小説

㉞お題ゾンビ旅に出る

「うーん、ダメだダメだ!完全にスランプだ!」
お題ゾンビは作品を書き上げるや否や、大声で怒鳴り散らした。
「あれだけ時間をかけてこんなものしかできないなんて。このままじゃいかんな。旅にでも出るか……」
作家はスランプに陥ると旅に出て旅先の風景や出来事でアイデアを養うという。
作家モドキの中のモドキの中のモドキの中の……とキリがないお題ゾンビでも、それは当てはまると思ったのである。
「ではまず、どこへ行くかだな。その答えを見つけるため、まずは旅行ガイドを買おう……」
本屋へ行きガイドを手に取ったが、
「1500円……足りない。あと200円足りない。どこかで200円手に入れなくては……」
金欠で手が出せずであった。
「200円くらい、道端に落ちてたりしないだろうか。自販機の下とか……」
あちこちを探し回ったが、
「ない」
世の中、そう甘くないのである。
「いっそのこと、200円を探す旅に出ようか。……いやいや!それじゃあ前に書いた『300円を追いかけて』と同じじゃないか。そんでもって、『卒業文集の世界一周旅行』みたく気付けば世界一周してましたオチになるんだろ?いかん、いかんよ。展開の二番煎じはいかんよ。」
作者が自作の内容をリアルに体験するのは面白そうだが、お題ゾンビは断固として拒んでいるようである。
「それにここ、一応は物語の世界だしな!現実世界に戻ってリアルに経験するならいいけど、物語の世界で書いた物語を物語の世界の中でリアルに経験しても……ああ、何だかややこしいなぁ。とにかく200円をどうやって稼ぐか。それが問題だ……」
200円ならほんの少し働けば稼げそうな金額であった。
「でも200円なら、アルバイトするほどじゃないよなぁ。そうなると……」
お題ゾンビは大声を張り上げ、
「ご町内の皆さん!軽ーくお困りの事があれば、私お題ゾンビが200円で解決しちゃうかもしれません!200円なのであくまで小さな事しかできませんが、小さな事でお困りの方は私お題ゾンビまで~。先着1名様限定・200円で小さなお手伝いをやっちゃうかもしれませんよーっ!」
仕事を募集した。
「その、かもしれないっていうのは曖昧だなぁ」
「いえ、それはあの、所詮は200円程度ですから、私の判断で金額に見合わない重労働だなぁと思ったら断っちゃうわけで。そういう意味でのかもしれないってわけで。はい」
「じゃあこっちも、頼まないかもしれない」
「がっくし……」
人々は遠ざかっていったが、
「遠ざかられるなら近付こう!」
しつこいお題ゾンビは逆に接近していった。
「ねぇねぇねぇ、200円で200円程度の軽い困りごとを解決しますよ」
「結構です」
「じゃ、そこの奥さん、200円で小さな悩みを……」
「間に合ってます」
「そこの兄ちゃん、200円でしてほしい軽いことないかな?」
「ねぇよ」
「いやいや、200円程度のして欲しい事ならなんかあるでしょ。肩もみとか、マッサージでも……」
「よし、たった今、200円の案件ができた」
「おお、それは助かる!肩もみですかマッサージですか?」
身を乗り出した途端、
「ごはーっ!」
お題ゾンビは強烈なパンチを喰らった。
「な、何するんです!?」
「丁度イライラしてたから、お前みたいなうっとおしい奴を一発ブッ飛ばしたかったんだ。スカッとさせてくれた礼に、ほれ200円」
暴力的な青年は、お題ゾンビに200円を握らせると足早に去っていった。
「いてててて……ありゃないだろう。暴力は犯罪だぞーっ!200円どころじゃなくて、200億円くらいの賠償金よこせーっ!そしたらたぶん世界一周旅行できちゃうんだからなーっ!」
叫んだところで、もはやどうにもならない。
「まぁいい……これで念願の旅行ガイドが買えるんだ……痛みを伴ってまで手にするのだから、平凡な旅行ガイドも貴重な一冊になるに違いない。待ってろ愛しの旅行ガイドちゃん!」
本屋へ戻ったが、
「だあーっ!ないぃいいい!」
最悪なことに、旅行ガイドは売り切れであった。
ふとレジを見ると、
