っていくのを感じた。先ほどの金縛りのような状態も解け、ようやく体を動かせるようになった。しかし、顔を上げ周りを見渡すと、そこには先ほどまでいた横浜の一角とは全く異なる景色が広がっていたのだった。前後左右、どこを見ても限りない暗闇が広がっている。そして足元は「土」になっていた。
「ここは…どこ?明らかに何かがおかしい…。これは夢の中なのかな」
そう考えることしかできないほど異様な状況だった。理解は全く追い付いていない。そして、上を見上げると… 映りこんできたのはなんと、先ほどまでいた横浜の一角だった。
「えっ…」
僕の頭はオーバーヒート寸前になった。ただでさえ処理できていない「現状」に追加で「異質な状況」が入り込んできたからだ。
「とにかく一旦落ち着こう」
目をつぶり深呼吸をした。深呼吸を2・3回ほど行い、もう一度目を開けてみる。しかし目の前の景色は変わらない。とりあえず状況を整理してみよう。(恐らく)10分ほど前までは、横浜の街角の一角で頭を抱え考え込んでいた。しかし、僕が深く考え込み始めたタイミングで「謎の感覚」に襲われ、気づけば今といった流れだ。
どう考えても説明をつけることができないので、次第に考えることをやめた。すると、僕の頭は徐々に落ち着きを取り戻し、現状をなんとか受け入れられるようになってきた。そんな、落ち着きを取り戻していく中で1つ気づいたことがある。それは、僕がベンチに座っているということだった。そして、そのベンチの後ろには街灯が1つ、ともっていた。
「どうりで自分の周りがぼんやり明るいわけだ。」
よくわからない中の1つを理解したが、今の問題はそこではない。今考えるべきは、「この「謎の空間」からどう出るか」だ。ずっとこのベンチに座って考えていれば、さきほどのような「謎の感覚」が起こって元に戻るかもしれない…とも思ったが、しばらく待ってみても何も起きなかった。このままずっと座り込んでいても何も解決できない、そう悟った僕は周りを歩いて調べてみることにした。

早速立ち上がり一歩を踏み出したとき、若干歩きづらい気がした。僕は普段、舗装された道を歩いており、あの固い感触が僕にとっての「道」なのだ。だから、土の感触はとても不思議だった。歩を進める毎に足が少し地面にのめり込む。かといって、足を取られるわけでもなく一歩一歩を前に出せる。そんな土の感触を楽しみながら僕は探索を続けた。

少し歩いてみて分かったことは、この「謎の空間」は「現実世界」が空のように上に広がっているということである。上を見上げれば「いつもの日常」が雲のように流れている。そして、地面に埋まっているタバコやごみなど普段から見て見ぬふりをされ続けているものが見える。僕はこの光景を目の当たりにして、ますます横浜(駅周辺)が嫌になってきた。

そんな複雑な気持ちになりつつ歩いていると、遠くの方に人影らしきものがかすかに見えた。こんな異次元めいた空間なのだから何が出てきてもある意味普通なのだが、僕は一応警戒しながら人影らしきものに近づいていった。

そして、徐々に人影らしきものが近づいてきた。この距離からだと、らしきものではなく完全に人影であることが確認できた。もう少し距離を詰めると、そこには40代後半~50代前半ほどの男性が佇んでいた。
「こんな所に人が?」
上を見上げれば人はいるが、この空間には今まで自分ひとりだったので少し気が緩んだ。僕は声をかけた。
「あの、すみません」
すると男性はこちらを見た。しかし、応答がないので今度は質問を投げかけてみた。
「あなたもこの空間に迷ってしまったのですか?」
すると男性は口を開くなりいきなりこう言った。
「私は神だ。」

#3につづく

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