僕と「大臣」は次の目的地へと向かっていた。彼の歩くペースは相変わらず速い。だが、僕はそのペースに慣れてきていた。さっきはかなりキツかったが、今はもう何ともない。そんな風に思っていると、彼が話しかけてきた。
「ウール、次の現場は少々危険が伴ウ。僕のこの範囲から離れないでネ。」
そういって、さきほどの杖を持ちその範囲を示した。その声のトーンは今までより真面目で、真剣な感じだった。
「はい、分かりました…」
僕は彼のそのトーンで、本当に危険であることを察した。
それから15分ほど歩いただろうか、次の現場へと到着した。そこは住宅街の一角にあり、外観は周りの建物と何ら変わりがない。気になる箇所を挙げるなら、敷地の周りが3mくらいの金属のフェンスで囲われているところだろうか。
「よし、ここダ…ウール、こっちだヨ。」
彼の先導で建物の入口へと向かう。建物の彼は懐から鍵を取り出した。そして、フェンスの入口にかかっている錠前を解錠した。
「キー…」
彼はフェンスを開けた。フェンスは全体的に錆びついており、動かす度にきしむ。
「さぁ、入ろウ。」
「はい…」
僕たちは玄関の前に来た。扉の中からは異様な威圧感を感じる…なんだか不気味だ…
「だ、「大臣」、この空気は一体…」
「うン。やはり君は感じとることができるカ…これは中にいる「あいつ」が放っているものなんダ。」
「「あいつ」?」
「うン。ここに来た目的は一ツ!「あいつ」を退治するためダ!」
「ちょっと待ってください。「退治する」って…もしかして怪物か何かですか…?」
「まぁ、そう言っても過言ではないかモ。」
「えぇ!?」
「とにかク!中に入ろウ。これ以上ここで話していても埒が明かないヨ。」
「….分かりました….」
そっちが勝手に連れてきたんじゃないか…僕は内心そう思った。だけど仕方ない、今は彼の言う通りにしなければ…この場を逃げ出したところで何も変わらないだろう。
「ガチャッ」
彼は扉の鍵も解錠し、開けた…すると中からは、なんとも言えない空気が流れてきた。生暖かいというか生ぬるいというか…表現の難しい、だけど居心地の悪い空気である。
彼はゆっくりと中へ入っていった。僕も彼に続いた。内部は一般的な一軒家の造りをしており、玄関のすぐ横には階段があった。どうやらこの嫌な空気は上の階から漂ってきているようだ。
「ウール、どうやら「あいつ」は2階にいるようだネ。どうする?」
「うーん…まずは1階を探索して、「あいつ」に効果的なものがないか探ってみるのはどうでしょう?」
「確かニ!それは良い案だネ!じゃあこっちに行ってみよウ。」
まずは1階の探索をすることにした。1階はリビング、キッチン、お風呂場、トイレしかなかった。他に部屋はないようだ。リビングの中心にはテーブルが配置されており、何枚か紙が置いてあった。僕はその紙を手に取って見てみた。
「これは…」
そこには日付とその日に何が起こったかを書いた文があった。どうやら誰かの日記のようだ。以下、内容。
「.19/08/31 ついに明日だ!明日がくれば私は大義を成し遂げられる!そのためにも、あそこはなんとしても確保しなければ…明日は「大安売り」だ。これを利用すれば奴らのネットワークをかいくぐることができるだろう。そうすれば…今から念入りに準備しておこう…
.19/09/01 ようやくこの日がやってきた!私はこの計画を進めるために一体それだけの時間と労力を費やしてきたのだろうか…いやもう考える必要はない。とにかく現場へ向かうこととする!
くそ!なぜだ!?現場へ向かった。例の物は届いていた。だが、一つだけ足りない!くそ、全て揃って初めて使える物なのに!
.19/09/02 どうやらやつらに私の計画の一部を知られたらしい…だが、まだ希望はある。あいつがここに来てくれれば、私の計画は潰えない。最後の望みに賭けて…」
「なるほどネ…」
「「大臣」、これは?」
「うン。この”.19/08/31”というのは日付だネ。この場合、2019年8月31日となル。」
「なるほど…ちなみに今日の日付は?」
「今日は2019年9月2日ダ。つまりこの日記はつい最近のものってことになるネ。」
「そ、そんな…これを書いたのは「あいつ」なんでしょうか?」
「おそらくネ。一体何を企んでるかは知らないけど、やはり放っておくわけにはいかないみたいだネ。」
「そうみたいですね…でも、ここにはこれ以外に何もありません。」
「うン…仕方ないけど、このまま上に行くしかないみたいダ…」
結局、「あいつ」に対する有効策は見つからなかった。こんな状態で向かっていいのだろうか…もし本当に怪物ならとても危険だと思うのだが…そんな不安を抱きながらも僕たちは上の階へ向かったのだった。
小説
土とともに #17(閑静な住宅街)
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