「お買い上げ、ありがとうございましたー」
たった今、最後の一冊が買われてしまったところではないか。
「もう何分か早ければあああ!」
今更となっては後の祭りである。
「ここ以外の本屋というと……だいぶ歩くなぁ。電車使えば早いけど、電車賃を使えばガイドが買えなくなる。電車賃を稼ごうとするとまたもや殴られ……いかんいかん。もうあの痛みはこりごりだ。仕方ない。歩くしかないかな……」
お題ゾンビは諦めて次の本屋まで歩いた。
「着いた!」
到着すると、
「旅行ガイド一冊!」
真っ先に注文したが、
「はい。1850円になります」
「なにぃいいいい!?」
金額が違うと思ってみれば、それは別の旅行ガイドではないか。
「あ、これじゃなくて、もっと安いのください」
「当店で扱っている旅行ガイドではこちらが最安値になりますが」
「ダメだぁ……結局買えない……」
お題ゾンビはとぼとぼと本屋を後にした。
「次の本屋は……二駅も先かぁ……でも頑張って歩いても同じ展開になりそうだしな……」
どうしたもんかである。
「もういいや!こうなったら、空想旅行にしよう」
空想旅行とは、
「着いたぞ~アフリカの草原~おおっ、今度はモアイだ!」
実際の旅行を諦め、脳内のみで行う虚しい旅行妄想のことである。
「飛行機は欠航か……ならば仕方ない。この海を泳いで渡ろう。ザブザブザブ……」
妄想なだけにこのように何でもありなのは良いが、
「だあーっ!やっぱり妄想じゃ虚しい~!」
所詮は限界が見えていた。
「旅行くらいは生でしたいよなぁ……いっそ近場でもいいんだ。楽しかったあそこへ行きたい。思い出のあの場所へ行きたい……」
嘆いていると、
「やぁやぁ、君が噂のお題ゾンビくんかね」
謎の老人がお題ゾンビに声をかけてきた。
「そうそう。私が噂のお題ゾンビです。で、あんた誰?」
「こういうモンだよ」
渡された名刺に目をやると、
「旅行ガイド大明神……?」
確かにそう書いてあった。
「その通り。旅行ガイド大明神は、旅行ガイド神社に祭られている立派な神様なのである」
「そんな神様も神社も聞いたことないなぁ……」
「聞いたことないだろうから名刺を渡したんでしょうが!ともかく、君は旅行ガイドを手に入れて旅行しなければならない。そうだね?」
「はぁ」
「よろしい。ではお賽銭しなさい。全財産1500円」
「お、お賽銭!?」
「そりゃあ神様に会ったら、まずはお賽銭でしょう。君も前に自分の作ったキャラに要求してたよな」
「あ、あれはその、単なるギャグのつもりであり……」
「じゃあ今回も単なるギャグのつもりでお賽銭しなさい。お賽銭すれば、いいことあるよ……」
旅行ガイド大明神がちらつかせたものは、
「おおっ、旅行ガイド!」
ではないか。
「しかも1850円のいいやつじゃないですか!」
「どのみち買おうとしてたっていうのに、なんでお賽銭できないんだね」
「いやいやいや、そりゃもうしちゃいますよお賽銭!」
お題ゾンビは旅行ガイド大明神に1500円を渡し、
「なーむ……」
両手を合わせてそれらしく拝むと、
「よろしい。では受け取りなさい。旅行ガイド神社特性の旅行ガイドだ」
念願の旅行ガイドが手渡された。
「ははーっ、神様ありがたやーっ!」
お題ゾンビは有難がりながら旅行ガイドをめくると、
「おおっ、今度こそ本物のアフリカの大草原の写真だ!本物のモアイだ!飛行機も欠航してないぞ!」
実際に旅する前から大興奮である。
「ガイドを読むだけでこれだけ楽しめるなら、実際の旅行はもっと最高に違いない!」
そう思って期待を高めた途端、
「何だ!?」
突然、旅行ガイドに白い羽が生えたではないか。
「鳥でもないのに羽なんか生やしちゃって、神様何ですかこれ?」
「ああ、これこいつの特性。この羽でパタパタと飛んでいくよ~」
「それじゃあ旅行を支えるガイドブックの旅行ガイドじゃなくて旅行するガイドブックの旅行ガイドじゃないですか!」
「そういうことになるなぁ。それよりほれ、早くしないと見失うよ。なけなしの1500円分」
「それはまずい。おーい、待て旅行ガイド!」
