一流忍者は一流忍者の一流としての力を吸い取って養分にする恐ろしい妖怪に狙われることを恐れ、毎日ニンパク質当てを狙って夜ごはんを……
「って、何回繰り返すねーん!」
作者であるお題ゾンビは大声でツッコんで原稿用紙を破いた。
「あーれー!」
破られた原稿用紙から一流忍者が飛び出し、
「何をなさるお題ゾンビ殿。拙者の物語を考えたのはお主ではないか!」
「うん、そうなんだけどね……2本連作で楽しく書けたけど、さすがに3本目はないかなって思うんだよなぁ」
「ないかなも何も、拙者はまだここで終わりのめでたしめでたしという訳ではなく、いつ妖怪に襲われて力を奪われるかと毎日ヒヤヒヤなのでござる。話が完結した感じではないのだが……」
「分からんヤツだなぁ。エンドレスオチっていうのを知らんのかよ。本当は1本目をラストにしても良かったけど、それじゃあヨーグルトのせいで格下げされたお前があまりにも哀れだからってことで2本目も書いてやったんじゃないか。文句があるんなら今すぐに例の妖怪を召喚してけしかけるぞ」
「ちょ、頂戴なく遠慮しまーすでござる……」
「そうだ、せっかくだからカケルも呼ぼうかな。『そう呟いた途端、カケルが現れた』っと……」
お題ゾンビが原稿用紙に書くと、
「おわす!」
全人類と全神様を救った救世主ロボット・カケルが現れたではないか。
「何でござるかこのロボットは!?」
「全人類と全神様を救った救世主ロボット・カケルだ。お前の前作の主人公だよ」
「へぇ、全人類と全神様を……それは偉大なお方でござるな……」
「ん、誰だこの忍者?」
「黄金に輝く一流忍者だ。お前の次作の主人公だよ」
「一流忍者って、名前は?」
「だから、一流忍者が名前だよ」
「変わった名前だなぁ」
「変わった名前がどうした。変わった名前だから、キャラとして面白いんじゃないか」
「でも僕は変わった名前じゃないけど、我ながらキャラとして面白いんじゃないかな」
「そりゃそういう奴もいるし、そういうけどそうじゃない奴も……ええい、そんなことはどうでもいい!とにかく、夜ごはんだ。一流忍者は夜ごはんを食べまくらないと妖怪から身を守れないだろ?」
「まだ夜じゃござらんよ」
「じゃあ夜にしてやる」
お題ゾンビの一言で、辺りはたちまち夜になった。
「では早速、夜ごはーん!」
一流忍者がかぶりついたのは、
「ぎゃーっ!」
何とカケルではないか。
「僕は夜ごはんじゃなーい!」
「では、何ごはんでござろうか?」
「何ごはんでもなーい!」
「あ、カケル殿ではないか。なーんか夜ごはんにしては固いなぁと思っていたでござるよ……」
一流忍者はカケルから口を放した。
「ははは。暗くてなーんも見えんかったでござる」
「何か変な忍者だなぁ。あんまりこういう自慢はしたくないけど、僕は一応、全人類を救った救世主ロボットなんだ。君がこうしてくだらないことをしていられるのも元を辿れば……」
「ああ待った、それは違うぞカケル」
「ん?何が違うの?」
「今たまたまお前の世界と忍者の世界が繋がっただけで、本来は別世界だ。したがって、もしお前の世界の全人類があの時000の手にかかって滅んでいたところで、忍者の世界には影響しない」
「ありゃ、そうなのか……」
「ありゃなことに、そうなのだ」
「ところで作者としてはあの忍者を放っておいていいの?何か手当たり次第に通行人食べてるみたいだけど」
「ナニ―ッ!?」
見ると、
「夜ごはーん!」
「キャーッ!」
「夜ごはーん!」
「ぴぎゃーっ!」
「夜ごはーん!」
「どえーっ!」
一流忍者が誰かれ構わず通行人にかじりついているではないか!
