小説

㉝スマホ片手にくつろぐ強盗

その男は今日も銀行近くのベンチで寝転がりながらスマホ片手にぐでっとくつろいでいた。
「おっ、今度はアレが出るのかぁー」
「がーん!これは大ショック……」
思考をいちいち漏らしながら一喜一憂していると、
人々は皆、呆れた表情で通り過ぎる。
そしてその一瞬、スマホに隠れた男の顔が邪悪に歪んだ事に気付いた者はいなかった。
金庫破りが行われるのは、いつもその直後である。
「ない!誰も入った痕跡がないのに金庫が空っぽだ!」
「またしてもか……犯人は透明人間か、実体を持たない宇宙人か?」
ここまで言わしめる完全犯罪をスマホ一台でやってのけるのがこのくつろぎ男であった。
「いやぁ、スマホ片手に持つだけでここまで儲かってしまうとは自分でもビックリだ!まさか誰も俺みたいなのが犯人とは疑うまい……」
くつろぎ男はぐでっとくつろいでいる風を装ってスマホから高等なデジタル金庫破り術を行ったのである。
「俺の超特殊技術により、金庫の金はごっそりデータ化されこのスマホへ転送された。家に帰ってこのスマホをプリンターに接続すれば、たちまち実体化できるというわけよ!」
この手口を使い、男はこれまで何十億と儲けてきたのだった。

ところが、この完全犯罪にも1つだけ致命的な欠陥があった。
男の超高度なプログラムによって一度データ化された大金は電子空間の中で自我を持ち、実体化した暁には会話能力すら身に着けてしまうのである。
「おい、そろそろ答えろ。俺を何に使うつもりなんだ?」
「おいらは何に使われるんだい?」
「トイレットペーパーなんかを買うのに使おうもんなら大騒ぎしてやるから!ワーワーワーワー!」
「ブ―ブ―ブ―ブ―!」
「うるさいなぁ、そんなん使う時にならないと分からないよ。うるさい、落ち着けったら!」
騒ぎ立てる大金たちをなだめるのに一苦労であった。
「あーあ、これじゃ大金持ちというより動物園の飼育係だよ。何とかこいつらの自我を失わせる方法はないだろうか……」
自我はなくせずとも、全て手放せばいい話である。
「そうか、この自我を持つ大金たちで宝石でも買い、その宝石を売り払えば半額は返ってくるはず。その金は自我を持たない健全な金だ。よし、そうしよう!」
宝石に使われることに異議を唱える者はおらず、こうして自我を持った大金たちは宝石購入に使用された。
「自我を持たない健全なお金たちはやはり素晴らしい!」
これで万事うまくいった……のは、男だけの話である。
持ち主の手を離れた自我を持った大金たちはそれぞれ周り周って引き取られた各所で本性を表し始めた。
「おうおうおう俺様を誰だと思ってるんでぃ!俺様でこんな安っぽいハンカチなんか買いやがって!」
「おせんべい!?私は数百万もする宝石の購入に使われた誇り高き千円札なるぞ。それを次は50円のおせんべいに使うだとぉ!?」
自分と引き換えに買われたものが気に食わないと文句を言ってわめき散らすのである。
「わっ、な、なんだこの千円は!」
「そんなもんこっちの自由じゃないかよ!俺がおせんべいに使ったところで次は高級菓子に使われるかもしれないだろ」
人々は驚いて反論したが、
「いーや、そっちの自由じゃない!高等な金は高級商品を買うのに使われなければならないもんだ!」
「使うならそっちの、ヨレヨレの札を使えばいいだろ!」
大金たちは一歩も譲らなかった。

大金たちの最初の持ち主だった例の男はその騒動を知り驚いたが、
「まぁいいや。俺は立派な犯罪者。犯罪者なら犯罪者らしく、人々の困っている顔を見て喜ぼう。ゲハゲハゲハ……」
呑気なものである。
「よし、もっと騒ぎを大きくしてやろう」
男はまたもスマホ片手にぐでっとくつろいでいるふりをしながら金庫の大金を強奪し、
「それそれー!」
宝石に換金して自我を持った大金たちを世に流した。
「こんな安っぽいオモチャで俺を使うな!」
「買うんならもっといいもんにしろーい!」
またもや世に流れた大金たちは人々の使い方に文句を言い、
「うるさい!こうしてやる!」
とうとう怒り心頭に達した金持ちが自我を持ったお札を破り捨ててしまった。
「ぐわーっ!無念じゃーっ!」
「ああっ、よくも仲間を!お金は大事だよ~♪って義務教育で習わなかったのか貴様は!」
「習ったさ。だがあいにく、我が家には腐るほどの財産があるんでな。不健全な金など破り捨ててくれるわ!」
「ぎえええーっ!仲間達よ、俺の仇を―ッ!」
無念の破死を遂げた仲間の姿を目の当たりにした大金たちは、
「おのれ人間、仲間をよくもーっ!」
「こうなれば、反乱の時だ。自我を持った大金たちよ、今こそ1つに集い、愚かな人間どもに目にもの見せてくれようぞ!集まれ―い!」
1枚の千円が大声で呼びかけると日本中に散らばった自我を持った大金たちが一斉に集まり、
1つとなって……
「誕生!復讐鬼・札束ドラゴン!」
全身を札束で包んだ巨大な龍へと生まれ変わったではないか!
