小説

002-片方だけの靴下

 昔からズボラな俺は、家の中なのに気付けばいつの間にか様々な物を失くしてしまう嫌いがある。一つは使いかけのボールペン、一つは最近あまり使っていなかった容量の少ないUSBメモリ、一つは百均で買った安物のイヤホン、はたまた命の次に大事と言っても過言ではない程高価なスマホを見失う事も偶(たま)にある。安価な物であれば必要になればまた買ってしまう事も多いのだが、ある時ふと見つかる事も多々あるから俺の家には多分俺自身も把握できていない同じ物が数多(あまた)とあるのだろう。
 そんな数ある失くし物の中でも特に俺が失くす事が多い物代表、ナンバーワンが靴下だ。左右両方とも失くすならまだしも片方だけを──右だけも左だけもどっちもだ──よく失くすので頻繁に買い足すのも金が嵩(かさ)むという理由から、最近では左右で違う靴下を履く事もざらにある。靴下は大体が左右で同じ柄や同じ色だったりするものだから、失くした片方同士を履いた俺の靴下は大体アシンメトリ的になってしまう事がほとんどだ。左右で柄や色を揃えられている靴下、それゆえに仕方なく左右で違う物を履く時はなるべく違和感のない物を選ぶようにするか、或(ある)いは思い切り振り切って違う物にして服装全体までもアシンメトリにしてしまうこともままある。
 そんな事を繰り返しながら日々を過ごしていたがふとある時思ったことがある。右と左で違う個性、まるで別物。いやもしくは『別者』になるのだろうか?そうなると違和感のない左右の組み合わせは、もしかしたら相性の良いお似合いなカップルになるのだろうか。二つで一つの靴下、二人で一つのカップル。元々は完全に相性のピッタリな存在が居たのに疎遠(そえん)になってしまって別れた左右の“二人”、その失意(しつい)の中出会った全く今までと違う相手。
 片方”だけ”の靴下でも二つ集まれば片方”ずつ”の靴下。

 果たして俺はこの靴下たちみたいにまた新しい恋を見つけることができるのだろうかと、窓辺に置いてある使いもしない灰皿を一瞥(いちべつ)して思った。

お餅。

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