「お、おい!何やってんだ!」
「夜ごはーん!を、食べようとしているのでござるが」
「私達は夜ごはんじゃありませーん!」
「じゃあ今すぐ夜ごはんになって頂こう。黄金流忍法・夜ごはん変化の術!」
一流忍者が叫ぶと、
「あーれー」
3人の通行人はそれぞれごはんとサラダと味噌汁になってしまった。
「ああっ!?何てことを……お前というやつは……」
お題ゾンビは作者として怒り悲しんだが、
「うーん、おかずもないと寂しいなぁ。誰かもう1人、おかずになってくれる通行人はおらんだろうか」
一流忍者はおかずを求めて通行人を探した。
「誰かおかずに……いや、通行人になってくれないでござるかー?」
「よく分からないけど通行しまーす」
この先の運命を知らずにのこのこと出て来た若い男は、
「黄金流忍法・おかず変化の術!」
「ひぇーっ」
夜ごはんのおかずのトンカツに変えられてしまったのである。
「ではでは、いただきまーす」
一流忍者は容赦なく通行人が姿を変えた夜ごはんに手をつけようとしたが、
「いただかせてたまるか!」
お題ゾンビが素早くそれを取り上げた。
「何をするか!夜ごはんを食べろと言ったのはお主ではないか!」
「そうだ。俺は夜ごはんを食べろと言ったんだ。でも今のお前が食べようとしているのはなんだ?夜ごはんに姿を変えさせられた通行人の皆さんじゃないか!人が人を食べるなんて、あってはならん!」
「いやいや、これらはもう人ではなく、夜ごはんでござるよ」
「そんなはずはない!お前が術をかければ元に戻せるはずだ」
「そりゃあ戻せるけど、逆に言うと拙者の手にかかれば純粋な夜ごはんの食物を人間に変える事だってできちゃうからなぁでござる。もはや本物の夜ごはんと元人間な夜ごはんの境界線は……」
「ふざけるな!純粋な夜ごはんの食物は食べられるために作られてきたから食べていいんだ。でも、通行人の皆さんは人間として育ってきたんだ。それをどこの馬の骨とも知らない忍者に食べられて最期を迎えるなんて、そんなことがあっていいのか!」
「じゃあ文句があるなら今すぐ純粋な夜ごはんの食物を出せでござるよ」
「よし、文句があるから今すぐ純粋な夜ごはんの食物を出してやる。そしたら通行人の皆さんを元に戻せよ!」
お題ゾンビは原稿用紙からあらゆる種類の夜ごはんを出現させ、
「これでも食っとけ!」
一流忍者に投げつけたが、
「いただきますでござる!」
一流忍者は一瞬のうちに完食してしまったではないか。
「うーん、この程度では物足りなくて通行人の皆さんを元に戻す気がおきんなぁ」
「なにおう?ならもっと出してやる!」
お題ゾンビは夜ごはんの召喚を続けたが、
「いただきます……を言う間もなく、ごちそうさまでござった!だが、まだまだ足りん!」
一流忍者はあっという間にたいらげて次をねだった。
「素早いさすが忍者すばやい……何て言ってる場合じゃないな。俺も素早く夜ごはんを出さねば。それそれー」
素早く出しても、
「ウマいウマい」
それを上回る素早さでたいらげられるのがオチである。
「足りんなぁでござる」
「ぐーっ、こうなれば奥の手だ……」
お題ゾンビが出したのは、
「どんなに食べても減らない魔法のトンカツ弁当!」
だった!
「おお、どんなに食べても減らないとは、まさに拙者向け!いただきますでござる!」
そのトンカツ弁当は一流忍者が食べても食べても容器の中で増え続け、
「これでもう夜ごはんを実体化させなくてもいいな!」
お題ゾンビも安堵したが、
「!?」
何と一流忍者は増殖の元となる容器までばりばりと食べ尽くしてしまったではないか!
「もっと……もっとおくれぇ……」
一心に夜ごはんを求めるその飢えた目はこの世の者とは思えないほどおぞましく不気味なものへと変わっていた。
「ひ、ひぇええええ……これじゃあまるで、妖怪だ……」
お題ゾンビが恐怖のあまり呟くと、
「ぬ?バレてしまったか……そう、我はこの一流忍者に取り憑いた妖怪だ!」
衝撃の事実が発覚した。
「えっ、本物の妖怪?」
「さよう。妖怪の食べる夜ごはんに含まれる可能性のある妖駆琉死有無(ようかるしうむ)を得る為この忍者に取り憑いて精神を操り、貴様にタダで夜ごはんを作らせたのだ!そしてこいつらは……」
一流忍者の身体を操っている妖怪が通行人たちが姿を変えた夜ごはんを無造作にぶちまけると、
「ああっ!?」
夜ごはんは煙に包まれてたちまち4体の1つ目妖怪に姿を変えたではないか!
