「ヒッヒッヒ。今日も儲かったぜ」
銀行強盗は札束を数えながらニンマリと笑った。
「あのゾンビ、かなりの高額持ってたなぁ」
「お疲れ様でーす」
銀行の受付の女の子が銀行強盗に声をかけた。
「おう、お疲れ!」
銀行強盗は受付の女の子に満面の笑みを向けた。
「今日はまたずいぶんと沢山巻き上げられたんですね」
「いやぁ、チョロいもんさ。ねぇねぇ、俺ってカッコいい?」
こうとう銀行は過去に何件も銀行強盗の被害に遭っている不幸な銀行だった。
責任者は悔しさのあまり「客を見たら強盗と思え」との思考を抱いて闇ルートから本物の拳銃を入手し、巻き上げられる前に巻き返せと囁いて銀行員に銃を与えた。
こうして銀行員が銀行強盗として客から無差別に金を巻き上げることで、今までの悔しさが晴らせる。
撃たない、殴らないを条件に、警察への賄賂で犯罪が罪に問われることはなかった。
銀行強盗に選ばれた男は強すぎる愛社精神から役を引き受けていたが、次第に犯罪が楽しくなってしまい今に至る。
そんなある日だった。
「金を出せ!」
銀行に本物の銀行強盗が押し入ってきてカウンターに拳銃を突き付けた。
「お前こそ金を出せ!」
こうとう銀行の銀行強盗がすかさず強盗に銃を突きつけ返す。
「ど、どうして銀行員が拳銃持ってんだ」
「しれた事よ。俺はこの銀行で強盗として働いている銀行強盗だ。銀行を襲う方の銀行強盗が飛び込んでくるとは丁度いいぜ。今まで盗んだ金を全部出しな!」
銀行強盗は本物の強盗の出現に心を震わした。
俺はこの銀行の用心棒でもある。俺の真の力を見せる時が来た。もう巻き上げさせない。反対にがっぽりと巻き上げてやるぜ。
そして銀行強盗には、カッコ良く強盗を追い払いことによる本当の目的があった。
「銀行で強盗やってるから銀行強盗だと?変な野郎だ。だがな、俺もいつでもこいつをおだぶつに出来ることを忘れるな!」
見ると、強盗の銃口は受付の女の子に向けられている。
「イヤ、助けて!」
「ぐぬぬぬ……」
受付の女の子が犠牲になっては、銀行強盗の本当の目的は果たせなくなる。
「お前は三流だな。一流の銀行強盗なら、自分さえよければ周りの人間なんてどうでもいいと思うものだ。仲間思いな甘ちゃん野郎に銀行強盗を名乗る資格はない!」
「俺は仲間思いなんじゃない」
「じゃあ何だ」
「下心だ」
「下心だと?」
「ぐへへへへ……」
女好きの銀行強盗は、受付の女の子に恋をしていた。
「薄気味悪い奴」
強盗が気味悪がった。
「私もそう思う」
受付の女の子が同意した。
「がちょおおおおおおーん!」
銀行強盗が失恋のショックで拳銃を落とすと、強盗はすかさずそれを拾い上げて銀行強盗に二丁拳銃を突き付けた。
「さあ、金を出せ!」
その姿に、
「素敵なお方……」
受付の女の子は恋をした。
銀行の大金を奪われた上、受付の女の子が強盗と駆け落ちして行方をくらました。
「メェー」
失恋のショックで銀行強盗としての自信をなくしてしまった男はヤギの着ぐるみを着た「銀行ゴート」になってしまった。
「おいしそうな千円札……おいしそうな一万円札……」
ヤギになって紙を求めるようになり、銀行のお札を狙うのだ。
残された銀行員たちは銀行ゴートに札束形のお菓子を与え、ひとまずその場をしのいでいる。
「おいしいメェー」