小説

土とともに #11(「三大臣」の存在と説明)

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 「バタンッ」扉が閉まった音が部屋に響いた。僕と「大臣」の二人が部屋に残された。しばしの間を置き、彼は話し始めた。
「あいつ…「右大臣」からは色々聞いているヨ、僕も「空人」と話すのは少々慣れなイ。失礼な言葉遣いをしていたら遠慮なく言ってほしイ。」
「はい、分かりました。ところで、その…「右大臣」って?」
 いきなり聞きなれない単語が出てきた。
「うン?彼からは聞いていないのかイ?」
 「大臣」は驚いた様子で聞いてきた。
「えっ…?聞いていない…というより、そもそもそんな単語は初耳です。」
「えェー!?それじゃあ今までどう呼び合っていたのサ?」
 その言葉を聞いて初めて理解した、ここまで自分を導いてくれた「神」は「右大臣」という名前だということに。僕は彼の問いにこう答えた。
「それは…僕は彼の名前を呼んだことはありません。向こうは僕のことを「君」と呼んでいましたが。」
 一度聞こうと思った時もあったが、結局聞かずじまいだった。
「はェー。あいつらしい…と言うべきカ…」
 「大臣」は僕の返答を聞いて、かなり衝撃を受けていたようだった。
「よくもまぁ、名前すらわからない謎の存在に付いていこうと思ったネ。」
 僕も最初は全く信じていなかった。開口一番に「私は「神」だ」とかいうのだから。
「まぁ、急に意味の分からない世界に来たら、言われた通りにする以外選択肢はないカ。」
 話が少々一方通行なのは「右大臣」と似ているが、言葉遣いや内容なんかはこちらの方が明らかに柔らかい。そして、僕の思いをずばりと言い当てている。
「まさに、その通りです。」
「だよネ~。あいつはサ、僕らの中でも二番目に固いやつだかラ。多分、最初に関わるべき「神」ではないと思うんだよネ~。あっ、ちなみに僕は二番目に関わりやすい「神」って言われてるんダ。」
「へぇ、そうなんですか。」
「うン。でも僕より関わりやすいのは「エオリ大陸の大臣」って言われてるんだよネ…全く、あいつと僕の何が違うっていうんだイ!タイプが違うだけじゃないカ!」
 情緒が不安定なのだろうか、彼は突然怒り出した。なぜかそのランキングにこだわっているようだそもそもそのランキングとやらはどういった形で決められているのだろうか。少し気になるところだが、今はそれよりも大事なことがある。
「あ、あの、大臣?」
「あッ…ごめんネ、ちょっと取り乱してしまったネ。」
「大丈夫ですか?」
「うン、大丈夫。なんだか話がとてもズレてしまったよネ。それじゃあ本題に入ろうカ。」
「はい、お願いします。」
 ようやく本題に入ることができそうだ。
「まぁ、さっきも言った通りここまで君を連れてきたあいつは「右大臣」っていうんダ。彼は主に、ここ「ポペラ大陸」とこの大陸の北にある「ニムレ大陸」を管理している「神」なんダ。僕ら7人のうち3人は「右大臣」、「左大臣」、「中大臣」と呼ばれていル。彼らはこの世界の人々にとっては神話でのみ語られる存在なんダ。僕ら、大陸担当とは違う使命が課せられていル。」
「そうだったんですか…僕が聞いているのは各大陸にそれぞれ1名担当の「神」がいることと、彼が「それ以外の神」であることくらいです。」
「そうカ…じゃあ、「左大臣」と「中大臣」のことは知らないのかナ?」
「はい。」
「OK、それじゃあその2名についてから説明しよウ。」
「お願いします。」
「うン。まずは「左大臣」についてからネ。彼は「右大臣」とは対となる存在で、この大陸の西に存在する「エオリ大陸」とその北に存在する「カコル大陸」を管理していル。おそらく、彼が僕らの中で一番固い「神」だろうネ。」
「はあ…」
「でっ、次は「中大臣」。彼は僕ら7人の中でも異質な存在なんダ。他の6人とは比べものにならない力を持っていル。彼は「右大臣」や「左大臣」のように「土界人」たちと関わることは一切ない。僕らの拠点である「球伝本部」に常駐しているんダ。」
「キュウデンホンブ?」
「うン。この世界の中央かつ上空に存在する「神たち」の拠点…それが「球伝本部(きゅうでんほんぶ)」ダ。僕らが重要な会議をする時はそこに集まる。」
「じゃあ、さっき「右大臣」と話していた「会議」っていうのもそこで行われたんですね?」
「うン。そうだネ。」
「で、それ以来何十年も会っていなかったと。」
「そういうこト。まぁ僕らはテレパシーで会話ができるから、会わずとも情報共有はできるんだけどネ。」
「な、なるほど…」
 ここまで来るともう驚かない。幾度となく自分に言い聞かせてきたがもう一度、この世界は「何でもあり」なのだ。しかしここでまた一つ疑問ができる。「会わずとも会話ができる」のなら何故「球伝本部」へ集まるのだろうか?
「じゃあなんでわざわざ集まるか、気になるでしョ?」
「えっ、はい。」
 この心を読んだかのような返し…性格が違っていてもやはり「神」は「神」のようだ。