「俺達は、忍者の夜ごはんじゃない!」
「俺達は、ただの通行人でもない!」
「俺達は、ただの妖怪でもない!」
「俺達は、偉大なる妖怪大王者様に仕える一流妖怪軍団なり!」
それが彼らの正体のようである。
「一流妖怪軍団だって!?」
「偉大なる妖怪大王者って、なんか強そうだなぁ」
「いかにも、我は最強の妖怪。この強さもどうやら貴様の出した夜ごはんに含まれていた妖駆琉死有無で完璧なものとなったようだ。この間抜け忍者の身体を食い破って今こそ我が姿をお見せしよう!」
「食い破るだって?」
「あの忍者、食べられちゃうのかな」
「バカなロボットめ!食い尽くすのではない。この身体をバラバラにして外に出ようというのだ!」
「ありゃ、バラバラになっちゃうのか」
「ありゃじゃないぞカケル!俺の自信作の主人公をバラバラになんてされてたまるか!」
「いいではないか。我もまた、その自信作の世界の住人。貴様が原稿用紙を破いてこの忍者が放り出される瞬間を狙って取り憑いてこやつを部分的に操り、目的を遂げたというわけだ。では忍者の身体よ、さらば!」
一流忍者の身体を操る妖怪大王者がそう叫んだ瞬間、
「わーっ!」
ショッキングにも一流忍者の身体はバラバラに砕け散ってしまった!
「一流忍者―ッ!」
「ふはははは……ふははははは……」
一流忍者の身体を食い破って現れた黒い霊体はおぞましい声で不気味に笑い、
実体化して妖怪としての真の姿を現した。
「我こそは最凶の妖怪・妖怪大王者なり!」
その姿は等身大の人型を保ちながらも全身に顔の崩れた竜虎の意匠を持つおぞましい妖怪である。
「我の狙いは現実世界に飛び出し、人類を滅ぼして妖怪帝国を築くことなり」
「現実世界に!?どうしてそんなことを!」
「今や現実の人間どもは渦巻く不幸に負けて自分を失い凶行に走る者ばかりだ。貴様もそれでここへ逃げ出してきたのだったな。そのような人間どもはもはや妖怪も同然。同じ妖怪なら、我らが天下を取るべきというものよ!」
「何と恐ろしい事を企むヤツ。妖怪みたいな人間は妖怪みたいなだけで本物の妖怪じゃないんだから、お前らの出る幕じゃないぞ!」
「なら我が妖力で本物の妖怪にしてくれよう。そしてこの妖怪大王者が世界の王として君臨するのだ!」
「そんなこと、させないんじゃないかな」
妖怪大王者の陰謀の前に、カケルが立ち塞がる。
「何だその、曖昧な言い方は」
「僕は気が付けば自分の世界の全人類と全神様を救ってしまったから、今度も同じ流れでお前を倒して現実世界を救うんじゃないかと思う」
「勝手に思え。甘ったるい妄想をな。我は貴様如きに敗れるほど華奢ではないわ!」
「そう言うヤツほど、呆気なくやられる気がする……」
「なら試してやろう!」
両者は空中へ飛び上がって強烈な一突きを交えたが、
「ぐわっ……」
ダメージを受けて地面に落下したのはなんとカケルの方だった。
「カケル!」
「フン……呆気なくやられたのはどっちかな?」
「ぼ、僕は全人類と全神様を救った救世主ロボットだというのに、どうしてこんな奴に……」
「所詮それは貴様の世界での話だ。それに我は妖怪。貴様がどんな最新技術を駆使しようが、我が妖力にはかすりもしないというものよ!」
「どうすれば、かするのかな……?」
「唯一、忍の者なら我が妖力に敵うかもしれぬ。だがあの間抜けな忍者は滅びた!そして……」
妖怪大王者がお題ゾンビを横目で見ると、
「あれっ?百億人の一流忍者軍団が出てこない!どうしたんだ?出ろっ、出ろぉ!」
お題ゾンビは原稿用紙の前で何やら慌てているではないか。
「夜ごはんを出させ終えればもう元の世界は用済み。作品世界で創造した物体をこちらへ実体化させる為の扉を我が妖力で封鎖させてもらった。これでもう助っ人は出せぬ!」
「助っ人がいないと、どうなるんだろうか……」
「しれたことよ。貴様が我の手にかかってスクラップになるのだ!カケルとやら、覚悟!」
妖怪大王者は妖力を集めて妖刀を形成すると躊躇なくカケルに振り下ろし、
「ああっ、またしても俺の自信作の主人公が!もうダメだーっ!」
お題ゾンビは目をつぶったが、
「ぐあっ!?」
