小説

㊳忍者の朝ごはん

目覚まし時計が鳴り響き、忍者は起床した。
「おはようでござる!」
手と顔を洗って食卓に着き、
「いただきますでござる!」
朝食に手をつけた途端、忍者の姿が跡形もなく消えたではないか。
これこそが忍法消え身の術であり、忍者流の朝ごはんの食べ方だった。
姿を消しながら天井に張り付いて忍法早食いの術で素早く食べ終え、
「ごちそうさまでござった!」
忍法高速食器洗いで一瞬のうちに洗い物を済ませて出て行った。
「うぬぬ、今日も不発でござったか……」
ランドセルを背負って忍者学校へ向かう忍者はいまいましげに呟いた。
「あの朝ごはんの中には、一口食べればどんな三流忍者でもたちまち一流になると言われる伝説のカルシウム・シノビシウムは入っていなかったようだな……まぁいい。また明日もチャンスはあるでござろう」
その言葉通り、忍者は忍が口にする朝食に僅かな確率で含まれている事がある伝説のカルシウム・シノビシウムを引き当てて一流忍者への大出世を狙っているのである。
だが、忍者がこう呟くのも今日で何十日目になるか分からない。
「おはようでござる!」
学校に着いた忍者がクラスへ入ると、
「ははーっ、佐助大忍者殿ーッ!」
「あなた様が偉大なる一流忍者にあらせられるとは……」
「……何でござろうか?ああっ!?」
昨日まで落ちこぼれ忍者だったはずの佐助が黄金に輝く忍者装束をまとって教壇の上にふんぞり返っているではないか。
「佐助、お主まさか……」
「こら、そこの三流!佐助大忍者殿に向かって佐助とは何だ、佐助とは!」
「今朝からの佐助大忍者殿は、もう昨日までの佐助殿とはわけが違うのだぞ!」
「今朝から……と云うと、やはりシノビシウムの力で……」
「わっはっは!三流や二流の者ども。余のように一流になりたければ、めげずに朝食を摂り続ける事だな。お前らの実力ではとても自力で余には追いつけまい。わっはっは……」
シノビシウムに当たり運よく一流忍者へ昇格した佐助はすっかり天狗状態である。
「おのれ、こんなものはただの運ではないか……拙者も次の朝食には必ず!御免!」
悔しくなった忍者は消え身の術で姿を消し、
「ただいまでござる!」
一瞬にして我が家へと帰宅した。
「学校はどうしたの!?」
忍者の母は怒り気味だったが、
「母上、学校の勉強に何の意味がござろう。努力して勉学に励んだところで、拙者には一流になれる自信はござらん。頼みは一つ、シノビシウムのみ!」
忍者は気に留めずあぐらをかいて禁断の忍術に手をかけた。
「闇忍法・未来移動の術!」
これは一瞬にして朝ごはんを食べたり帰宅したりする忍者特有の高速移動術を使って23時間後・つまり明日の朝ごはんの時間まで飛ぼうという恐るべき忍術である。
だが、三流の忍者には23時間分の高速移動は限界があった。
「ぐわーっ!」
力尽きて倒れ込んだのは、
「深夜3時……」
微妙な時間である。
「ええい、もう少しだというのに!ではもう一度。闇忍法・未来移動の術!」
身体を張って再度術を使い、
「おはようでござる!」
到着した時間はぴったり8時の朝ごはん時であった。
「いただきますでござる!」
体感的には二杯目となる朝ごはんを忍者流の食べ方で完食したが、
「うーむ、今朝もまたシノビシウムはなしか……」
努力は報われずだった。
「いやいや、明日こそは入っているやもしれぬ。諦めなきは忍びの心。二杯分の朝ごはんで得た活力で、再度賭けようぞシノビシウム!闇忍法・未来移動の術!」
今度はしっかり24時間後へ移動し、
「おはようでござる!いただきますでござる!」
あっという間にたいらげたが、
「おのれ、またしても!」
相変わらずシノビシウムは入っていない。
「キーッ!闇忍法・未来移動の術!」
24時間後へ着くと、
「おはようからの、いただきますでござる!」
これでもう4杯目の朝食である。
「あんたここ3日間、朝ごはんにならないと現れないじゃない。もしかしてあの禁断の時間移動術を使ってるんじゃ?あれは危険だって母さんがいつも!」
「いえ母上、一流になる為なら危険な禁断忍法の一つや二つどうってことござらん。努力なくして勝利はござらんのだ!」
「努力って言ってもこれは完全に運だけの問題だし……」
「だから努力で運を引き当てるのではないか。残念ながら今朝もハズレだったようなので、また24時間後に行ってくるでござる。では、御免!」
再び闇忍法で次の日の朝へ飛んだが、
「だあーっ!朝ごはんがないーっ!」
ではないか!