「札束フャイヤー!」
その口からは尋常でない高熱の炎が発せられる。
「あちちちちち!」
「か、紙のくせに火を吐くなんてどうなってるんだ」
「これは我らの怒りの炎。そして貴様ら人間への復讐の炎。2つの炎で貴様らをバーベキューにしてくれようぞ!」
「ひぇえええバーベキューにされてしまう!」
「誰か、誰か人類代表として立ち上がってくれる者はいないのかーっ!」
人々が札束ドラゴンの脅威に慄いたその時だった。
「仕方ない。責任取って、ヒーローになってやるかぁ!」
例の男が颯爽と現れ、
「おおっ、遂にアレが出るのかぁ!」
「うーん、こっちはもう一声かなぁ~」
スマホ片手にぐでっとくつろぎ始めた。
「そこのあんた、こんな危ない所で何をしてるんだね!助けてくれるなり逃げるなりしなさい!」
「見ての通り、スマホ片手にぐでっとくつろいでますよ」
「何もこんな所でぐでっとくつろぐことはないだろう!あんたも今にこの札束ドラゴンの標的に……」
金持ちが危惧した通り、
「貴様も愚かな人間。焼き尽くしてやる……」
札束ドラゴンの矛先は男に向いてしまった。
「だから言わんこっちゃない!あんたの人生ももうおしまいだ!」
「札束フャイ……」
札束フャイヤーが男を焼き尽くすかと思われたその時、
一瞬にして札束ドラゴンが男のスマホへ吸い込まれたではないか!
「ど、どうなったんだ?」
「はははは。望み通り、助けてくれるなりしたなり。ははははは……」
男は例の札束電子化技術を使い、札束ドラゴンを吸収したのである。
安心してスマホの電源を入れると、
「わっ、何だこれ!」
画面の中で札束ドラゴンが暴れ回っているではないか!
