小説

㊴忍者の昼ごはん

「いただきますでござる!」
二流忍者は今日も一人で給食を食べていた。
他の連中は二流忍者のマヌケぶりに愛想を尽かして一緒に食べてくれないのである。
「一人は気楽。一人が一番」
二流忍者は強がりを言って給食を食べ終わると、
「ごちそうさまでござった!さあ、修行の再開だ!」
外へ出て再び滝に打たれ始めた。
「何としてでも一流忍者に返り咲くのだ……!」
威勢だけは良いが、
「ぶわーっ!真冬の滝水は冷たい!」
根性はないのである。
「うん、拙者にはどうも厳しい修行に耐える根性がないようだ。身を削った闇忍法を使ういけない根性はあったというのに、正しいことに使う根性はないのだな。それなら……二流忍法・根性生まれの術!」
二流忍者が叫ぶと、
「こんじょ~!」
黒い全身タイツの変な男が現れたではないか。
「お主、誰?」
「根性」
「根性さん?」
「こんじょ~!」
実体化した根性と思われる存在は奇声を上げながら校舎の方へ駆け出して行った。
「あっ、こら待て根性!」
二流忍者は根性を追って校舎へ入ったが、
「こんじょ~!」
根性が逃げ込んだのはあろうことか給食室である。
「何ですかあんたは!」
「根性」
「根性さんね。いい大人が変な格好してないで帰った帰った!」
給食のおばさん達は根性を追い返そうとしたが、
「こんじょ~!」
根性は抵抗して飛び上がり天井に張り付くと、
「ああっ!?」
粒子となって給食室中に散らばったではないか。
「おい、根性!」
二流忍者は慌てて給食室へ駆け込んだが、
既に根性は給食室中に散らばってしまって取り返しがつかなかった。
「ならばもう一度だ。二流忍法・根性生まれの術!」
二流忍者は再び根性を生み出そうとしたが、
「ニンポウエラーデゴザル」
電子音声のエラーメッセージと共に弾かれてしまった。
「しまった、二流の拙者にはこの手の召喚系忍法はたった一度しか使えないのでござった……」
「何だか知らないけどねぇ、給食室でごちゃごちゃやらないでくれる?」
「はい、すんませんでござった……」
どうやら根性は粒子となって給食室中に散らばってしまったようである。
「これでは給食の中に根性が紛れ込んでいるのは間違いないではないか……よし、二流忍法・根性探しの術!」
二流忍者は出まかせで術の名前を叫んだが、
「ニンポウエラーデゴザル」
存在しない術を使えるはずもない。
「何てこったぁ、こうなれば給食を食べまくって根性を取り戻すしかないではないかぁ!」
給食室の中でどのように散らばったかが分からない以上、何日後かの給食に根性が含まれていてもおかしくないのである。
「またごはんに含まれたものを求め続ける人生か……嫌になる」
こうして、二流忍者の給食の中から根性を見出そうとする第2の試練が幕を開けた。

「いただきますでござる!」
二流忍者は今日も一人で給食を食べていた。
「うーむ、根性は入っておらんか……いかんいかん。しっかり味わって食べないと、またこの給食に襲われてしまうな。ああ、ウマいウマい。さすがは文部省でござるな!」
これで5日目になるが、今のところまだ二流忍者に根性がつかない辺りはまだ根性入り給食に当たれていないようである。
しかし給食の中に根性が入っているのは明らかなようで、
「あっ、何だかこの給食を食べ終わった途端、突然滝に打たれたくなったぞ!」
「俺も何だか、突然過酷な修行に挑みたくなってきた!」
同級生の三流忍者たちは唐突に根性を身に着けだした。
「いかん……このままでは、三流共は根性をつけて過酷な修行に挑み、あっという間に二流、そして一流へと成長してしまう……」
そうなればますます二流のままであることが惨めではないか。
「ええい、焦っていても仕方あるまい。今日はいさぎよく諦め、また来週の月曜の給食に賭けようではないか!根性がつかない以上は過酷な修行には挑めぬが、軽い修行を続けていけば塵も積もればで案外あっさりと一流に戻れるかもしれぬ。ひたすら修行あるのみ!」
二流忍者はひたすら修行を続けたが、そんなことで一流に戻れるほど世の中甘くはなかった。

