小説

土とともに #16(焦げた墜落現場)

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 僕は早足で歩いていた。彼らがすごく早いペースで歩くからだ。少しでも速度を落とそうものなら、あっという間に置いていかれてしまいそうなほどに。
「ハァ…ハァ…あ、あの…もうちょっと、ゆっくり歩きませんか…?」
「ダメ!時間は待ってくれないんだヨ!?もう少しだから頑張っテ!」
「えぇ~…」
 今までの彼とはどこか様子が違う。「神」というわりには、どこか心のゆとりがないように見える…それにデスクワーカーの僕にとって、この運動量は単純にキツい…なんだか周りの景色がチカチカしてきた気がする…
 それから数分後、僕の足はおぼつかず今にも倒れそうな状態になっていた。もう限界だ…そう思った瞬間だった。
「ウール!よく頑張ったネ!到着したヨ!」
 彼がハキハキとそう言ったのであった。しかし、僕にはまともに返事をする気力さえ残っていない。
「ハァッ…ハァッ…やっ…と…着いた…んですか…?…ハァッ…ハァッ…」
「うん、そうだヨ。お疲れ様!…その様子だと今すぐ事を進めるのは難しそうだネ…とりあえず息が整ってからにしようカ。」
 僕はその言葉を聞いたのと同時に階段の段差に座り込んだ。そして息が整うまでずっとその体制でいた。
「ふぅ…すみません、お待たせしました。だいぶ落ち着いてきたみたいです…」
「うんうん、良かった良かっタ。それじゃ、まずはこれを見てもらいたいんダ。」
 僕の前に立っていた彼は、その言葉と同時に左へはけた。僕は立ち上がり、その光景を目の当たりにした。
「えっ…」
 そこにあったのは、半径10mくらいのとても大きなクレーターだった。今までここに建っていたであろう家屋の破片が、そこかしこに散らばっている。それに所々で黒煙が立っており、焦げた匂いが漂ってくる…僕は言葉を失った…
「そうなるのも無理はなイ…僕も正直、まだ受け止めきれないんダ…」
 一体ここで何が?とてつもない質量の何かが降ってきたということなのだろうか?
「原因は今のところ分かっていなイ。どうやら今日の朝方4時頃、すでにこのような状況になっていたそうダ。」
「そんな!?あの地面のへこみ具合、どうみてもクレーターですよね?隕石かなにかが降ってきたという可能性は?」