お題ゾンビは旅行ガイドを追った。
「こら待て、逃げるな旅行ガイド!」
ひたすら追い続けたが、
「こんな時に電車賃さえあれば、先回りできて楽勝なのになぁ……俺の書いた『300円を追いかけて』じゃないけど。あー、疲れた。もう歩けないや。あんな変なガイドがあっても苦労するだけだし、もう旅行はやめとこう」
いさぎよく諦めてしまった。
すると、
「ん?」
ひたすら逃げていた旅行ガイドは急に向きを変えてスーパーへ入っていったではいないか。
「何だあいつ、スーパーの売り物にでもなるつもりか?」
店へ入ってみると、
「あっ!?」
なんと、旅行ガイドは食品レジで接客アルバイトを行っていた。
「旅行ガイドがレジの接客って……やり方分かってるのか?」
だが、不思議と間違えないものである。
「器用なやっちゃなぁ」
次から次へと作業をこなし、
「人手不足だったから臨時で入ってくれて助かったよ。はいバイト代」
店長からの給料を手にしたのだった。
「やったなぁお前……」
すると旅行ガイドは再び飛び上がり、
駅で切符を買い始めたではないか。
「旅行ガイドが電車に?あいつ、旅費を稼いでいたのか……でもなんで、電車なんか乗らなくてもその羽で飛んで行きゃあいいのに」
疑問を抱いたお題ゾンビだったが、
「えっ?」
なんと旅行ガイドはバイト代で買った切符をお題ゾンビに手渡した。
「俺用の切符?」
旅行ガイドは頷いて路線図の特定箇所を叩き、
「この切符で、俺にそこまで旅行しろって?」
ということを示したいようである。
「ははぁ、旅行ガイド大明神の旅行ガイドなだけあって、行き先をそっちで決めてくれるってわけか。考えなくていいのは便利かもしれないけど、こういうのは自分で考えるからこそいいんだよなぁ。勝手に決められたんじゃあ、迷惑だよ。どれどれ……」
お題ゾンビは改めて路線図を見ると、
「この切符の行き先よりも反対側の路線の方がいいなぁ。駅員さん、ちょっとこれ反対側のに変えて欲しいんですけどね」
「仕方ないなぁ。今回は特別ですよ」
駅員を呼んで切符を取り替えてもらった。
すると旅行ガイドは怒りを露わにして切符をハタき落とし、
落とした切符に35ページから発せられた謎の光線を浴びせると、
「ナニ―ッ!?」
その切符は反対車線行きのものに逆戻りしたではないか!
「駅員さん、またこれ……」
「知りませんよ。今回は特別だって言ったでしょ。二度も三度も特別はできません。もうそっち行けばいいじゃないですか。どうせその旅行ガイドの金で買った切符なんでしょ」
駅員に見捨てられたお題ゾンビは、
「おのれ、こうなれば……光線を出したのは確か35ページだったな。ならば53ページを……めくってやる!」
嫌がる旅行ガイドをむんずと掴んで53ページをめくると、
「さぁ、このページから光線を出せ!」
集中的にくすぐった。
53ページをくすぐられた旅行ガイドはたまらず光線を発射し、
「そらっ!」
お題ゾンビが切符に命中させると、
たちまち取り替えてもらった反対路線の切符に逆戻りである。
「思った通りだ。35ページから発せられる光線で切符を反対路線にできるなら、35の反対……つまりひっくり返して53ページからの光線を使えば元へ戻せるワケだ。その原理を瞬時で気付けた俺って天才!」
うぬぼれていると、
「あいてーっ!」
旅行ガイドの頭突きがお題ゾンビを直撃し、再び35ページからの光線で切符は元へ戻されてしまった。
「うぬっ、負けてなるものか!53ページ光線発射!」
お題ゾンビは負けじと反対路線の切符へ戻すが、そのたびに旅行ガイドもまた元の路線へ戻し、
既に電車は何本も通過していた。
「ハァ、ハァ、ハァ……そろそろ……決着を……つけようじゃないか……」
同じ事を何十回と繰り返してお題ゾンビも旅行ガイドもくたくたである。
「そうか……その手があったか……」
お題ゾンビはふと何かを思いついた。
「よろしい旅行ガイドくん。君の意見に従おうじゃないか。この切符で旅行してやるよ」
何か裏のありそうな素直さである。