「いただきますでござる!」
二流忍者は今日も一人で給食を食べていた。
「今週1週間の給食で、必ず根性を引き当てて見せるぞ!」
「俺みたいにか?」
声をかけられて振り向くと、
「うわわわわっ!」
二流忍者のイスが座り主ごと三流の同級生に高々と持ち上げられていた。
「何か給食食べたら、急に大胆なことしたくなって」
「そ、それは根性入りの給食に当たった証拠に違いない……」
「食べるの大変そうだなポンコツ二流さんよ。根性つけた俺が食ってやろうか」
言うや否や、根性をつけた三流の同級生はイスを持ちあげたまま二流忍者の給食に手をつけ出した。
「こら、やめるのだ三流野郎!二流忍法・すり替えの術!」
二流忍者が叫ぶと、
「!?」
根性をつけた三流の同級生の口の中の給食が砂に変わり、二流忍者はいつの間にか離れた席で悠々と給食を味わっているではないか。
「チッ、腐っても二流というわけか。こんな奴でも二流なら、根性をつけた今の俺ならたやすく一流に進歩できるに違いない。見ているがいい!」
根性をつけた三流の同級生が立ち去ると、
「そうか、その手があったか……」
二流忍者は何やら思い付いていた。
「あいつが拙者の給食を横取りしたように、拙者も根性入り給食に当たったヤツの給食を横取り……いや、少し食べさせてもらえば自力で根性入り給食に当たれなくても根性をつけられるわけだな。よし、そうと決まれば明日からは!」

後日。
「いただきますでござる!」
二流忍者は給食をかっ込んだが、当然のごとく根性は入っていない。
だが、
「ここからが本番でござる。きっと誰かしらの給食に根性が入っており、食べた途端に根性がつき出すであろう。そうなった瞬間にその給食の残りを貰えば、残りの根性は全て拙者につくというもの!」
そのように考えていたのである。
「さあ、皆の者!根性にありつけたらすぐに拙者に知らせておくれ。そして給食を分けておくれ……」
だが、二流忍者を軽蔑している他の三流の同級生たちは冷ややかな視線を送って黙々と食べ続けるのみだった。
「ええい、分かったよ!タダとは言わん。根性入り給食を分けてくれたら、この大判小判をやろう」
二流忍者が懐から大判小判で溢れた巾着袋を取り出すと、
「あっ、根性入ってる!」
「こっちにも根性あった!」
「何かこれ食べた途端に根性ついてきたぞ!」
同級生たちは途端にわざとらしい反応を示した。
「何かわざとらしいでござるなぁ……本当か?」
「忍者、嘘つかない!」
「うむ、この際信じるしかあるまい。では大判小判あげるから給食ちょうだーいでござる!」
二流忍者は大判小判を配りながら根性入り報告のあった給食を食べ尽くしたが、
「食べた途端に突然滝に打たれたく……ならない!食べた途端に突然過酷な修行に挑みたく……ならない!」
ではないか。
「騙したな、三流共!」
二流忍者は怒って掴みかかろうとしたが、同級生たちの姿は跡形もなく消えていた。
「ふはははは……忍者とは、相手を騙してこそのもの」
「こんな簡単な嘘に引っかかるようでは、お主は永遠に見た目は二流、中身は三流以下のままだな!」
「大判小判は遠慮なく頂戴した!勉強代と思って諦めるんだな……」
「おのれ、バカにしやがってーっ!こうなれば明日は……見ているがいい!」

後日。
「いただきますでござる!」
二流忍者は給食をかっ込んだが、当然のごとく根性は入っていない。
だが、
「またまたここからが本番でござる。二流忍法・瞬間食いの術!」
その術の名を叫んだ途端、三流の同級生たちの給食が跡形もなく消え去ったではないか。
「な、何だ?」
無論、二流忍者が一瞬のうちに全ての給食を食べ尽くしたのである。
「うーん、根性がつかない。ハズレ……じゃなくて、味はおいしかったけど成果は得られずでござったか。この激しい満腹感には……二流忍法・消化の術!二流忍法・消化の術!二流忍法・消化の術!」
連続で術を使う事でいつかのように入院レベルの満腹度に至るまでは防いだが、
「ダメだ。一流の時に使えた黄金流忍術と比べると全然消化できておらん……仕方あるまい。ここは素直に消化薬を飲もう。二流忍法・薬局移動の術!」
結局は薬局へ駆け込むしかなかった。
「消化薬をおくれでござる!」