 このクレーターは途中まで平らなのだが、中心であろう場所から半径3mほどはくぼんでいた。
「それがネ…昨晩、そういったものは観測されていないんダ…」
「えぇ…それじゃあ一体何が…そういえば、昨日何かで呼び出されていましたけど…これとは関係なかったんですか?」
「あぁ、あれネ…うん、昨日の件はこれとは無関係ダ。」
「そう…ですか…じゃあ僕をここへ連れてきたのはなぜ?」
「うン。実はこのクレーターの中心部にはまだ行っていないんダ。だから、君と一緒に確認したくてネ。」
「そうなんです。本来は「補佐官」である僕が確認すべきなんですが…」
 今まで黙っていた「補佐官」の彼が突然話し始めた。
「せっかく「空人」さんがいらっしゃるので、どうせなら一緒がいいのかなーと思いまして…」
「な、なるほど…僕は大丈夫ですけど…」
「よシ!じゃあ皆で行ってみようカ!」
「は、はい…」
 「大臣」はなぜかハイテンションだ。ただ、僕も純粋に気になる…もしかしたら「空の世界」から来た何かかもしれないし、僕が向こうに戻る手がかりが得られるかもと思ったからだ。
 そして僕たちは歩き出した。行く途中の地面は黒く焦げており、熱を放っているのを感じた。僕たちはくぼんでいる箇所の中心部にやってきた。そこには少し細長い形をした大きな石のような物体があった。その物体はとてつもない熱を放っており、所々に赤みを帯びた線が入っている。とても素手で触れるような雰囲気ではない。
「こ、これは…」
「うーム…これはどうみても隕石だよネ?」
「多分…でも、こんなものが落ちてきたのなら大きな音がするはずですが…」
「そうだよネ…」
 そんなことを話していると突然、反対側から「補佐官」の彼が叫んだ。
「あの!ちょっとこっちに来てください!」
 僕たちはその声を聞いて、彼の元へ向かった。反対側に行くと、そこには大きく欠けた箇所があった。どうやらこの物体の中は空洞になっているようだ。彼はそこを指さして言った。
「あの、あれなんでしょう?」
「あれ?」
 彼の指す先に目をやると、空洞の中心辺りに四角い何かがあるのが見えた。
「あぁーあれか。なんでしょうね?」
 気になるが、周りが熱くて取ることは難しい。すると、「大臣」が口を開いた。
「仕方なイ…「力」を使うしかないかナ…」
「そうですよ「大臣」!こういう時こそあなたの出番です!」
「よシ…ふゥ…」
 彼は腰につけていた杖のようなものを持ち、深呼吸をした。そしてその先端を物体へ向けると
「じゃあいくヨ…えいッ!」
 といい何かを放った。すると物体はふわふわと浮き上がり、ゆっくりとこちらへやってきた。
「ウール!掴んデ!」
 彼のその言葉に僕は一瞬戸惑ったが、とっさにその物体を掴んだ。
「熱っ!」
 物体を掴んだはいいが、それはとてつもなく熱かった。僕はすぐに手を放してしまった。
「バリンッ!」
 地面に落ちたそれは、大きな音をたて砕け散った。やってしまった…
「二人とも、ごめんなさい!」
 僕は即座に頭を下げた。
「いや、僕たちは大丈夫だヨ。なぜ君が謝る必要があるんだイ?」
「だって…こんなに粉々になっちゃったから…」
「君が気にすることじゃなイ。僕がとっさに「掴んデ!」って言っちゃったからこうなってしまったんだヨ。謝るのは僕の方だ、ごめんネ。」
「いや「大臣」、僕は大丈夫です…」
「いいや大丈夫じゃないヨ。その手、痛まないかイ?」
「あっ、はい。今のところは大丈夫そうです。」
「とりあえず悪化してはいけないからネ。この軟膏を塗っておいテ。」
 そういうと、彼は腰に付けていたきんちゃく袋から軟膏の入った入れ物を取りだし僕の手に塗ってくれた。
「ありがとうございます。」
「うン。これで痛みが出ることはないはずだかラ。さてト…」
 彼は粉々になった物体に目を向けた。
「中身は無事みたいだネ。アージャ、破片はここのあるだけかナ?」
「はい。そんなにちらばらなかったみたいです。一応、周りを見てきますね。」
「うん、ありがとウ。お願いネ。じゃあ僕たちはこれを調べてみるカ…」
 僕は彼と一緒にその物体を観察した。どうやら四角い物体は「箱」だったらしく、相当頑丈にできていたようだ。だが、この熱でその強度が落ちていたため壊れてしまったらしい。
「「大臣」、これ…なんでしょう…」
 僕は中に入っていたであろう物を手に取った。それは洋ナシのような形をしており、縦の波線が均等に入っている。
「それは…なんだろうネ…僕にもちょっと分からないナ…」
「お二人とも、見回ってみましたが特に気になる物は見当たりませんでした。」
「よし、じゃあそれを持って次の箇所へ行くことにしようカ。」
「えっ?もっと調べないんですか?」
「調べたいのは山々だけど、残念ながら時間が足りなそうなんダ。」
「そう…なんですか…」
「うン。だから、後はアージャたちに任せようと思っていル。アージャ、捜索隊をここに呼んデ。」
「はい、分かりました。後はお任せください。」
「うン。じゃあウール、それをちゃんとしまってネ。行こうカ。」
「はい。」
 そして僕と「大臣」はアージャにこの場を任せ、次の現場へと向かったのだった。

#17へつづく

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