「それはネ、1対1でしかテレパシー会話ができないからなんダ。」
「な、なるほど…」
 理由は思ったより単純だった。
「まぁそれはそれでいいとして「中大臣」の説明に戻るネ。彼はその強大な力で未来予知ができるんダ。」
「未来予知!?」
 これはさすがに驚いてしまった。
「うン。それで出た結果によると、「現在「土界」と「空の世界」の均衡は不安定であり、いつ崩壊してもおかしくない」らしいヨ。「それを変えるのはいずれ訪れる空からの来訪者…つまり「空人」だ」とも彼は言っていタ。そして、君がこの世界にやって来タ。「右大臣」が君の到達地点を把握していたのも、予知の結果で出ていたかららしイ。」
「そんな予言が…」
「うン。だから僕ら「神たち」は君がこの世界ですべきことを一緒に探していく必要があるらしいんダ。」
「この世界で僕がすべきこと…」
 どうやらとんでもないことに巻き込まれてしまったようだ…「土界」と「空の世界」の均衡?それは一体どういうことなんだろう。何をもって「均衡が保たれている」と言えるのだろうか。「空の世界の人々」は僕を含め、この世界を認識していないだろう。もしかしたら一部の人はこの世界の存在を知っているかもしれない。だが、大多数の人に認識されていなければ意味がないと思う。「中大臣」の言っていることが「未来予知」による結果なら本人の意思とはまた違うものなのだから、僕がそれを知れる由もないだろう。
「まぁ「中大臣」は「自分の意思」というよりも「未来予知」による結果で行動するのが基本だからネ、僕らにも彼の本心は読めないネ。同じ「神」のはずなのにネ…」
 そう言った彼の様子はどこか切なく思っているようにも見えた。
「本当の所は彼にしか分からなイ。僕らは「予知の結果」の通りに君を導くくらいしかできないからネ。」
 結局、彼らも「一番上の存在に振り回されている下っ端」のようなものなのかもしれない。僕は最近の政治の構図が脳裏に浮かんだ・・・
「ちょっとちょっト、何か変なことを考えていなイ?」
「えっ?」
 彼は僕の考えに割って入ってくるような反応をした。今回は完全に心を読んだ反応だ。
「別に僕らは彼の言いなりになっているわけではないヨ。「未来予知の結果」ばかりを優先する彼に、僕らが指摘することだってたびたびあるんだかラ。」
「それなら良いんですが…」
「僕らがなんのために「この世界の住民たち」と直接関わっているか「右大臣」から聞いているよネ?君の今の考えは、この世界ではありえないものだヨ。」
 彼はかなり焦った様子で僕の考えを否定した。そういえばそうだった、僕はすっかりそのことを忘れていた。
「それは…そうでしたね、ごめんなさい…」
 僕は謝罪した。でも、そこまで言わなくてもいいじゃないか…とも思った。僕がこの世界に来てからまだ数時間しか経っていないのだから。
「あぁ…ごめんネ、君がこの世界に来てからまだ間もないってことを忘れてしまってタ。今の態度は良くなかったネ、申し訳なイ。」
「あぁ…いえ、大丈夫です。僕も「右大臣」から聞いたことを忘れてしまってたわけだし。」
「そうカ…ありがとう。でも、これだけは伝えておきたイ。これからはそういう許し方は気を付けた方がいイ。この世界の住民たちは、そう言われると自分が完全に許してもらえたと思ってしまうかラ。」
「な、なるほど。」
「うン、君の僕への気遣いはちゃんと伝わったヨ。でも、彼らはそうはいかなイ。」
「それじゃあ今のはどう返せばよかったんですか?」
「そうだネ…「今のはとても傷つきました。あなたが本当に反省しているならもう一度謝罪の意を示してください。」みたいな感じかナ。」
 なんと難しい答え方なんだ…僕の住む国「日本」でそのような言い方をすれば、「なんて意地の悪い奴なんだ」と思われるに違いない。「タチの悪いクレーマー」のような態度だ。でも、「素直でいる」というのは良くも悪くもそういうことなのかもしれない。
「まぁいきなりそうしろ、と言われても難しいと思うからそこは僕らと練習していこウ。」
「はい、ありがとうございます。」
「OK。じゃあ次は、この世界のことについて勉強していこうカ。」
「勉強…まぁそうですね、「右大臣」からの情報は話半ばなところで終わってしまっていましたから。」
 そう、「右大臣」からもこの世界についてのことは色々聞いた。しかし、「編み笠を被った男」に出会ってからその話は途切れてしまったままだった。「各大陸について」の内容も結局、聞けずじまいだ。
「それじゃさっそク、君が気になることから話してあげるヨ。何が聞きたいかナ?」
「えっと…じゃあまずは各大陸のことについて教えてください。」
「OK。良いところからついてくるネ。少し長くなるけどそれはとても重要なことだからネ、しっかりと伝えられるよう努力するヨ。」
「はい、よろしくお願いします。」
 この世界のことをより深く理解するための「勉強会」が始まったのだった。

#12へつづく

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