この一連の流れが何度か繰り返されたが二流忍者は未だ根性にありつけておらず、
「腹減ったよ~」
給食を奪われた三流忍者たちはずっと昼食抜きの毎日だった。
「偉大なる一流忍者の皆様、このような振る舞いが許されて良いのでしょうか?あなた様方のお力で、是非ともあやつを成敗お頼み申す!」
三流忍者たちは非力な自分達に代わって二流忍者を懲らしめてもらうべく一流忍者たちへ頼み込んだが、
「確かにお主らの言うように奴は落ちこぼれの分際で出過ぎた真似をしているとは思うが……」
「あんな落ちこぼれの滑稽な茶番で泣きを見ているお主らもお主らなんだよなぁ」
「自分達の給食が奪われたのなら実力行使で取り戻すが、三流の給食なら我らの知った事ではない。それに黄金流忍術は見せ物ではあらぬ。悔しければ二流へ昇格し、自分達の手で取り戻すことだな。それが忍びの掟というものよ」
非情な一流忍者たちの反応は冷たい。
「先生!一流の奴らは取り合ってくれないし、先生だけが頼りです!あいつに罰を、いっそ退学に!」
だが、担任教師の反応も一流忍者達と同じものだった。
「お前たちがあいつの失敗に同情し労わっていたならこれは理不尽な仕打ちだが、身分の差を考えずに嘲笑して蔑んでいたのだから二流としての実力で報復されたということで仕方ないな。悔しければシノビシウムに賭けるか修行に励め!」
運よく根性を引き当てた三流忍者はそれで良かったが、大半はそうもいかない。
「ぶわーっ!滝水は冷たいよーっ!」
「昼抜きな分、朝ごはん沢山食べてシノビシウム当てを目指すはいいけど毎朝満腹で苦しいよーっ!」
三流ゆえの苦難が続いた。
だが、それを黙って見ている親たちではない。
「先生、うちの子が給食食べれてないって言うんですがどういうことなんですか!?」
「こっちがしっかり給食費払ってるのに食べれないっていうのはおかしくありませんか?」
担任教師の元へ集まって抗議を始めた。
「あ、いや、それはその……生徒の中に大飯喰らいがおりまして、そいつがその……お子さんの分まで食べちゃうわけでして」
「何ですって!?それはますます納得いかない話ですねぇ!」
「私達は他所の子の胃袋を満たすために給食費を払ってるわけじゃないんです。うちの子のために、払ってるんです!」
「はぁ、ですがその、お子さん方はその、失礼ながらまだ三流な訳でありまして、その大飯喰らいは二流の忍者なんですよ。ですから当校の教育としましては、忍の掟に沿って実力ある者に先を越された場合は悔しさをバネに修行に励んで昇格しろという方針でありまして……それでは食べれなかった分の給食費は返金しますので、ここはしばらくお弁当持参という事でどうでしょうか……?」
その対応に親たちはカンカンである。
「私達にわざわざお弁当作れっていうんですか!いったい何の為の学校給食なんですか!?」
「なら先生、あなたの自費でうちの子の昼食を買ってきてください!毎日デパートの高級弁当でも奢って下さるって事なら問題ありませんけど!?」
「うちの子はそれじゃダメですね。あの子、学校給食を一番の励みにしているんです。学校給食でなければ無意味なんですよ!」
「はいはい分かりました!実によーく分かりましたよ!」
マシンガンのように怒声を浴びせられた担任教師はたまりかねて叫んだ。
「要するに、その大飯喰らいをやっつければ、あなた方の怒りは収まるわけだ。そうでしょう?」
「そうです!!」
「ならばやっつけましょう!私は忍術の知識のみで忍者学校の教師をしている男であり、情けない事に忍術は使えないが……今の私にはこれがある!」
それは特大のバズーカ砲であった。
「皆さんの分もありますよ。さ、どうです?」