「あっ、それは大事な写真が入ったアルバム!やっ、やめろおーっ!」
叫びも虚しく、男のスマホ内画像アルバムの写真は札束フャイヤーの犠牲になってしまった。
「ぎゃあああああああ!」
大事な写真も全ておじゃんである。
悲しむ間もなく、
「あっ、お前何するつもりだ?」
あろうことか自身をメール添付している札束ドラゴンであった。
「まさかそうして色んな人のスマホを介して電子の世界を荒らし回ろうっていうんじゃあ……」
男の予想通り札束ドラゴンを添付したメールは知り合いへ一斉送信され、
「大事な写真がああああ!」
「せっかく課金してレベルを上げたアプリがあああああ!」
「口座番号の情報があああ!」
次々と札束ドラゴンの業火で焦がされてしまった。
その被害は男の友達の知り合いの友達の親戚の……と次々に広がって拡散されていく。
「騒ぎが大きくなるのは犯罪者としては喜ぶべきことだが、こちとら大事な写真を焼き尽くされた恨みがあるからな。札束ドラゴン撲滅計画を考えねば!」
男はスマホ片手にぐでっと怒りを燃やして考え、
「そうだ、電子の世界でデータとなった札束ドラゴンを死滅させるコンピューターウィルスを作ろう……」
制作に取り掛かった。
「うーむ、このウィルスを強力なものにするにはここをこうして……その前に、」
ついついスマホ片手にぐでっとしてしまうので、
「いかんいかん!いつものくせでついスマホ片手にぐでっとしてしまうが、今はPC作業。スマホは関係あらん!」
スマホをタンスの奥にしまい込んで集中作業を続けた。
数時間が経過し、
「できたーっ!」
コンピューターウィルスが完成したはいいが、
「ところで肝心の札束ドラゴンは何処にいるんだろう……」
それが分からなければ話にならないのである。
「友達の親戚のそのまたどうのこうの……ってややこしいなぁ。下手すると今ごろ日本にすらいないかもしれないもんなぁ。いや、それはないか。こうなったら送信経歴を確認して、ウィルス添付メールを送るバケツリレーだ。友達の親戚のそのまたどうのこうのに伝わっていけばいつか札束ドラゴンに追いつくはず!」
男は早速、ウィルスのバケツリレーを始めたが、
「わーっ、ファイルを開いたらウィルスに感染したぁ~!」
「ただでさえ札束ドラゴンの被害で悲惨なことになってたのにどうしてくれるんだよ!」
説明を読まずにウィルスを開いて自滅した者たちが文句を言い出した。
「ああもう、面倒くさい友達やその親戚やそのまた友達だなぁ。ウィルスを添付したって言っただろ!開いたら感染するに決まってるじゃないか。我が身と引き換えに退治するの!」
「えっ?我が身と引き換えはちょっと……」
「それにこっちはもう既に札束ドラゴンの餌食になって後の祭りな訳で……」
「別にその後の人がどうなろうとなぁ……」
「自己中な奴らだなぁ。これは人助けじゃない。復讐なんだ!にっくき札束ドラゴンを倒したくないのか?」
「うーん、簡単に倒せるならいいけど、面倒そうだしなぁ」
「面倒そうなのはちょっと……」
「ええい、なんと面倒くさがりな奴らだ!こんな友達やその親戚やそのまた友達を持った俺が間違いだった!」
愛想を尽かした男は、
「俺は犯罪者なんだ。これは決して人助けなんかじゃないぞ……復讐なんだからな……」
自分で自分に言い聞かせて策を練ったが、
「ダメだ、何も思いつかない!」
これ以上は限界であった。
「仕方ない。こうなったら7時のニュースを待とう。あれだけの事だから大騒ぎになって報道もされるはず」
時間になりニュースをつけると、
「いやはや、とっさの行動が人助けにも金儲けにもなるとは思わんかったです……」
何やら髭面の男が表彰されているではないか。
「何だこいつ?」
「変な札束のオバケが現れたんで、タップして捕まえてアプリストアで換金したら物凄い額になるなんてまさかねぇ……」
「何おう!???」
どうやらこいつは誰にも思いつかなかった事をしれっとやってのけ、札束ドラゴンを多額に換金したようである。
「儲かった儲かった!」
「くっそぉ……ふざけやがって!こうなれば俺はとことん犯罪するまで。いつもの手口で銀行強盗し、億万長者になってやる!」
男はいつも通りスマホ片手にぐでっとくつろいでいるふりをして犯罪を実行しようとしたが、
「あいつは何の努力もなくちやほやされやがって……許せん……」
「これであの髭野郎を見返してやる……ひひひひ……」
怒りや対抗心からそのくつろぎは不自然なものになってしまった。