「当然よ!あんたそれで何杯目になるとこだったの?」
「五杯目でござるが……」
「いくらなんでも食べ過ぎ!お腹パンクするよ?」
「その心配はござらん。未来移動といってもタイムワープしているのではなく、24時間の体感を一瞬に感じられるほどに早めているだけなのだ。よって、拙者の胃袋は常に24時間何も食べていない空腹状態。なので母上、早く朝ごはんを!」
「それでもダメ!あんた昨日の朝ごはんを『今朝もハズレだった』って言ってたね。こっちが苦労しておいしく作ってるっていうのに、あんたは味なんか二の次でシノビシウムが入っているかどうかしか考えてないんだ。それならもう何食べたっておんなじじゃないか。わたしゃもう知らないよ。食べたきゃ自分で作りな!努力すれば運を引き当てられるんだろ?大体お前は……」
堪忍袋の緒が切れた母親の説教が始まり、
「そ、そんなぁ……何の為の身体を張った未来移動だったのだ。朝ごはん、朝ごはぁあああん……」
それによって忍者の心は折れてしまった。
その精神の乱れによって禁断の闇忍法を維持する力が保てなくなり、
「あーーーーれーーーーー!」
忍者は時間の波に飲まれて1日目の朝……禁断忍法を使った直後まで逆戻りしてしまった。
「け、結局これはタイムワープだったのか?小学生の拙者には、まだ理解できん……」
だが、原理はともあれ未来移動の代償は大きかった。
「ウッ!」
逆戻りの衝撃で4日分の朝ごはんが一気に忍者の胃袋を埋め尽くしたのである。
「は、腹が、腹が、く、苦しい……母上……救急車を……!」
こうして忍者は4日分の朝ごはんによる過度な満腹感に襲われ入院生活となった。

「いかん……このザマでは、三流忍者どころか六流忍者くらいになってしまう……」
病院のベッドの上で忍者は息も絶え絶えに呟いた。
「何としてでも……一流忍者に……」
根性だけはあるのだが、
「ぐ、ぐわぁ……早く消化されてしまえ。三日目の朝ごはん……」
まだ満腹感に苦しんでいるのである。
「いけませんねぇ忍者さん。まだ二日分の朝ごはんがあなたの胃袋を蹂躙しているんだから。いたーいお注射で追い払わないとねぇ……」
中年の女性看護師が特大の注射器を持って忍者に迫ると、
「こ、こらやめぬか看護師。さてはおぬし敵の回し者だな?拙者に注射は……あーっ!」
有無を言わさずその腕を刺した。
「はいはい静かにしてればすぐ終わりますよ六流忍者さん!」
「ぐおああああああーーーーーっ!」
忍者の絶叫が病院中に響き渡った。

「はぁ、はぁ、はぁ……お、おのれ……看護師め。よくもあのような注射を……」
忍者が筋違いにも看護師を恨んでいると、
「おのれはこっちのセリフだぁ……」
「忍者め、よくも我らをコケにしてくれたな……」
何やら不気味な声が響き渡ってきたではないか。
「ぬっ、何者だ!?」
その問いに答え姿を現したのは、
「我らは貴様に無造作に食べ捨てられた3日目と4日目の朝ごはんなり~」
食パンにフレンチトーストにバナナにヨーグルトに……何と3日目と4日目の未来で食べた朝ごはんそのものである。
「お前たちは注射によって消化・分解されたはずでは?」
「このままで消化・分解されてたまるかぁ……」
「我らの生みの親である貴様の母の言う通り、貴様は料理の味や中身なんて二の次で我らにシノビシウムが入っているかどうかしか考えていなかった……」
「またそれか。そんなことはどうでもいいでござろう。残されて捨てられることを考えれば有難いと思え。大体、バナナやヨーグルトは母上に作られたのではあるまい」
「たわけ!生まれが違っても同日の朝ごはんとなれば実の兄弟も同然。あんな雑に喰われるくらいなら残飯となって我らの有難みを理解してくれる野生動物に美味しく食べてもらった方が幸せだったというものよ!」
「それで、拙者に何の用なのだ」
「用も御用、問答無用!我らをコケにした悪の忍者め、成敗してくれよう!」
