小説

㉑お題ゾンビのゲーム大脱出

「うわーっ!」
お題ゾンビは新年早々に大きな悲鳴を上げた。
「怪獣だーっ!」
その目前で暴れる怪獣は見上げるばかりの巨体と口からの火炎の威力が凄まじく、お題ゾンビが大きな悲鳴を上げてしまうのも無理はない。
「こういう時は、逃げるが勝ちだ!」
お題ゾンビは一目散に逃げだしたが、
「ぐあっ!」
見えない壁のようなもので弾かれてしまった。
「なんだあ?」
しかし、今のお題ゾンビにはそれが何なのか考えている余裕はなかった。
「どっちゃああああ!」
怪獣は既に彼の目前まで迫っていたのである。
お題ゾンビは、
「あ、そうだ。間違えた」
ふと何かに気付いた。
「恐怖のあまり、悲鳴の上げ方を間違えた。やり直し。どっひゃああああ!」
そんなものはこの際どうでもいいことである。
怪獣がお題ゾンビに向けて火炎を放射した。
「そうだ、俺はなぜ自分がこんな状況に置かれているのか分からない。これはきっと夢なんだ!」
ふとひらめいたが、
「あちちちちちちちち!」
全身を焼き焦がす激しい炎による苦しみは紛れもなく生の感覚だった。
「何なんだ……あちちちち!ここは一体……あちちちち!どこなんだ……あちちちち!……とてつもなく熱いところ……そうだ、ここは夏だ!」
「どこからそういう発想が出てくるんだよ」
怪獣は呆れた。
「喋ったああああ!」
「当たり前だろ。シナリオ上、喋るように設定されているんだからな」
「シナリオだって……?」
お題ゾンビが存在するのは、物語の世界。現実世界の退屈さに飽き飽きしてこの世界に飛び込んできたはいいが、物語の世界と言えば何らかの「シナリオ」が存在していてもおかしくはないではないか。
「この世界はシナリオで動かされているから、場面が急に変わってここへ飛ばされてきたのか?」
「そうじゃないの?まぁシナリオと言っても、ゲームシナリオだけどね」
「ゲーム……!」
お題ゾンビは自分のいる世界の実態を知りまじまじと周囲を見渡した。
そう言われてみれば、この世界に溢れる何とも言えないデジタルで人工的な雰囲気はまさしくゲームのものである。
「そうか……俺はゲームの世界へ迷い込んでしまったのか……」
「どうでもいいが、俺の攻撃を受けてくれないか」
怪獣は口からの火炎放射で再びお題ゾンビを火だるまにした。
「あちちちちちち!やっぱりここは夏だ。いや、南国だ!南国のゲームなんだ!」
「ここが南国なんじゃない。燃え盛るお前の体が南国なんだよ。ほれほれ、もっと燃えろ」
「そうか、俺自身が南国なのか。では、もっと燃えます。あちちちちちち!」

「お母さん、このゲームつまんない」
「じゃあやめなさい。つまらないものでわざわざ目を悪くすることはないんだから」
「まったくこんな駄作で高額せしめて。ゲームの制作担当に電話抗議してやる!」
少年は怒ってゲームの電源を切った。

「あちちちちちち!」
「あちじゃないぞ」
「じゃあ何だ」
「ブチだ」
「ブチ?」
お題ゾンビが首を傾げた時、確かにその音は聞こえた。
ブチッ
「あ、ほんとにブチだ」
次の瞬間、目の前がまっくらになりお題ゾンビの意識は遠のいていった……

