小説

土とともに #20(語られぬ現実)

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 僕が中に入ると、扉は一人でに閉まり消えてしまった…そして、この空間は明るさを増した。周りが白すぎて、自分がどういう状態なのかも分からない。
「「ウール」よ…聞こえるか?」
 突然、声が響いた。ついさっきも聞いた声だ。僕は声の主に問いかけた。
「…「中大臣」…ですか?」
 声の主は返答した。
「そうだな、私の名前は本来定まってはいないのだが…彼らの呼び方を借りるなら私は「中大臣」だ。」
 少し複雑な言い方だが、当人のようだ。
「そうですか…ここは一体?」
「ここは「二つの世界の中間点」だ。この空間に入れるのは「空人」と私だけだ。」
「…じゃあこいつも「空人」ってことですか?」
「うむ。」
「えっ…」
「まぁそいつについて知ったところで、君の今後に影響がでることはないがな。」
「今後?僕はこれからどうなるんですか?」
「うむ。とりあえず、今君の体内に吸収されているエネルギーを全て抜く。そして、元の世界へ帰す。」
「「中大臣」、僕は結局なんのためにあの世界に行ったのですか?」
「うむ…そこは今の君にいくら説明しても意味がないのだ。」
「今の僕?意味がない?」
「まぁそこは気にするな。ではいくぞ。」
「えっ?」
 その言葉とともに、彼は僕に手をかざした。そして、僕の体内にあったエネルギーを全て取り除いた。
「よし。これで「力」の源は断った。あとは君を帰すだけだ。」
「ちょっと「大臣」、待ってください!」
「いや。もうこれ以上、君がここにいる意味はない。それではな。」
「「大臣」!」
 僕の言葉を聞くことなく、彼はどこかへ去っていった。そして、白い光が強くなり僕を包み込んだ。僕は何も見えなくなり、次第に体から力が抜けていった…気が遠くなっていく…
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「うーん…」
 気が付くと僕は地面に寝転がっていた。身体を起こそうとすると、突然視界に人の顔が入りこんだ。
「うわっ!?」
 僕は驚き、再び地面に転がった。
「…大丈夫かい?」
 顔の主はそう言った。
「えっ…?あっ、はい…」
 僕は状況が飲み込めなかったが、そう返した。
「そうかいそうかい。それはよかったよ。なにせ、ここを通りがかったら人が倒れてるもんだからね…それはそれは驚いてさ。」
「あ…あぁー、なるほど…」
 その人は、見た目からして50代くらいの男性だった。どうやら倒れていた僕を発見し、気にかけてくれていたようだ。
「身体のどっかが痛んだりはしていないかい?」
「はい、大丈夫です。」
「そうかい…一体何があったんだい?その様子だと誰かにやられたわけでもなさそうだしね。」
「それは…」
 僕は返答に困った…おそらく「中大臣」がこうしたのだろうが、そんなことを言って信じてくれるとはとても思えない。そもそも、ここは一体どこなのだろうか?「空の世界」に戻ってきたのか、それとも「土界」のまた違う場所なのか。
「ちょっとよく覚えてなくて…ちなみに、ここってどこですか?」
「なんだい、あんた自分でここに来たわけじゃないのかい?それじゃ誰かに誘拐でもされたのかい!?」
「いや、それは決してないんですけど…」
「そ、そうかい。ならいいんだけどさ…ここは横浜市中区の大通り公園っちゅう所さ。」
「中区…大通り公園ですか…」
「そうそう。ここらはあんまり治安が良くないのさ。今回はたまたま俺が君を見つけたから何もなかったけどさ。夜にここらを歩くのは気を付けたほうがいいよ。」
 僕はこの場所を知っていた。なぜなら昔、友達とよく遊びに来ていたからだ。ということは、ここは間違いなく「空の世界」だ!僕は戻ってきたのだ、元の世界に。色々とスッキリしない部分はあるが…
「…あの、ありがとうございました。もう大丈夫そうです。」
「そう?一人で帰れるかい?帰り道、分かるかい?」
「はい、大丈夫です。」
「ふーん…じゃあ気を付けて帰るんだよ。変なことに巻き込まれないようにね。なんかあっても、今度は助けてあげられないからね。」
「はい、気を付けます。それでは。」
「うん。気を付けてね。」
 彼にお辞儀をし、ひとまず最寄りの駅に向かった。辺りはすっかり暗くなっていた。とりあえず日付と時間を確認するため、ポケットに入っていたスマホを取り出した。電源ボタンを押すと、画面に大量の通知が表示された。
「うわっ…」
 とりあえずそれらの確認は後でするとして…日付と時間を見た。画面には「20:28 9月1日 火曜日」と映っていた。
「えっ?これは…2019年の?」
 僕は混乱した。僕が「土界」に行った日、この世界は2019年9月1日だった。そして、僕は向こうで一晩を明かした。なので、普通に考えれば今日は9月2日のはずなのだ。なのに、スマホには9月1日と表示されている…よく分からない。向こうの世界の時間の経ち方が違ったということなのだろうか…それともまさか…「夢」?いや、でも僕は横浜駅周辺にいたはずだ。仮に居眠りをしたとして、ここに来ることはあり得るのだろうか…?
 すると突然、スマホが鳴った。相手は僕を同窓会に誘った彼だ。
「もしもし?聞こえる?」
「うん…」
「お前さぁ…心配したんだぞ!一体今までどこでなにしてたんだよ!?」
「いや、それが…」
「なに?」
「自分でもよく分からなくてさ…」
「はぁ?どういうこと?」
「いや、横浜には行ったんだよ。待ち合わせの1時間前に。で、時間をつぶそうと思ってその辺をぶらぶらして…それでも時間があまったから公園のベンチでしばらくボーっとしてたんだよ。そしたら、そこからどうしたのか覚えてなくてさ…」
 僕はあえて「土界」のことを言わなかった。どうせ信じてもらえないだろうと思ったから。
「何それ?覚えてないって、それ大丈夫なの?それに公園って…どこの公園だよ?」
「えーっと…ほらあそこだよ。ビブレの奥の方にある…」
「えっ?そんな所に公園なんてないぞ?どこと間違えてんの?」
「へっ?そんなバカな…」
「いや、後でMapアプリ使って確認してみ。絶対ないから。100パーないから。」
「う、うん…」
「とにかくさ、今度また会って話そう。今回の会費も払ってもらわなきゃいけないし。」
「それは…そうだね…」
「…こっちもさ、別に責めたくてこう言ってるわけじゃないんだよ?ただその言動を聞く感じ、相当お疲れのようだね。今日はゆっくり休めよな。」
「う、うん…そうみたい…ごめんね…」
「まぁ、皆にはうまく言っといたし、また今度やることになったからさ。そんなに気にする必要ないから。」
「うん…ありがと…」
「まぁ、また連絡するわ。じゃあな。」
「うん、じゃあね…」
 そうして、彼との通話は終わった。