痛みから生まれるその声を上げたのはカケルではなく妖怪大王者の方だった。
「……ん?何の『ぐあっ!?』だ?」
お題ゾンビが恐る恐る目を開けると、
「あっ!」
妖怪大王者は妖刀を取り落とし、その右腕には特大の黄金手裏剣が深々と刺さっているではないか。
「この手裏剣……まさか?いや、ヤツの身体はこの手でバラバラに!」
「わーっはっはっは……そのまさかでござる!」
甲高い笑い声と共に現れたのは、バラバラになったはずの一流忍者である。
「一流忍者!」
「無事だったのか……」
「何故だ、貴様は我が確かにあの時バラバラに……」
「黄金流忍法・変え身の術を使ったまででござる。お前が拙者の身体を食い破ろうとした瞬間、とっさに近くにあった丸太と入れ替わったというカラクリよ!」
見れば、バラバラになった一流忍者の身体の破片と思われていたものは確かに丸太の破片ではないか。
「なるほど、さすがは一流忍者!」
「おのれ、ならばこの手で確かにその命頂こうか!」
「何だか分からないけど良かったね……あいててて……」
カケルは傷を負って動けない様子だったが、
「カケル殿、しっかりなされよ。黄金流忍法・故障直しの術!」
一流忍者が術を唱えると、
「あ、治った」
たちまちその傷は消えた。
「どうやらあの妖怪どもは忍者にしか倒せぬようでござる。しかし、カケル殿は拙者の前作の主役にして全人類と全神様を救った救世主であるお方。ここは後輩的な存在としてお主を立てねばということで……黄金流忍法・忍者化の術!」
その術によって、
「わっ!」
カケルは忍者装束に身を包んだ忍者ロボットへと進化したではないか!
「これでこの戦いが終わるまでカケル殿は忍者ロボットとなり妖怪共とも互角に渡り合えるでござる」
「そうなのか!じゃあ僕も一緒に戦おうかな」
「よし、そうと決まれば2人で力を合わせようでござるよカケル殿!」
「コシャクな、我らが妖力の恐ろしさを思い知らせてくれよう。一流妖怪軍団、かかれーっ!」
妖怪大王者のかけ声で一流妖怪軍団は一斉に2人に襲いかかり、
「行くぞおおっ!」
一流忍者とカケルは妖怪達との戦闘を開始した!
一流妖怪軍団は激しい格闘技で攻めた末、
「妖力光線!」
スクラムを組んで邪悪な光線を発したが、
「黄金流忍法・妖力防ぎの術!」
「救世主流忍法・効かないんじゃないかなの術!」
2人の防御忍法で生まれた空間バリアによってそれは意味を成さなかった。
「今度はこっちの番でござる!黄金流忍法・夜ごはん変化の術!」
一流忍者が叫ぶと、
「あれーっ!」
一流妖怪軍団は再び夜ごはんと化してしまったではないか。
「これ、どうするの?」
「カケル殿、一緒に美味しく頂いてしまおうでござるよ」
「そうしようか。では、うまうま」
「グワーッ!」
2人の忍者によって夜ごはんとなった一流妖怪軍団は完食され、
「こんな最期だが……」
「俺達は……」
「一流妖怪軍団!」
「断じて……」
「忍者の夜ごはんじゃなーい!」
そう叫ぶと抵抗も虚しく消化されていった。
「いやいや、そなたらはおいしい夜ごはんでござったよ。わっはっは……」
残るは妖怪大王者1人である。
「おのれ、我が自慢の配下である一流妖怪軍団をよくも……」
「一流って言う割には妖力波だか何だかを使っただけで呆気なく食べられちゃったし、強いようには見えなかったけどなぁ」
「貴様ら……!ここまで我を怒らせるとは面白い。きっちりと報いは受けてもらおうか!」
言うや否や、妖怪大王者は目にもとまらぬ速さで2人に殴りかかった。
「わぁ、痛い痛い!」
「痛みを感じているうちはまだ幸せというもの。今に何も分からなくしてやろう!」
妖怪大王者は再び妖刀を形成して2人に高速で斬りかかり、
「妖気斬!」
必殺の剣撃を放った。
「ぐはぁ!」
確かに手ごたえはあったが、
見れば斬った物は2つの藁ではないか。
「!?」
妖怪大王者が狼狽えた瞬間、
「てい~ッ!」
背後から飛びかかった2人が刀を振り下ろした。
「ぐおーっ!」
二刀斬りをまともに喰らった妖怪大王者は完全に体制を崩し、
そこを2人の連続忍法が攻める。
「黄金流忍法・手裏剣尽くし!」