「うわーっ!」
目を覚ましたお題ゾンビは視界に映ったものを見て再び悲鳴を上げた。
「怪獣だーっ!」
しかし、
「でも、この前も出てきたよなぁ」
2回目となると慣れてくるものである。
「でっかいなぁ」
火だるまになっても、
「熱いなぁ」
では済まない。
「あちちちちちち!」
だが今度は天から水が降り注ぎ、お題ゾンビを助けた。
「助かった!」
「今度は良いプレイヤーに恵まれたようだな」
「プレイヤー?」
「このゲームをプレイしてお前を操ってる奴の事だよ」
「そんな奴がいるのか」
「そんな奴がいるから俺たちが活動できるんだろ。そんな奴にいてもらわなくちゃ困るんだよ」
「じゃあ、そんな奴がいてくれなければ俺たちは存在できないのか?」
「そうだよ。誰かが電源を入れてくれるまで眠り続けるのがゲーム世界の住人の運命だ」
「そんなぁ……」

「セリフがメタいですねぇ」
眼鏡をかけた少年はゲーム画面を見つめながらぼやいた。
「何だか変な気分になったのでやめます」
眼鏡をかけた少年は気味悪がりながらゲームの電源を切った。

「あ、また来るぞ」
「何が来るんだ?」
ブチッ
「ああ、ブチかぁ……」
再びお題ゾンビの意識は遠のいていった……

「あっ、怪獣だ」
目を覚ましたお題ゾンビは特に驚くことなく目前の怪獣を見上げた。
「こんにちはー」
3回目となると挨拶ができるほど余裕なものである。
「さようなら」
怪獣は口からの火炎放射でお題ゾンビを火だるまにした。
が、
「もうその手は食わんぞ!」
お題ゾンビはすんでのところで身をかわして近くの岩を身代わりにしていた。
「なぬ!?」
「びよーん」
お題ゾンビは空高くジャンプすると、
「てやーっ。お題ゾンビキック!」
怪獣に向けて急降下蹴りをお見舞いした。
「ぎえーっ!」
怪獣が爆発して果てると、
「おっ?」
お題ゾンビはもりもりと元気になった。
「敵を倒してレベルアップかぁ。それにさっきのかわす、飛ぶ、蹴るの3動作。あの操られているような感覚……間違いない。俺はゲームの世界の主人公になってしまったんだ。なってしまったものは仕方ない。ゲームクリアすれば、ここから出られそうな気がするぞ。そうとなれば、戦うまで。お題ゾンビは戦うゾンビとなり……」
お題ゾンビが自分の決意をぶつくさと呟いていると、
「お、おっ?」
足が勝手に動いて前へ進んでいくではないか。
「ありゃりゃ。ゲームの主人公やってると前に進むのも自分の意志じゃできないのか……」
「ならもうゲームの主人公やらなくていいぞ」
「そうですか、そりゃどうも……って、ぎえええええええ!」
お題ゾンビに声をかけたのは、先ほど倒した怪獣よりも一回り大きい三つ目のモンスターである。
「貴様はもうすぐゲームの主人公ではなる。俺様に敗れ、無と化すのだ!」
「おのれ、無と化されてたまるか!」
お題ゾンビはプレイヤーの意志で腰の剣を抜くと、モンスターに斬りかかった。
「でやあああ!」
「ぐわおおおっ!」
激闘の末、
「無に帰れ光線!」
モンスターが放った光線を、
「無に帰れ光線返し!」
お題ゾンビが弾き返した。
「むわあああああっ!」
モンスターは無に帰って消滅した。
「ほんとに無になっちゃったよ。ははははは!」
2体目の強敵を撃破したお題ゾンビの足が再び操られて前へ進む。