「気が変わらないうちに、電車に乗って……」
電車が発射すると、
「うわぁ、いい景色だなぁ」
窓の外の景色を堪能した。
「こっちの路線にしておいて良かったなぁ」
おとなしく言う事を聞いたお題ゾンビに、旅行ガイドも満足そうだった。
時間が経過し、
「気持ちがよくなってきたところで、寝よう。グー……」
寝た途端、
「ハッ、ここはどこだ!?」
ガバッと跳ね起き、
「わーわー寝過ごしてしまった!何だか見たこともないところを走っているぞ。こりゃあ大変だ。わーわー!」
突然うろたえ出したかと思うと、
「わーわーわー!」
駅に停車した瞬間、電車を降りて反対路線行きの車両へ乗り換えたではないか。
旅行ガイドがとっさの出来事に混乱しながらお題ゾンビの後を追うと、
「わー大変だわーわー!」
お題ゾンビは発狂しながら旅行ガイドを掴み53ページ光線を切符へ浴びせて反対車線行きへ戻し、
「わーわー!」
ドアが閉まるタイミングを見計らって旅行ガイドを列車の外へ放り出した。
その時、ニヤリと笑ったお題ゾンビの一瞬の表情からは全ての策略ぶりが読み取れる。
要するに、1枚の切符で両車線の列車の旅を楽しもうというセコい魂胆である。
「わーわー……はもう落ち着いたのでやめやめ。そうそう、こっちの路線に乗らなきゃならなかったんだよ。うっかり間違えて乗ってしまってなぁ、はははは!」
乗客が呆れ顔でもお構いなしのお題ゾンビだった。
「目障りな旅行ガイドもいなくなったし、これでゆったりと旅行ができるぞ。今度こそ本当に寝ちゃおうかな。いやいやいや、せっかくの車窓の旅をぐーすか寝過ごしてしまっては勿体ない!窓の外の美しい景色を眺めまくり、楽しい旅行気分に浸ろう。ここからが本当の旅の始まりだ!」
快適気分で車窓の旅を満喫していたが、
突然、天候が怪しくなってきたではないか。
「嫌だなぁ、一雨くるのか?せっかくの快適気分が……」
お題ゾンビがぼやいた時である。
「一雨どころではない!二雨も三雨も五雨も十雨も、百五十雨ほど降らしてくれようぞ!」
邪気に満ちたおぞましい大声が車両アナウンスに響き渡った。
「う、うるさーい!百五十雨ってなんだ?」
「百五十雨とは……これだ!」
再び大声が響いた直後、
ゴロゴロゴロ……
近くで雷鳴が轟き、あっという間に外は大雨となった。
「わぁ、すごい降ってきたなぁ」
「そんな呑気なものではない。これはほんの五雨程度だ。残りの百四十五雨分、しっかりと受けてもらおうか!」
「そんなに降らさなくていいよぉ……」
「そんなに降らしてやる!十雨、二十雨、四十雨!」
数の倍増と共に、雨量はますます激しくなっていく。
「八十雨……百雨!」
「まるで洪水のようだ」
「驚くのはまだ早いぞ。百十雨……」
「洪水のようというより、本物の洪水だこりゃ……」
「百二十五雨……」
「う、うわあ!俺の座席の真上だけ雨漏りがあ!……席替えよう」
他の座席に座ると、
「わあ、今度はこっちで雨漏りが……うひゃーっ、冷たい雨!」
今度はそこが雨漏りし、何度席を移動しても同じ事の繰り返しだった。
「雨漏りの威力が上がるぞ、百三十雨だ!」
「ひーっ、威力どころか冷たさも増してますがな!」
「何だその突然の関西弁モドキは。まぁいい。ここからが本番だからな。行くぞ、百四十雨!」
「ぶわーっ、何だかいかにも百四十って感じの大雨だ!」
「百四十五雨!」
「わぶーっ、あ、あと五雨だ。残り五雨を何とか耐えきれば、この雨地獄から抜け出せる……」
「いい覚悟だ、ならば残り五雨を耐えきれるか試してやろう。トドメだ、百五十雨!」
「い、いよいよ来てしまうのか……」
お題ゾンビは覚悟を決めながらも濡れた寒さと恐怖で震えた。
「ゆくぞおおおおお!」
「ゆかないでぇええええええええ!」
お題ゾンビが悲鳴を上げた瞬間、
「ぶわあああああーっ!」
雨漏りが滝水のようになだれ込み、車内はたちまちお題ゾンビを飲み込んで洪水となった。
「わぶぶぶ、このままじゃ溺れて沈んでしまう。誰か―ッ!」