言うや否や、朝ごはん軍団は忍者に襲いかかってきた。
「こら、やめぬか!ええい、無礼な朝ごはん共め。こうなれば忍者の底力を思い知らせてくれよう。忍法・消え身の術!」
忍者は一瞬にして姿を消し、
「おのれ、どこへ隠れた?」
「ここだ!バナナ覚悟!忍法・高速手裏剣!」
天井から姿を現すと2人のバナナの身体に連続して手裏剣をお見舞いした。
「ぐわーっ!」
バナナ達が倒れ、
「貴様ァ!」
激高して殴りかかってきたフレンチトーストには、
「忍法・変え身の術!」
の見せどころである。
「最期だ忍者!」
とフレンチトーストが押し潰した相手は、
「な、何をするのだフレンチトースト……」
忍者だったはずが、いつの間にか食パンに入れ替わっているではないか。
「ああっ!?すまぬ食パン!どういうことだこれは……」
「はっはっは。これぞ忍の究極奥義。まだまだこんなものではないでござるよ!忍法・千切りの術!」
忍者は腰の刀を抜いてフレンチトーストに斬りかかり、
「切り捨て御免!」
大声で叫ぶと、
「うぉおおっ!?」
フレンチトーストの全身は千切りとなって崩れ落ちた。
「おのれ忍者め……」
「さぁヨーグルト共。後は貴様らを残すのみ。実態を持たぬ身とはいえ、我が忍術にかかれば貴様らとて塵と化すのが定めというもの。さて、食物だけにどう料理してくれようか……」
忍者は勝利を確信してじりじりとヨーグルトに迫ったが、
「忍者さん!いい加減にしてくださいよ!」
突然ドアが開いて例の看護師が怒鳴り込んできたではないか。
「あなたのけたたましい声が他の部屋まで響いてましたよ。また下らない忍術のお稽古ですか。今のあなたは病人なんですから、おとなしく横になっててもらわないと困るんですよ!」
「はぁ、すんませんでござる……」
「まったくもう世話の焼ける……ん?忍者さん。これは何ですか?これは!」
看護師は目ざとくヨーグルト達を見つけると、つまみあげて忍者の鼻先へ突き出した。
「見ての通り、ヨーグルトでござるが……」
「朝ごはんね?」
「さよう。こやつらは先程の注射で消化・分解されたはずが、何でも拙者への恨みでしぶとく生き残ったらしくこうして復讐に……だが心配ご無用。こんなヨーグルトなど、一流忍者候補の拙者がたやすく成敗してくれるでござる。わっはっは……」
忍者は笑ったが、
「いい加減にしなさーーい!」
看護師は怒鳴り散らした。
「訳の分からない事言って、まだ性懲りもなくシノビシウムだか何だかを狙って朝ごはんを隠し持ってたのね。このヨーグルトは没収します!」
「そのヨーグルトは魔性の化け物。いつ暴れ出すかも分からないのに危険でござるよ」
「おやまぁ、そりゃ恐ろしいねぇ……じゃあ今に襲いかかって来るかもしれないねぇ……」
看護師の目は冷ややかで、忍者の話を信用していないのが一目瞭然である。
「そ、そうなんでござる。だからこうしていると今に……今に……おい、どうしたんだヨーグルト。さっきみたいに拙者に襲いかかれ。今なら拙者を倒せる可能性も上がっておるぞ。さあ来い早く!」
だがヨーグルトはここぞとばかりにしらばっくれてうんともすんとも動かない。
「おいおい、これじゃあ拙者がでたらめを言っているみたいではないか。お前の化け物ぶりをこの分からず屋の看護師に証明するのだ!」
「分からず屋で悪うございましたねぇ……でも、忍者さんも今になーんにも分からなくなりますよぉ……」
「ぎゃあああああああああーーーーーーーーーーーーっ!」
愛想を尽かした看護師は忍者の腕に特大の麻酔注射を打ち込んでいた。

「……ここは何処でござろう?拙者は誰でござろう?……駄目だ。なーんにも分からん……」
目を覚ました忍者はベッドの上で弱々しく呟いたが、
「……って、そんなわけあるかい!拙者は忍者で、ここは忌まわしき病院。看護師め、もう勘弁ならん。拙者の忍術で成敗してくれよう!」