当の二流忍者はそんな騒動が起こっているとはつゆ知らず、今日も多量の給食を食べ終えて消化薬を買いに来ていた。
「それにしても、今日はやけに歯に詰まったな。まだ時間はあるし歯磨きしておくか?しかし、これだけ食べても一向に根性にありつけんなぁ……もしや食べ尽くされてしまったのでは……」
消化薬を飲み終えた二流忍者が詰まりを取ろうとつまようじを口へ突っ込みながら不安を覚えた時、
「ふははははは……もうその心配はいらない。今になーんにも分からなくなるんだからな……」
いつかの看護師と同じ事を言いながら現れた担任教師はこちらに向けて特大バズーカ砲を構えているではないか!
「せ、先生!何でござるかその特大バズーカ砲は!」
「これかい?これは勿論、君のような問題児を無に帰す為の教育道具だよ。うひひひひひ……覚悟!」
担任教師は躊躇うことなく二流忍者へ向けて特大バズーカ砲をぶっ放した。
「ひぇええええ!」
二流忍者は忍者ならではの素早さでよけたが、
「この大飯喰らいが!」
「よくもうちの子の給食を!」
「皆さん、やっちゃいましょー!」
被害に遭った三流忍者の母親たちもバズーカ砲を構えて現れ、二流忍者へ怒りの弾を発射した。
「ひょえーっ!二流忍法・弾丸回避の術!」
その名の通り素早い動きで回避したはいいものの、休む間もなく砲撃は襲い来る。
「問題児め、覚悟しろ!うひひひひひ……」
「大飯喰らいめ、覚悟しろ!だははは……」
「ええい、ここは退散するしかあるまい。二流忍法・消え身の術!」
姿を消したはいいが、
「甘い!そこだあっ!」
母親の一人が気配で居場所を察知して攻撃を放った。
「ぐわああああっ!」
辛うじて直撃は避けたものの、本当にスレスレの所である。
そのせいで術は解除されてしまい、
「いたぞーっ!」
「やれーっ!」
姿を現した二流忍者へ集中放火が浴びせられる。
「ひーっ!何とか、よけてるで、ござるけどっ!」
「そろそろ、行き止まりで、ござるなぁ問題児くん!うひひひひ……」
担任教師の言う通り、二流忍者はいつの間にか道の行き止まりまで追い込まれていた。
「こちとら忍者の母親。行き止まりで一流に満たない忍がどんな術を使おうが、逃げられはしまいというものよ……」
「うちの子の給食の恨み、思い知るがいいわ!」
「せ、拙者の命とお子さんの給食では人命の方が重いでござろうに……」
「いいえ、給食です!構え―っ!」
母親の一人の号令で全員が二流忍者へ向けてバズーカ砲を構え、
二流忍者が恐怖でゴクリと唾をのむと、
「撃て―っ!」
担任教師の号令で一斉にバズーカが放たれた……
立ち込める煙の中で動くものの気配はなく、
「やったぞ、問題児の最期だあ!うひひひひ……」
「やったわ、大飯喰らいの最期だわ!だははははは……」
そうかと思われたが、
煙が収まると同時に、確かにその中から二流忍者が姿を現したではないか。
「バカな!?バズーカの一斉砲撃をまともに喰らって無事でいられるはずが……」
「確かにバズーカの一斉砲撃をまともに喰らったら無事ではいられない。だから拙者は身に着いた根性によって弾丸を全てこの拳で打ち落とし、一斉砲撃をまともに喰らわなかったのだ!」
「根性だと!?いつの間に!」
「どうやら歯に詰まっていた給食のレタスがお主らに追い詰められた恐怖で唾を飲んだときに消化され、そこに微量ながら確かな根性が含まれていたようだ。その証拠に拙者はバズーカの一斉砲撃が放たれた時、瞬時にこの拳で弾を打ち落としてやろうと根性を出した。そして次の根性は……お主らと真っ向から戦って成敗することだ。いざ、覚悟!」
「何をコシャクな。問題児、そっちこそ覚悟!」
担任教師はバズーカ砲を構えて発射したが、
「根性、根性!忍根性!」
根性によって二流忍者はいつも以上の素早さを発揮し、発射された瞬間にバズーカ砲の砲身をくるりと担任教師の方へ戻した。
「げっ!?」
自分の顔面目がけて撃ってしまう形となった担任教師はバズーカの直撃を浴び、
「へなへなぁ……」
真っ黒こげになってばったりと倒れ気絶した。
「大飯喰らい、うちの子の給食の恨み―ッ!」
母親たちが一斉砲撃を放ったが、
「そちらが給食の恨みなら、こっちは根性をつけさせてくれたお礼だ!」
二流忍者はそれを難なくかわすと、
「二流忍法・給食室の裏のゴミ箱ひっくり返しの術!」
新たな術でお返しである。
術の名を叫ぶと共に給食室の裏のゴミ箱が母親たちの頭上に現れ、
「わーっ!」
逆さにひっくり返ってそのおびただしい中身が雨のように降り注いだ。
「はっはっは。腐っても給食。これだけあれば充分だろう。持って帰って我が子へお出しするといい。わははははは……」
「やら、れたあ~」
ゴミに埋もれた母親たちは重量と臭さによって気絶して倒れ、
「悪は滅びた。それでは身に着いた根性が消えぬうちに、いざ過酷な修行に挑むべし!」
二流忍者は高速移動で修行の谷へと向かった。