「次はどんなヤツが現れるんだろうか」
「こんなヤツです」
次に現れたのは、等身大のミイラ男だった。
「ミイラ男か」
「否、不幸なミイラ男でございます」
「不幸なミイラ男?」
「不幸でなければこんな包帯に包まれた哀れな姿になどなりません。まずこの顔の包帯。これは3歳の時、外出先のビル火災に巻き込まれて……うっ、うわーーーん!そしてこの身体の包帯。これは15歳の時、謎の組織に誘拐されて人体実験を受けさせられ、実験は失敗し……うっ、うおーん!」
不幸なミイラ男は自分の身の上を泣き語りながらお題ゾンビを殴り続けた。
だが、
「うぅ、可哀想に……」
お題ゾンビも同情してもらい泣きしているので反撃ができない。
「この足の包帯は、20歳の成人式の日、会場へ向かう途中で車に轢かれ……うっ、うわーーっ!」
「いててっ!それはまた……いててててっ!可哀想に……いてててててててっ!」
不幸話が続くほど不幸なミイラ男の暴力が悪化し、お題ゾンビの傷も増えていく。
「そしてこれは29歳の誕生日。雪山で遭難して……うおおおおーん!」
「いてててっ!てててててててっ!こりゃいかん。このまま同情して一方的に殴られ続けたら、俺もこんな包帯だらけの身体になってしまう!」
その時、不幸なミイラ男がにやりと笑った。
「あっ、お前その笑い方!分かったぞ、全ては作り話だな。人の同情の心につけ込んで……」
「そうでーす!だが同情して殴られ続けて体力を消耗し、もう反撃する力は残っておるまい。トドメだ!行くぞおおおおっ!」
ミイラ男はお題ゾンビへ最後の攻撃を行おうとしたが、
「ありゃっ」
石につまずいてこけ、
「ぎぇえええええええええ!」
落雷に打たれた。
「ど、どうやら……私は……本当に不幸なミイラ男だったらしい……」
不幸なミイラ男は雷に焼かれて蒸発した。
「おっ?ざまぁみろ!人の同情の心に付け込んで不幸を演じたりするからだよ。しかしその同情のせいで傷を負い、だいぶ体力を消耗してしまった。不幸なミイラ男が言ったように力は残っていないかも……」
お題ゾンビが不安になった時、
「たいりょくー」
目の前を通りかかったのは「体力」と書かれた全身タイツの男。
「何だお前?」
「体力です」
「体力?」
「あんた今、体力を消耗したでしょ?だからこうして補充しに来てやったの」
「そうかそうか!じゃあ早く補充してくれなさい」
「じゃあ、カネ」
体力はお題ゾンビに料金を求めた。
「金は、ない。でも体力が回復したら稼げるだろうから、ツケで頼むよ」
「まいどあり。ツケ一丁!」
体力が叫ぶと、人相の悪い屈強そうな男が現れた。
「金返せコラァ……金返せオラァ……」
「わっ、何だコイツは」
「借金取り。借金を返済するまでずっとしつこくつけて回ります」
「ひぇええ……あ、借金取りさん。そのお洋服、シブくて素敵ですねぇ。ははははは……」
お題ゾンビはお世辞で気に入られ圧と恐怖から逃れようとしたが、
「これかい?これはな、期日までに借金を払えなかった奴らの骨と皮で作ったもんよ」
「ぎゃあああああああああああ!」
かえって圧と恐怖を煽られてしまった。
「お客さんも骨と皮にされないように頑張ってね。それじゃ、ほいっ!」
体力が1回転すると、その体が容器入りの液体に変わったではないか!