助けを求めるお題ゾンビだが、彼以外の乗客たちは雨漏り洪水の被害を受けていない安全な車両から冷ややかに溺れるお題ゾンビを見つめているだけである。
「同じ乗客が溺れてるっていうのに、あんたらは血も涙もないのかーっ!おい、しゃしょーーーっ!」
お題ゾンビは車掌を呼んだが、
「車掌は運転に忙しいのだ。お前のような違反乗客などに構ってられんはずだ。それより百五十雨の洪水地獄の味はどうだ!」
「味で言ったら口の中に雨水が入ってきてしょっぱいことしょっぱいこと!もう勘弁してくれ~!」
「勘弁ならん!もっと溺れてもらおうか。」
「溺れてる溺れてる。もっともっと溺れてる。もう充分に溺れさせてもらいましたよ!」
「そんなふざけたことが言える間はまだまだ懲らしめ足りん。表へ出てもらおうか!」
「あれーっ!」
洪水の流れが変わり、その体はドアを突き破って外へと押し流された。
「違反乗客って言ったくせに、これじゃあ停車駅の改札まで辿り着けないんだからタダ乗りだーっ!」
「それはいかんなぁ。百五十雨による洪水地獄の刑だ!」
「誰だか知らんがあんたがタダ乗りさせたんじゃないか……わぶーっ!」
「その通り。私がタダ乗りさせたのだ。だからこうしてお前を懲らしめ、責任を取っているのだ!」
「責任の取り方、間違ってますーっ!」
「間違っておらん!私が誰だか分かっていないのなら口答えするな!」
「口答えするには……誰だか分からないといけないのか。それなら俺を洪水地獄の刑にする声の主が誰なのか当てて口答えし、洪水を止めさせなくては。うーむ、声の主は一体誰なんだろうか……」
「私が誰か分かるかな?一応はお前が知っている人物だが、声は加工してあるのだぞ」
「加工されたらどうしようもないよなぁ。声に頼らず、俺にこんなことをしそうな人物といえば……分かったぞ、雷神様だ!」
「違う」
「じゃあ、総額300300300300300300円もの借金を抱えた例の青年!」
「奴に百五十雨を発動する力があれば、とっくに総額300300300300300300円もの借金を返済しているだろう」
「それもそうか……なら、他にはどのキャラが当てはまるかなぁ……」
「案外、つい最近会ったばかりの奴かもしれんぞ?」
「つい最近会ったばかりの奴というと……分かった、切符を替えてもらった駅員さんだ!それなら俺のセコいやり方に怒って百五十雨降らすのも納得できるしな」
「おしい!」
「ならばその上司の駅長さん!どんな人か知らんけど」
「うーん、答えから遠ざかってゆくなぁ。そしてお前はどんどん流されてゆくなぁ」
「流れたくあらーん!早く答えに辿り着かないと、このままでは溺れ死んでしまう……」
「ま、旅行ガイド大明神様にありがたくも譲って頂いた旅行ガイドを粗末に扱ったのだから、溺れ死んでも致し方あるまいな」
「旅行ガイド大明神様……?そ、そうだ分かったぞ!声の主は旅行ガイドを粗末にされて怒った旅行ガイド大明神様だ!」
「正解!だがこっちから答えを教えてやったようなもんだからなぁ。賞品はやれんよ。まぁクイズ番組じゃないんだからそんなものはないけどな」
「温厚そうだった旅行ガイド大明神様が、ここまで怒るとは……」
「ここまで怒らせるような事をしておいてよくもそんな事が言えるな。私の可愛い旅行ガイドに対する仕打ち、許しがたい!」
「いやあれはその、モゴモゴ……」
「あれはその、何だって言うんだ。え?」
「だからその、モゴモゴですよ……」
「そうか。モゴモゴはいかんなぁ、モゴモゴは!」
「い、いかんでしたな……」
「まぁ、もうそろそろ楽にしてやってもいいだろう」
「おおっ、そりゃ助かります!」
「そのために、ほれ」
声と共に、お題ゾンビに向けて一冊の旅行ガイドが投げ渡された。
「ん?何だこれは。また旅行ガイドか。なんか物騒な絵だけど。なになに、『地獄旅行』……」
「楽になってからの旅行先だ」
「ひぇええええ!楽になるってそっちの意味じゃなーーい!」
「楽になれー!」
「楽になら―ん!」
お題ゾンビが頭を抱えてうずくまると、
「ぶわーっ!」
激しい洪水に全身を押し流され、何も分からなくなってしまった……