「救世主流忍法・ボコ殴りの術!」
「ぐはぁ……」
妖怪大王者は集中攻撃を受けて倒れ、
「妖怪大王者、これまででござるか?」
そうかと思われたが、
「我を……この妖怪大王者をナメるなぁ……こうなれば最後の手段。我の真の姿を見るがいい。うぉおおおおおおおおおおおーっ!」
妖怪大王者が全身を大きく広げ天に向けて絶叫すると、
その肉体を食い破って巨龍を首に巻きつけたとてつもなく巨大な虎の妖怪が現れたではないか。
「こ、これが……」
「妖怪大王者の真の姿って感じなのか」
「忍者ども、許さんぞおおおおーっ!」
巨龍が分離してカケルに喰いつき、
巨虎が一流忍者に襲いかかる。
「この龍牙で貴様の機械を全て噛み砕いてやる!」
「この虎爪で貴様を八つ裂きにしてくれるわ!」
「わーっ、噛み砕かれる―っ!」
「ひーっ、八つ裂きにされるーっ!」
言いながらも2人は再び変え身の術で逃れようとしたが、
「今度はそうはいかんぞお!」
巨龍と巨虎が額から放った怪しげな光線を2人に浴びせると、
「忍術が使えない!?」
のであった。
「忍術無力化光線を浴びた者は皆そうなる運命。忍術の使えない忍者などもはや敵ではないわぁ!」
「あーっ、痛い痛い!」
「だーっ、そこ引っ掻くなでござるーっ!」
2人の忍者は自慢の忍術を封じられて絶体絶命の危機に陥ったが、
「たとえ忍術が使えなくとも……」
「何かできちゃうのが、忍者ってもんじゃないかな!」
この逆境の中でもヒーローばりに諦めないのだった。
「忍者らしいこと?バカを言え、忍術しか脳がない忍者が忍術を失って何が残されているというのだ」
「何が残されているかというと……」
「残されているかというと?」
「何が残されているんだろうなぁ……」
「自分でも分からんのかっ!」
巨龍と巨虎がズッコケて力を弱めた瞬間、
「今だ!」
2人はそれぞれ敵のキバとツメを振りほどき、
「僕は忍術を失っても元々がロボットだから、この強大な力で殴る蹴る!」
カケルは本来の力で、
「拙者は……こんなこともあろうかと、少し格闘技を習っていたりした。これぞ、人間の真の力でござろう。てやーっ!」
一流忍者は格闘技で果敢に挑んだ。
「無駄だ!忍術でなければ効かないと言ったであろう。その忍術はもはや使えぬ。もう終わりだ!」
「終わるのは、たぶんそっちの方じゃないかな!」
「諦めずに格闘技をお見舞いさせ続けさせてもらうでござる!はりゃーっ!」
2人はめげずに攻撃を続けたが、
「無駄だと言っておるだろう!」
「わーっ!」
巨龍はその巨体で巻き付き2人をがんじがらめにしてしまった。
「諦めの悪い忍者どもめ、これで最期だ……」
巨龍と巨虎は最後の一撃とばかりに強力破壊光線のエネルギーを溜め、もはや絶体絶命である。
「……あれ?そういえば、忍術が切れているはずなのにどうして僕は忍者のままなのかな」
「カケル殿、この期に及んでそんなことどうでもいいでござろう!……でも、そう言われてみれば確かに拙者が忍術をかけたからカケル殿は忍者でいられるのであり、忍術を封じられてはその効果も切れるはずなのに……おかしいな」
「おかしいよねぇ」
「もしかすると……これはカケル殿が心から忍者になりきっていたからではござらなかろうか。だから忍術無力化光線もそのなりきり心の強さを前に効果を成さなかったんじゃ……」
「そうなのか!じゃあ僕達がまた忍術が使えると本気で思い続ければ……」
「きっとまた忍術が使えるようになるってことでござろう!」
「よーし、そうと分かれば!僕は忍術が使える。僕は忍術が使える。僕は忍術が使える……」
「拙者は忍術使い。拙者は忍術使い。拙者は忍術使い……」
2人は目を閉じて一心に思い続けた。
「現実と妄想の区別もつかんとは哀れなヤツらよ。これで終わりだあああっ!」
破壊光線が2人目がけて放たれたが、
「黄金流忍法・光線回避の術!」
「救世主流忍法・バリヤー的な術!」
激しい爆発の中、2人の忍術の名を叫ぶ声が響き渡った。
「ガハハハハハ、忍者どもの最期だ!」
巨龍と巨虎は勝利を確信して声高に笑ったが、
煙の中からは、バリヤーに守られた2人の忍者が姿を現したではないか!