 なんということだ…僕が行ったあの公園は実在しない!?確認のため、Mapアプリを開く。そして、自分が行ったであろう場所を見てみると…そこには彼の言ってた通り、公園などなかった。じゃああの公園は一体?僕が行ったあの世界は?その真相を調べようにも、実在しないものを調べるのは不可能だ。それに、全身に疲労が見える…これ以上何かをする気はとても起きない…
 僕は最後の気力を振り絞り、家へと帰った。到着すると同時に、僕は布団へ倒れこんだ。
「もう…無理…」
 そしてそのまま眠ってしまった

 翌日、僕は目を覚ました。それはいつもと変わらない朝だった。僕はスマホを見た。「6:31 9月2日 水曜日」と表示されている。今日は出勤の日だ。いつものように朝の身支度をし、朝食を食べた。そして、家を出る。会社に向かう途中の風景も何ら変わりない。まさに「いつも通り」だった。
 そしてそれ以来、僕が再びあの世界に行くことはなかった。結局あの世界はなんだったのか…その真相を知ることもできず、ただただいつもの日常が流れていくのだった。

Doubt End

あとがき

 皆さんこんにちは、作者のRxy Doです。当作品をここまでご覧いただきまして、ありがとうございますm(_ _)m
 本来この作品はもっと続く予定でした。しかし、僕自身が次のステップへと進むべく退所する運びとなったため、急遽内容を変更いたしました。その結果、スッキリしない終わり方となってしまいました。この結末にモヤモヤした方もいらっしゃるかと思います。
 そこで、僕が書きたかった本来の結末へ向かうお話を投稿するべく、ブログを開設いたしました。僕はもともとYouTubeでも活動しているため、今後はそちらのハンドルネーム「ジャックアール」を使用して執筆活動を継続していきます。(#1~#13までの内容は同じです。)
↓ブログへは下のリンクをクリックまたはタップで行けます。↓

ジャックアールの拠点

  改めまして、ここまでの閲覧本当にありがとうございました。これからは他のサイトでの活動となりますが、引き続き応援していただけると嬉しいです(^^)
 それでは、また新しいブログでお会いしましょう(.-_-.)

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