「う、うーん……」
時間が経過し、お題ゾンビは確かに意識を取り戻した。
「ここは……?そうだ、地獄だ。ひぇええええーっ!きっと今におぞましい鬼達が来て俺の舌を抜いたり、釜でゆでたり……その他には何があったっけ……まぁいいや。ここで考えなくても後にこの身をもって知ることになるだろう。……って、ちっともよくないじゃないか!あな恐ろしや……」
そう思って震えたが、
「ん?」
辺りは普通に人々が行きかう平和そうな町である。
「なんだ、地獄だなんてコケ脅しじゃないか……」
「それは違うぞ!」
その加工がかった声は紛れもなく旅行ガイド大明神のものである。
「ここは確かに地獄だ。しかし、お前たち人間が想像している地獄とは違う」
「じゃあどういう地獄なんです?」
「現実地獄……いや、現実という名の地獄だ」
「現実という名の……現実!?ということは、まさか……」
お題ゾンビは恐る恐る近くの鏡を覗くと、
「ぎぇーっ!」
そこにはおぞましいゾンビが……
映っておらず、そこにいたのは人間の男ではないか!
「戻ってるー!?つ、つまり、つまりこれは……」
「そう。お前は違反乗車の罰としてこの現実世界へ引き戻されたのだ」
「そうなのですか……まぁいいや。元々は俺、こっちの世界の住民だし」
「果たして『まぁいいや』かな。お前が長らく離れていた間、この世界は変わった。疫病の萬栄は向こうの世界でも同じ事だったが、それによってかよらずか人々の心は荒み果て、今や恐ろしい世の中となったのだ。そこに落ちている新聞を読んでみろ」
お題ゾンビだった男が言われた通り近くに捨てられていた新聞に目を通すと、
「『また誰々を狙った殺人事件か。今週で10件目』。その次は……『1日で20回犯罪に遭った被害者の体験談』……次が……『凶悪犯が脱走。町は大パニックに』……」
一息ついて叫んだ。
「犯罪ネタばっかじゃないかーっ!」
「その通り。そしてこれが、一週間前の新聞だ」
声と共に空から降ってきた新聞を取って読んでみると、
「『相次ぐ殺人事件。犯人の動機は機嫌が悪かっただけ』……『悲しみに暮れた犯罪被害者が凶行に。止まらない悪循環』……」
またも犯罪ネタばかりである。
「そしてこれが、一ヶ月前」
読んでみると、
「……だーっ!もういい!」
書いてあるのは同じようなことばかりだった。
「分かったか。今やこの世界は荒み果て、犯罪大国となったのだ。これを地獄と言わずして、何を地獄と言おうか」
「確かに地獄だなぁ……」
「そして今、お前を本物の地獄へ送ろうとする者がやってくる」
「それ誰のことです?」
「あいつだ!」
男が近くを見ると、
「……」
虚ろな目をした少年が無言で近付いてくるではないか。
「……↓↓↓」
「ん、何だって?」
少年の発した奇声のようなものの意味を確かめている暇はなかった。
彼は平然とした態度でポケットから包丁とピストルを取り出したのである。
「ウ、ウソだろ!?」
「……( `ー´)ノ( `ー´)ノ」
言葉にならない奇声を発しながら少年はじりじりと男ににじみ寄る。
「ひ、ひいいいいいいいいいっ!」
男はひたすらに逃げ、
少年はひたすらにそれを追い、ピストルを乱射した。
「おまわりさん、助けてーっ!」
逃げる途中で警官に助けを求めたが、
「あ、申し訳ない。本官ね、別の殺人事件で忙しいの。今日で9件目でしょう。あんたが死んだら10件目か。そんじゃ頑張って!」
「そんな薄情なぁ!」
あてにならなかった。
そうこうしているうちにも、どんどん青年と男の距離は縮まってゆく。
「現実恐いよーっ!助けて誰か―ッ!」
お題ゾンビは違反乗車で神を怒らせ、こうして地獄の現実へと叩き落されてしまった。
果たして、お題ゾンビはこの厳しい現実世界を生き残れるのだろうか?



働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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