「何だあ?」
「体力だってんだろうが。さっさと飲め!」
借金取りはお題ゾンビを抑えつけて無理矢理その液体ー体力を飲ませた。
「ゴクゴクゴク……ぶへぇえっ、まずい!まるで青汁のよう……」
「当たり前だ。体力はジュースやコーラじゃないんだからな。さぁ、体力を回復したらばっちり稼いでもらおうか。骨と皮になりたければ別にいいけどな!」
「はいはい稼ぎますよ!まじー……でもあと少し!」
お題ゾンビは何とか体力を飲み干すと、
「元気100倍お題ゾンビ!」
完全に回復したのだった。
「ならさっさと歩け!」
借金取りにどやされながら進むと、
「グーグー……」
目の前では巨大トカゲが眠っている。
通過しようとすると、
「おい、金づるを放っておいてどうすんだ!」
借金取りが怒鳴った。
「金づる?このトカゲが?」
「そうだ。こいつを倒せば金貨が手に入り、借金の足しになる」
「でも寝てる所を倒すなんてなぁ……」
「なら起こせばいいんだよ!」
言うや否や、借金取りは巨大トカゲを蹴飛ばした。
「キエーーーーーッ!」
「蹴ったのこいつ」
「違います違います!」
巨大トカゲは怒りに任せてお題ゾンビに尻尾を振り上げる。
「ひえーっ!骨と皮にされたくないしな、やるしかない!」
お題ゾンビは覚悟を決めて巨大トカゲに挑んだ。
「トカゲちゃん……金よこせーっ」
我が身がかかっているお題ゾンビは必死である。
「いいんだよいいいんだよ。倒されたくなければお金だけ置いて逃げてもいいんだよ……」
だが、巨大トカゲは弱くはなかった。
尻尾が唸り、巨大な口から放たれる謎の粘着液がお題ゾンビを襲う。
「わっ、汚いな。やめなさい、お金を出しなさい。ひぇええ!」
一転して劣勢となったお題ゾンビに見かねた借金取りは、
「仕方ねぇなぁ」
静かに右手の手袋に手をかけた。
「あっ?」
何と、手袋を外したその手は黄金に光輝いているではないか。
「その手は……」
「ま、商売道具ってトコよ。下がってなゾンビ野郎」
借金取りはお題ゾンビを下がらせると、
「フン!」
巨大トカゲに向けて勢いよく右手を突き出した。
すると、
「ギェーーーーーーーーッ!」
あれだけ強かった巨大トカゲが一瞬で敗れたではないか。
「つ、強い……」
「やれやれ、借金を背負った奴がこうもひ弱だと苦労がかかってしょうがねぇ」
借金取りは巨大トカゲを倒したことで現れた金貨をかき集めながらぼやいた。
「苦労ついでだ。この右手を解放したからにはひと暴れさせてもらおうか。残りの返済分もせしめなきゃいけないしな」
言うや否や、借金取りはお題ゾンビを置いてずんずんと先へ進み始めた。
「あっちょっと!借金取り……さん?」
お題ゾンビが慌てて借金取りの後を追うと、
「わっ!」
辺りには敗れた魔物たちの残骸で溢れているではないか。
「まさか、この短時間で……」
戦慄していると、
「おうおう、お前が悪の大魔王かい!」
遥か遠くから借金取りの声が響き渡った。
「悪の大魔王だって?」
お題ゾンビが声の先まで駆けつけると、そこに存在する巨大な椅子に腰かけている獅子の顔に戦車の下半身を持つ大男はまさしく大魔王と呼べる風格であった。
「脇役の分際でまさかここまで辿り着くとはな。俺様が大魔王だが、それがどうした?」