「なにおう!?」
「驚いたか妖怪大王者!これぞ、忍の心。忍びの極意でござる!」
「気持ち次第で何でもできちゃうのが忍者の凄いところなんじゃないかな!」
「おのれ、自力で忍術の力を取り戻すとは。ならば我は妖術を極めるまで。大王者殺法・妖力波!」
巨龍と巨虎が2人目がけて強力な破壊力を持つ波動を送ったが、
命中した相手はやはり2つの藁である。
「そこかあっ!」
巨龍と巨虎は目星をつけた場所に光線を放ったが、
「甘い!」
その反対方向から2人の忍者が現れ斬りかかった。
「ぐわああああーっ!」
「何か、ワンパターンな攻撃方法ばっかりで申し訳ないでござるなぁ」
「じゃあ、そろそろパターン破りの必殺技ってとこかな」
2人の忍者は今までにない構えで刀を持つと、
「黄金流奥義・火炎斬!」
「救世主流奥義・電撃斬!」
刀にそれぞれ烈火と電撃を纏わせながら巨龍と巨虎へ斬りかかった!
「ぐわーっ!燃える……」
「どわーっ!痺れる……」
燃えて痺れた巨龍と巨虎は重なり合って倒れ妖怪大王者の姿に戻ると、
「覚えておけ……我が倒れようとも、愚かな人間どもが荒んだ心を持ち続ける限り、この世は妖怪帝国も同じだ……妖怪は……不滅なりぃ……!」
そう言って爆発四散した……2人の忍者の勝利である。
「うーん、悪の最期ながら何となく耳の痛い言葉だなぁ」
お題ゾンビはそう思ったが、
「はっはっは。そんなの明日になったら忘れちゃうでござるよ!」
「僕なんかもう何て言われたか忘れちゃったよ。ははは……」
当の忍者達は全く気にしていないようであり、
「まぁ、そういう暗い事は考えない方がいいか……また人生に虚しくなったら大変だ」
「見事な戦いぶりでござった、カケル殿!流石は全人類と全神様を救った救世主ロボット!」
「いやいや、僕も忍術では全然及ばなかったよ。流石なのは、一流忍者の方じゃないかな!」
勝利の余韻に浸りながら微笑ましくお互いを認め合っていた。
「お題ゾンビ殿、今回の戦いで拙者は妖怪と戦う自信がついたでござる。一流忍者の一流としての力を吸い取って養分にする恐ろしい妖怪など恐るるに足らん。来るなら来てみろでござる!」
「あ、元の格好に戻った。……僕も今まで全人類と全神様を救った救世主ロボットとして注目を浴びまくるのが嫌だったけど、忍術を使えずに妖怪大王者に負けた時は悔しかった。これってやっぱり僕にも全人類と全神様を救った救世主ロボットとしてのプライドがあるってことじゃないかな。そうと分かればこれからは自分の凄さを受け入れ、もっと進んでちやほやされよう!」
元に戻ったカケルと一流忍者はどうやらこの戦いで大きなものを得たようだった。
「おお、なんか2人ともすっかり逞しくなっちゃって!気付けば大騒動に発展したけど、お前たちが成長できて現実世界も守れたんだから一石二鳥だな!はっはっはっは……」
お題ゾンビは作者として大満足であったが、
「うーん……」
「今のままで、いいのかなぁ……」
「何か、よくない気がするよなぁ……」
それを陰ながら見守るおダイや野菜少年やシークレットカードらお題ゾンビの作ったキャラ達は、未だ言葉にできない違和感を覚え続けるのだった……