小説

土とともに #1

「今度、久々に会おうよ」
急に学生時代の友人から連絡が来た。ここ最近、昔の知り合いとはまるで連絡をとっていなかった。僕は高校を卒業してから、内定が決まっていた会社に就職した。もう今の会社に入社してから4年が経つ。その間はまるでやりとりをしていなかったのだから、僕は参加するか迷った。
「急すぎるし久々すぎる…」
当然、僕以外にも同級生は来るだろうが、見知った顔が来るかはわからない。あまり社交的な性格ではない僕は、学生時代もそうだった。だから、参加したとて話したいようなこともないし、みんなの現状にも特に興味はないのだ。
「今回は断ろう…」
結論として参加しないことを心に決め、返信の文を入力しようとしたちょうどその時、彼から追加のメッセージが来た。
「一応、場所は横浜にしようと思ってる。あとメンツは○○、○○、○○…」
どうやら参加する人数は思っていたほどでもないらしい。文は続いている。
「○○、○○、相田、○○…」
一つの名前に目が留まった。
「相田 若菜(あいだ わかな)」
学生時代、僕が思いをはせていた人だ。結局自分の気持ちを伝えられぬまま卒業してしまった。彼女とはそれ以来、一度も関わりがないままだ。卒業してから4年が経過した今でも、彼女への気持ちは変わらないままでいる。このモヤモヤは最近薄れかけていたが、今回の話で閉じかけた蓋が思い切り開くように気持ちに火がついてしまった。
「これは行くしかない…」
僕の心は早々と切り替わった。さっきまで入力していた文を消して参加する旨の文へ修正し、送信ボタンを押した。
「これでようやく長年のモヤモヤから解放されるかもしれない…」
期待と不安を胸に、僕は当日まで頑張ろうと決めた。

それから一か月ほどが経過した。僕は待ち合わせ場所である横浜へと向かった。自宅から電車で30分ほどの距離だ。約束の時間より一時間ほど早く着いてしまったため、しばらく暇をつぶすことになった。
いつ来てもここは人が多いし、空気もきれいとは言えない。地面にはゴミが無造作に転がり、下品な笑い声が響いている。いくら日本一の市人口を抱えている横浜といえど、本当の都市である東京にはかなわないのだ。こんな治安の悪い場所だけが目立ってしまっては、横浜出身だというプライドが引き裂かれてしまいそうだ。
そんなことに内心イライラしながら、横浜駅周辺を歩き回っていた。だが、時間をつぶすのが苦手な僕には一時間は長すぎた。20分ほど経ったあたりで、ぶらぶらするのに限界がきたからだ。しかし、あと40分くらいは結局暇なのである。仕方がないので、その辺りにあった座れるスペースに腰をかけた。一つため息をつき、空を見上げる。昔の色々な記憶が頭の中にこみ上げてくる。
「4年間、会うどころか連絡だってしていなかったのに、みんなの輪の中に入れるのだろうか…」
いくら学生時代の友人といえど、4年も経てばみんなの変化も相当なものだろう。だんだんと行く気がなくなってきた。せっかく「彼女」に会える機会だというのに。
「そもそも、彼女と会えたところで何を話すんだ。」
急にそんなことが頭をよぎった。当時、特にアピールをしていたとかそういうこともなかったし、授業でたまに同じグループになったことがあるくらいだし、そんな関係性で何を話すというのだろう…。更に行く気が薄れてきた。
「あぁ、どうしようかなぁ~…」
僕は頭を抱えた。ここまで来て参加するのかしないのか、悩みがぶり返してきたのであった。頭を抱え込み、目を閉じて考える。
「僕は彼女には会いたい。でも、彼女以外の人と話すのは嫌なんだ。そう、彼女と会えればそれで良いんだ。だから、彼女に会えたら早めに帰ろう。」
僕はそう自分に言い聞かせた。そう何度も言い聞かせる最中、ふと変化に気が付いた。先ほどまで聞こえていた都会の雑踏がだんだんと薄れ、静かになっていったのである。そして次に、体が重くなっていく感覚がした。地面に吸い込まれるような、不思議な感覚だった。体はなぜか動かない。
「これは金縛りかなにか?」
とても現実味を帯びていない特殊な感覚に、僕自身は理解ができなかった。それは、体感にして10分ほど続いた。

#2につづく

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