小説

土とともに #19(その危機は突然に)

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 「お前!?まだ意識があったのか!」
「あぁ、もちろん!よくもやってくれたな!ここまでやられて、そう簡単に帰すわけにはいかないんだよっ!」
「くっ…あれでもダメだというのか…」
 「大臣」は険しい顔をした。
「ああ!危なかったよ!君たちが持ってきた「あれ」がなければな!」
「「あれ」?なんだそれは!?」
「おいおい、思い当たることはないのかい?この世界で手に入れた物の中でな!」
「この世界で手に入れた物…?…ハッ!もしかして…あの「隕石」の中に入っていた四角い箱の中身のことか!?」
「そうだ。私は「あれ」が届くのをずっと待っていたのだ!予想とは違う形になったが…こうして無事、私の手元に来たのだ!」
「えっ!?だって、「あれ」は僕の懐に…あれっ、ない!?」
「ああ、君たちが倒れている間に頂いたのさ。これで私は実行できる!」
 彼はそう言うと、懐から例の物体を取り出した。それは紫色の怪しい光を放っていた。
「はぁぁぁっ…感じる、感じるぞ…私が求めていた「力」を…!」
 その様子・発言はとても厨ニくささを感じるが…その物体は本当に何かしらのエネルギーを秘めているようだ。彼の体はみるみる怪しい光に包まれていく…
「「大臣」!あれは一体何が起こっているんですか!?」
「うん。おそらくあの物体は「空の世界」からやってきたものだ。奴は何かしらの方法で「空の世界」の物体を持ち込み、それに宿った「力」でこの世界に良からぬことをもたらすつもりのようだ。」
「良からぬこと?」
「うん。具体的なことは僕にも分からない。でも、あの「力」…この世界全体に影響を及ぼすものであることは確かだ。」
「そ、そんな…何か阻止する方法は…」
「そんなものはあるわけがない!この世界の中では、これを越える「力」を生み出せるものは存在しないのだからな!」
 なんだか、ド定番のRPGをプレイしている気分だ…さきほどから流れていく言葉の全てにその要素を感じる…だが、この状況を打開するための解決策を考えなくてはならない。それは確かだ。こういう時、大抵は見つかるものだが…
「フフフ、ハハハハッ!考える隙など与えぬわ!フンッ!」
 「あいつ」はそう言うと、右手からエネルギーの塊のようなものを投げてきた。それは真っすぐ「大臣」に向かって飛んで行った。
「「大臣」!危ない!」
 僕はとっさに彼の前へ飛び込んだ。自分でもわからないが、体が勝手に動いていた。
「ウール!」
 彼は僕の名前を叫んだ。
「バチンッ!」
 大きな爆発音が響く。
「フハハハハ、この弾を自ら受けに行くとは…馬鹿な奴め!」
 奴は高らかに笑った。しかし、僕は痛みも何も感じなかった。
「?何ともないぞ…?」
「何!?どういうことだ!?」
 確かに僕の背中に当たったはず…これは一体?
「そんな馬鹿な!?こんなことはありえん!フンッ!」
 奴はそう言って、さっきと同じエネルギーの塊を再び投げた。
「バチンッ!」
 またも爆発音が響いた…これもまた僕の体に当たったようだが…やはり何ともない。
「なぜだ!?」

 その様子を見た「大臣」は、冷静にこう言った。
「ふむ…おそらく「空人」であることが関係しているかもね。ウールもあの物体に触れていたんだ、奴と同じ「力」が宿っていてもおかしくない。」
「なるほど…じゃあ今なら奴をどうにかできるかも!?」
「うん。ウール、とりあえず突っ込んでみるんだ!今はそれしか策がない!」
「えぇ…わ、分かりました…」
 その突発的な提案に若干の不安を感じたが、仕方ない。今はそれしかないのだから。自分にそう言い聞かせ、僕は奴の懐へ突っ込んだ。
「うぉぉぉ!」
「な、何をする!?やめろ!」
 奴は僕を振りほどこうともがいた。しかし、僕は必死でしがみつく。すると、奴の体に取り込まれていたエネルギーが僕の体へ流れ込んできた。次第に奴の「力」は弱まり、エネルギーの全てが僕の体内へと取り込まれた。
「う、うぅぅ…」
 奴はその場へ倒れこんだ。僕の体はあふれ出る「力」により、焼けるように熱くなっていた。

「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ウール!」
 「大臣」が駆け寄ってくる。
「大丈夫かい?」
「はい、何とか…でも、僕の体は一体どうなってしまったのでしょうか…」
「うーん…奴ほどではないが同じ「力」を感じる…少し弱いけど、十分危険だ。」

「そんな…」
「そのエネルギー…早くどうにかしないと大変なことを起こしかねないな…」
「ど、どうすればいんでしょう?」
 僕はとても不安になっていた。せっかく「あいつ」の企みを阻止できたと思ったのに、今度は自分がそれを起こしかねない状況になってしまったからだ。
「うーん…僕もできる限りは考えてみてるけど…」
 彼は必死に対策を考えてくれているようだが…多分、ないだろう…なぜなら、この世界にこの「力」を超える「力」は存在しないのだから…すると突然、どこからともなく声が聞こえてきた。
(その「力」はこの世界に存在してはいけない…君は今すぐ元の世界へ戻るのだ…さもなくば君の体は暴発を起こし、この世界に多大な被害をもたらしてしまうだろう…)
「こ、この声は…?」
「今のが聞こえたのかい!?今のは「中大臣」の声だ。」
「な、「中大臣」!?なぜ彼の声が…」
 と、再びその声は響いてきた。
(そこに倒れている彼、彼を連れそこの扉を開けるのだ…その先はもうこの世界ではない…今の君ではこの世界にこれ以上干渉できない…再びその時が来たら君はまたここに来るやもしれぬが…)

 それを聞いた「ポペラ大臣」が、驚いた様子で言った。
「な、なんだって?だって彼は…「二つの世界の均衡を保つ者」のはず!つまり、この状況を変える力も持っているはずだ!」
(いいや…今の彼にその力は宿っていない…二つの世界の均衡を保つべくは「今の彼」ではないということだ…)
「い、一体何を言ってるんだ…じゃあなぜ彼は今ここにいるんだ!?」
(それは…言葉では説明できぬ理由があるのだよ…)
「またそれか!とにかくわかるように説明し直してくれ!」
(それは不可能だ…さぁ「ウール」よ…その彼を連れ、扉の中へ入るのだ…)
 彼は「ポペラ大臣」の要求を流し、僕に扉に入るよう促したのだった。僕は返答した。
「分かりました…あなたの言う通り、こいつを連れて扉に入ります…それ以外の方法はどうやらなさそうですし…」
「ウール…」
「「大臣」、短い間だったけどありがとうございました。「右大臣」とアージャにもそう伝えてください。」
「うん…わかったよ…」
 彼は肩を落とし、しょんぼりとしていた。そういえば、彼の独特の口調はいつの間にかなくなっていた。理由はよくわからないが…
「それでは。」
「うん…」
 僕は「あいつ」を背負い、扉を開けた。扉の中は、辺り一面が白く光り限りの見えない空間が広がっていた。僕は腕で目を覆いながら、その中へ入っていったのだった。

#20へつづく

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