「大魔王となると最高の金づるだ。ここで大金に変わってもらう!」
「今までこの大魔王を倒すことによる誇りを求めてここまでやって来た者はいたが、この大魔王を倒すことによる大金を求めてここまでやって来た者は貴様だけだ。この屈辱、その命で償ってもらおう!」
呆気に取られて事を見守るお題ゾンビの目前で借金取りと大魔王の激戦が幕を開ける。
「誇りを求めてやって来た者は皆この大魔王の餌食となった。貴様も同じ運命を辿るのだ!」
「俺は誇りなど求めちゃいない。だから同じ運命は辿らねぇ」
「誇りを求める者はまだ戦士として評価できる。だが貴様は金・金・金か。意地汚い恥さらしよ!」
「逆だな。俺は金の亡者で、欲望に忠実。つまり戦士なんかよりもよっぽど人間的だってこった!」
借金取りは華麗なる論破と共に、砲撃と破壊光線の嵐をかい潜りながら大魔王に右手の一撃を放った。
「フン!」
「ごはっ……」
大魔王は静かに崩れ落ちた。
「バカな……この俺様が……こんな金の亡者ごときに……」
「分かったか大魔王。これが金の力、いや人間的な心だ!」
「もう嫌だ人間きらい……ぐわーっ!」
壮絶な爆死を遂げた大魔王と入れ替えに、大判小判の嵐が降り注ぐ。
「おおおおおお金金金金!」
借金取りは不愛想な雰囲気から一転、無我夢中で落ちてくる大金をかき集めた。
「まさか主役の俺を差し置いて借金取りが大魔王を倒してしまうとは……」
お題ゾンビはあっという間の急展開に衝撃を隠せなかった。
「いやぁ、ごめんねぇゾンビくん。まぁ君が戦ってたら負けてた可能性は高いんだから、感謝してくれなさいよ。借金はチャラな代わりにお金はこれ全部俺が貰いますからね。ははははは……」
大金を前にした借金取りは、先程までと同一人物とはとても思えない変わりようである。
「はぁ、そりゃまぁ借金取りさんが稼いだお金ですから……」
「分かってんじゃないの。そうそう。俺が稼いだ金なの。だから俺のもん!わははは……」
「ところで……」
「何じゃい?」
「ゲームをクリアすればここから出られるんじゃないかと思っていたんですが、出られませんねぇ」
「そうか。俺が大魔王を倒したことがゲームクリアなのか。確かに出られてないねぇ」
「どうしてでしょう?」
「さぁ……」
お題ゾンビが考え込むと、借金取りは突然飛んだり跳ねたり進んだり戻ったりそわそわと動き始めた。
「何だ?体が勝手に」
「えっ、体が勝手に?ここはゲームの世界。まさか……」
そのまさかのようである。
「これは……大魔王を倒したことで、ゲームの主役がお題ゾンビからこの借金取りに変更になった、って事でいいのかなぁ……?」
真相に気付いた借金取りはにやりと笑った。
「そして、大魔王を倒した主人公の前にはまだ1人残っている。それはゾンビ。一般的にゲームの世界でゾンビといえば、もちろん敵だ……」
「い、いえあの、敵じゃない時もあると思いますけど……」
「お題ゾンビくん……この世界から抜け出す方法はたった1つ。悪の怪物として、ここで正義の味方に倒されることだ!」
「ひぇえええええ!それなら無理に抜け出さなくていいです……」
「遠慮することはない。そらぁああああっ!」
非情な正義の味方の拳がお題ゾンビを貫いた。
「ごはーっ!」
やがてお題ゾンビの目の前が真っ暗になり、何も分からなくなってしまった。