「ぶわーっ!真冬の滝水は……最高に気持ちいい!」
根性を身に着けた二流忍者に、もはや恐れるものはない。
「うさぎ跳び1000回!……ぴょこぴょこっと済ませて今度は寒風摩擦を8時間!……軽く済ませりゃ次は空中三角飛びの稽古だあ!」
普段ならとても挑めない過酷な修行に連続して挑みまくり、
「わーっはっはっは!見よ、この黄金の輝き!」
あっという間に元の一流忍者へ返り咲いたのである。
「黄金流忍法・大竜巻!」
一流忍者が叫ぶと近くで修行に励む忍者たちを激しい竜巻が襲った。
「わーっ!」
三流と二流の者たちは竜巻に飛ばされその渦に飲まれて気絶し、
「ぐっ……!」
一流の者たちは辛うじて意識を保ちながらその術を防ぐと、
「わーっはっはっは!」
竜巻が収まった時、残ったのは一流の忍者のみである。
「見たか佐助、その他の一流忍者ども!これで拙者も晴れて一流。もうコケにされる筋合いはないぞ!」
「おのれ……悔しいが、見事だと言うほかないな……」
「一流忍者は最高位の忍者。その中では優劣もない……皆が互角というわけだ」
「まぁ、せいぜい我ら一流忍者の株を落とさぬよう、行いには気を付ける事だな」
一流の忍者たちも変に歯向かって相打ちになる可能性を恐れ、もはや何もできなかった。
「わーっはっはっは!これで我が天下なり!もう朝ごはんさえ食べなければ格下げの恐れもない。誰も拙者を越える者はいないというわけだ。見よ世界。見よ宇宙!この黄金の輝きを……わーっはっは!」
一流忍者は黄金の輝きに包まれながら高々と笑うのだった。

「黄金流・空腹満たしの術!」
一流忍者はこの術によって朝食を食べなくとも良い身となり、
「食費が浮いて助かるわ~」
一流忍者の母親も喜んでいた。
「はっはっは。じゃんじゃん浮かせてみせるでござるよ。黄金流・節約の術!」
術を唱えると使っていない部屋の電気や電化製品のコンセントが切れ、電気代節約に繋がった。
「お~、凄いじゃないの一流忍者!」
「当たり前でござる母上。凄いから、一流忍者なのだ。凄くなければ、一流ではござらん。わーっはっはっは……」
「それもそうねぇ我が子よ。母さんも鼻が高いこと。がははははは……」
「母上、笑い方が意外と豪快でござるなぁ」
「ごうかい?……いや、そうかい?」
そんなバカバカしい会話を続けていると、
「おーい、大変だあー!」
外から佐助の声が響いてきた。
「ぬ?」
「一流忍者の者はよく聞いておくれ―ッ!」
「一流忍者なのでよく聞いておこう」
聞き耳をたてると、
「一流忍者の一流としての力を吸い取って養分にする恐ろしい妖怪が現れたそうだーっ!ひとたび妖怪に力を吸われてしまえばたちまち三流へ逆戻りらしい。こいつに狙われないようにするには、忍者の食べる夜ごはんに含まれる可能性があるニンパク質をとっておかなきゃいけないんだとさーっ!一流仲間はお互いに気を付けようなーっ!」
だそうである!
「何おう!?それじゃあ今度はこの一流としての実力を守るため、またごはんに含まれたものを求め続ける人生なのか……?」
一流忍者は終わらない連鎖に嘆いて膝をつき、
「どこかにいるであろうスーパーヒーローよ!早くその恐ろしい妖怪を退治してくれーっ!」
自分を地獄の連鎖から救ってくれるヒーローが現れることをいつまでも待ちわびるのだった。


働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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