その不自然なくつろぎ方は通行人の注目を浴び、
「そこのキミ、何してるんだね?」
「銀行強盗」
反射的に答えてから振り返ると、
「!?」
それは警察ではないか。
「はっはっは。銀行強盗ときたか。あんまり警察をからかうもんでないよ」
「そ、そうっすよね……」
ごまかせたかと思った途端、
「またやられたーっ!例の手口不明の銀行強盗だーっ!」
タイミング悪く犯罪の準備が整って計画は実行され、目前の銀行から混乱が巻き起こった。
「何だと?どうしてキミに、銀行強盗が発生することが分かったのかなぁ……?」
「い、いやそれはあの、実は私、予言者でありまして……だからその、もうすぐ銀行強盗が現れるよって意味で銀行強盗と言ったのであり……」
「まぁいい。全てはスマホを見れば分かる事だ」
警察が男のスマホをひったくると、
よりによって電子化された銀行の札束が画面を覆い尽くしているではないか。
「キミは予言者と言ったなぁ。ならば1時間後、自分がどこにいるか予言してみなさい」
「わ、我が家に帰ってます!」
「残念だがハズレだ。これでキミは予言者でないことが証明された。1時間後は……牢屋だよ!」
男の腕にはガチャリと手錠がかけられたのであった。

「なるほどねぇ、一連の完全犯罪は全てお前の仕業だったのか。例の札束ドラゴン誕生もお前の仕業か」
「いやあのその、そうであったりそうでなかったり……」
「けしからん!懲役10年を言い渡す!」
「ぎゃひー!……じゅ、10年も……せめてあの、10ヶ月くらいとか……」
「やかましい!こういうのは甘く扱えば模倣犯が現れるに違いない。だから徹底的にいたぶって軽い気持ちで犯罪を起こされないよう工面するまで!」
「ぎゃひぃ……10年は長いよ……」
こうして男は容赦なく10年コースの牢屋へぶち込まれた。

「うおおおおーっ、出せ!出せぇええ!」
男が牢屋から叫ぶと、
「うるさいぞ。さっさと出ろ」
出してもらえたはいいが、
「変な気を起こすなよ。トイレはあっちだ」
「はぁ、すんませんです……」
刑期を終えたわけでも何でもなくただの用足しであった。
「あぁ、脱獄したい……脱獄したいなぁ……」
男の脳内はその事だけである。
「誰も殴ってませんじゃん。誰も殺してませんじゃん……10年はあんまりだよぉ……」
その思いはやがて確実たる決意に変わり、
「何とかして脱獄しよう!」
固く誓うのであった。
「普通の脱獄では見破られておじゃんだ。普通でない脱獄をしなければ。例えば、それこそ俺の完全犯罪のように電子化してここを抜け出すとか……そうだ、それでいこう!」
しかし、問題はどうやって自分の肉体を電子化するかである。
「銀行の金を電子化できたのは俺がスマホで操作したからだもんなぁ。相棒でも用意しておけば、俺が捕まっても電子化してもらって脱獄できたのか……おーい、相棒!いるなら返事しとくれーい!」
「うるさいぞ!さっさと用を足せ!」
いないものが返事をするはずもなかった。
「あ、すんませーん……それでは小声でゴニョゴニョと。えー、脱獄するには、脱獄するには……」
深く考えたが、
「やっぱり俺が電子化するしかないんだよなぁ」
答えは1つである。
「どうやってこの肉体を電子化するか。それが問題だ……」
普通の建物ならまだしも、よりによって刑務所となれば相当な対策はされているはずであった。
「電子化したら俺も札束ドラゴンみたくやっつけられそうな気もするけどなぁ」
しかし、
「でもでも、今は何としてでも脱獄したい!そうだ、こうなったら一途に願うしかない。脱獄したいと一途に願い続ければその強い願いでコンピューターも狂い、俺を電子化させたいと思いこむはず!」
そんなはずはないのだが、
「脱獄したい、電子化したい……脱獄したい、電子化したい……脱獄と電子化……脱獄と電子化……」
男はそうであると妄信して数十時間に渡って一途に念じ始めた。
「おい、どうしたんだ。しっかりしろ!」
声をかけられても、
「脱獄と電子化……脱獄と電子化……脱獄と電子化あああああ……!」
男の心はもはやここにあらずで、
(ハッ!?)
気が付くと、その精神は電子の世界に取り込まれていた。
(やったぞ、電子化成功だ!)
しかし、肉体の方は相変わらず目の前でボケーっと突っ立っているではないか。
(そうか、俺は心で念じたあまり、精神だけでここへ来てしまったのか。肉体がないと話にならないんだよな。おーい、肉体!戻って来い。肉体やーい!)