「う、うーん……」
気が付くと、お題ゾンビは公園のベンチで寝転んでいた。
「戻ってきたのか……でも、あれだけの攻撃を喰らったのにどこも痛くない。ゲームの世界だからかもしれないけど、あんな胸糞悪い終わり方だったんだ。今までの事は全て夢だと思っておこう。そうだ、何の証拠もないんだから本当にただの悪夢だったかもしれないじゃないか。そうそう。ゆめゆめ。」
お題ゾンビが夢だと決めつけたその時、
「残念ながら夢じゃないんだなぁ。証拠ならここにある」
現れたのは、
「え、えっ!?」
なんとゲームの世界の借金取りではないか!
「ゲームが現実に?」
「違うな。現実がゲームなんだ」
「と言うと?」
「あのゲームは、俺達サラリーローン組合がゲーム会社に依頼して作ってもらったものなんだ」
「サラ金がゲームを?どうして」
「その前に、俺の顔をよーく見てみなさい」
言われた通り、お題ゾンビは借金取りの顔をまじまじと見つめた。
「何か思い出さないか?ゲームよりも更に遠い記憶を辿って……」
「ゲームよりも遠い……遠く遠く……」
考えた末、
「思い出した!あんた、前におダイが俺を困らせるために利用した悪質サラ金会社で俺の返済手続きに対応した感じの悪い男だ!」
「その通り!俺があの時の感じの悪い男だ。感じのいい男もいるのに、わざわざ俺のとこに来たよなぁ、お客さんは」
答えが出たようである。
「それで、借金を返済した俺がどうしてあんたらの作ったゲームに巻き込まれなきゃいけないの?」
「主人公属性を持つ化け物だからだ。ゲームの趣向に相応しい!」
「ゲームの趣向って……主役を差し置いて脇役の借金取りが大魔王を打ち倒すゲームなんて意味分からないよ。そもそもどういうゲームなんだ?」
「こういうゲームなのだ!」
借金取りが提示したゲームカセットは、
「『大魔王を倒せ!』普通のゲームだなぁ」
だったが、
「そう思うだろ?ところがどっこい」
借金取りがカセットのシールを剥がすと、
「『ゴーゴー借金取り』!?」
ゲームカセットは衝撃の正体を現したではないか!
「そう。最近うちの評判が悪くて、商売上がったり。だから借金取りの悪いイメージを少しでもよくすればまたがっぽがっぽ儲かるんじゃないかと思ってね。ゲームを進めれば体力を消耗し、借金取りが現れて事を全て納めてくれるようになっている」
「それで、インパクトが強くて主役向きな俺を表の主役に選んだわけか……」
「お客さんみたいなのは、一度見たら忘れられませんからね。見た目だけじゃない。生まれたての赤ん坊が借金をしに来たから親の顔が見たいと思っていたらこの親だよ。しかも男手1つで子供を産んじゃうなんてね!20年間働いてきたけど、こんな客は初めてだ」
「困るねぇ、ゲームに俺を出すだけならいくらやってもらっても構わないけど、物語の世界に飛び込んできた俺は物語の中で作られた物語に出演させられると体までそっちへ行っちゃうんだから」
「いやぁ、悪い悪い。あんたにはこれからもまだまだ働いてもらうが、その分のお仕事代はちゃあんと払いますよ。多額の利子をつけてね……」
「多額の利子って、どこからそんな金が出るんだ?」
「我らの野望が達成されし時……」
「借金取りの野望?」
「そう。俺の野望。俺たちの野望。ゲームで借金取りのイメージを良くした所で、ドラマに出演する。イケメン借金取りが多くの人々を救うドラマだ。そんなこんなを続け借金取りのイメージが良くなれば、みんな借金をする。そして素敵な借金取り様に家に来て頂くために期日までに借金を返済しない。するとどうなるか?今の100倍、いや1000倍の利子が跳ね上がり、がっぽがっぽ儲かるわけよ。うひひひひ……うひひひひひ!」
借金取りはやはり相当なワルであった。
「身も心も汚い奴……」
お題ゾンビが呆れていると、
「おい、このゲームの企画担当はお前か!」
数名の老若男女が現れ借金取りにゲームカセットを突きつけた。
「その通り!私、借金取りが企画担当をやらせて頂いたのでございます!」
「そうかいそうかい。そういう事なら……」
数名の老若男女は借金取りを取り囲むと、
「石投げちゃいましょ。それーっ!」
一斉に石を投げつけた。
「わーっ!いてててててて、何をするっ!」
「それはこっちのセリフだ。意味の分からない下らんゲームなんか作りやがって!」
「意味が分からなくて下らない?」
「そっちのゾンビが主人公なのかと思いきやお前が全部持っていきやがって。それにゾンビを倒した後、ゲームクリアなのかと思いきや延々と自分の会社の素晴らしさなんか語りやがって。魂胆が見え透いてるんだよ!」
「私はテレビ局の者だが、ゲームがあまりにも下らなかったのでドラマの件は少し考えさせてもらおうかね!」
「そんなぁ……」
「みんな、やっちまえ!」
「わーっ!逃げろ-っ!」
「逃がすかーっ!」
借金取りはたまらず逃げ出し、数名の老若男女がそれを追った。
「ははは、いい気味!楽して儲けようとしたから、痛い目に遭うのだ。お題ゾンビはあんな風にならず、真面目に生きるぞ!」
そう誓うお題ゾンビだった。








働 久藏【はたら くぞう】

投稿者の記事一覧

『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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