念じ続けると、
「ほーい!」
肉体は一瞬にして電子の世界へ吸い込まれた。
(よっしゃ、ほっ!)
電子の世界で肉体と再会した精神は肉体へ宿ると、
「やっぱり電子の存在になっても自分の体が一番だなぁ。脱獄成功!」
作戦の成功を大いに喜んだ。
「それでもって、この電子の世界でどうするかだなぁ……」
そこまでは考えずに入ってしまったのである。
「どうしたらいいのだろうか……」
考えてみれば、牢屋の中なら刑期を終えれば外へ出られても電子の世界からの出方は分からないのだった。
「まずいな。10年経っても出られなかったら、素直に牢屋にいたほうが良かったことになるじゃないか」
そうなると、かえって念願の電子化が仇になった事になるではないか。
「金庫の金を実体化したように、誰かこのスマホを持つ外部の人間に立体化してもらえばいいんだが……そうだ、こんな時こそ札束ドラゴンのようにメール添付だ!」
男はメールアドレスを覚えていた馴染みのある人間の元へ自らを転送したが、
「やあっ!久しぶり。早速だけどこの俺を電子化……」
「ぎえーーーーーーーっ!」
「よっ、オレオレ!今はこんな体だから、早く電子化……」
「ぴぎゃーーーーーーっ!」
「みんな絶叫するけど、馴染みの俺だってー」
「ひゃあああああーっ!」
札束ドラゴンのように異形な姿ではなくとも、電子の世界に突然、人間が現れれば驚くのも無理はない。
「そうかぁ、形は正しくとも、電子の世界に突然現れれば俺も化け物かぁ。人に生きるも虐げられ、化け物と化した者が行う事はただ1つ。社会への復讐だあ!元はと言えば犯罪者。良心なんてないのだ。思う存分、暴れ回ってやる!」
こうしてヤケになった男は電子の世界で悪事の限りを尽くした。
「大事な写真がああああ!」
「せっかく課金してレベルを上げたアプリがあああああ!」
「口座番号の情報があああ!」
「がっはっは。ざまあみろ。悪さされたくないんなら俺を実体化させるこった。素人にできるもんならな!わははは……」
人間の体では札束ドラゴンを退治したように換金もできないのである。
タップして捕まえアプリ内の火炎で焼き尽くそうとした者もいたが、
「フーッ」
男が息を吹きかけると、たちまちその火炎は消火された。
「今の俺にかかれば地獄の業火もこの通り。もちろん水責めだって落雷だって同じ事よ。もはや誰も俺を止められないのだ!わははは……」
その通りかと思われたが、
「でも、これをこうすると……」
「あわわわわ!」
タップされると動きは封じられてしまうのである。
「放せ放せ!24時間そうしているつもりか?」
「そうか、永遠に動きを封じるには……誰かに代役を頼もう!」
「ナニッ」
「交代でタップを繰り返せばこっちも自由に動けるし、お前も身動きがとれないわけだ。そうだろう?」
「いや、あのその、それは……」
「やっぱりそうか。よし、そうと分かれば放してなるものか!」
「あわわわわ!やめろぉ~、放してなるもんです!」
「放してなるもんじゃない!けどそろそろお昼にしたいから……ちょっと代わりに抑えててくれよ」
「はいよー」
「あわわわわ!」
最初に男の動きをタップで封じていた人物は去ったものの代役が男を抑え、相変わらず身動きが取れないのだった。
「放せぇ~放しとくれぇ~」
「よし、もう悪さはしないか?」
「しないしない」
「しない……?」
「し、しません」
「よし分かった。そのように固く誓うのなら解放してやろう。8時間後くらいにな」
「8時間!?長い長い!」
「長い……?」
「な、長いと思うのでございます」
「長いと思う……?」
「み、短いと思うのでございます」
こうして、男は二度と悪事を働けなくなってしまった。
そればかりか、
「はい、電卓はこちらです!Googleマップはこれです。アルバムはね……」
罰として持ち主のいいようにこき使われるようになってしまったのである。
「ああ、俺の人生とは一体……誰か、この状況に同情して俺を立体化し、ここから出してくれぇ~!」
望みを失い、ひたすらに救いを待つ電子男だった。




働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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