その威勢は衰えていなかった。
「奴は大声を出すとうるさいと怒鳴り込んでくるわけだな。ならばこの病室に忍者流の仕掛けをしておいた上で大声を出し、怒鳴り込んできたところを……といこうか。さて、どんな仕掛けにするかな……」
忍者がにっくき看護師を懲らしめる方法を考えてニタニタしていると、
「こんな仕掛けがいいんじゃないかーい?」
そこへ飛び込んできたのは、
「ヨーグルト!」
である。
「おーいみんな。こいつが俺たち朝ごはんを粗末にした例の不届き忍者だ。たっぷり可愛がってやろうぜー!」
ヨーグルト達が声をかけると、
「おーう!」
続けて入ってきたのはご飯と菓子パンの大群である。
「何だこやつらは!?」
「我ら、朝ごはん軍団!仲間のヨーグルト達からの知らせを受け、朝ごはんをしっかり味わおうとしなかったお前に裁きを下しに参った!」
「だからあれはシノビシウムが……」
「そんなにシノビシウムを求めるなら、大いにそのチャンスに賭けるがいい。今は午前11時。遅くはあるがまだ朝ごはんの時間内だ。我らのうちいずれかがシノビシウムを含んでいてもおかしくはないぞ。完食して確かめてみるんだな!かかれーっ!」
リーダーらしきご飯が叫ぶと、
「おーっ!」
菓子パン達が忍者の口を無理やりこじ開けにかかった。
「ふがががががっ!な、何をするのだ無礼者!」
「大好きなシノビシウムを得るチャンスを与えてやるのだ。有難く思え!」
「ごはーんごはーん」
ご飯軍団が一斉に忍者の口の中へ押しかけ、
「パーンパーン」
菓子パン軍団もその後に続く。
「ふがふがっ!わぁ、やめろ!食べ過ぎで腹を壊して入院しているというのに、これだけ食べたら手術ものだ!」
「一流忍者になる為にはそれくらいどうってことないだろ?ごはーんごはーん」
「そうだそうだ。努力なくして勝利はござらんのだろ?パーンパーン」
「ふがががっ!もう嫌だ。一流忍者嫌だ……ふがががっ!一気に4つも入って来るな!」
「ごはーんごはーん」
「パーンパーン」
「ごはーんごはーん」
「パーンパーン。お腹もパーンパーン」
「ふがやめ、やめろーっ!腹がはちきれるーっ!」
抵抗も虚しく、忍者の胃袋には次々と朝ごはん軍団が押しかけもはや限界に達していた。
「ぐわーっ!これ以上は、これ以上はもう入ら―ん!やめろおおおおおおおおーーーーーーーっ!」
それは病院中に響き渡る大声で、
「いい加減にしろ――――ーーーーーーっ!」
再び例の看護師を呼び寄せてしまった。
忍者への怒りで鬼のような形相となった彼女の目に入ったのは、室内に散らばる朝ごはん軍団である。
「まだ性懲りもなく朝ごはん隠し持ってたのか……」
それを見てしまった看護師の心から理性は失われ、もはや獣面となって怒りの獣と化すのみだった。
「忍者ァアアアアア!おめぇには今すぐこの永眠注射でポックリ逝ってもらう!覚悟ォオオオオオーーーーッ!」
怒りの獣が注射器を振り回して迫り、
「ま、満腹で苦しくて忍術も使えぬ……もはやこれまでか!」
忍者が最期を覚悟したその時である。
眩く輝く黄金の光が忍者の全身を包み込み、
「何だか知らねぇがもう終わりだよォオオオオオーーーーッ!」
怒りの獣の容赦ない一刺しが忍者の腕を直撃したが、
「何ィ!?」
黄金の光に包まれたその腕に触れた注射器は蒸気となって消え失せた。
「はっはっはっはっは……」
眩い光の中から現れた黄金の忍者装束に包まれた者は、
「我こそは、偉大なる一流忍者でござる!」
なんと、一流へと進化した忍者ではないか!
「どうやらあの朝ごはん軍団の中に、奇跡的にシノビシウムが含まれていたようだ。怒りの獣よ、覚悟!」
「グワーオ!」
怒りの獣は鋭いツメとキバを生やして黄金に輝く一流忍者へと襲いかかったが、
「黄金流・消え身の術!」
その攻撃対象は一瞬にして姿を消した。
「!?」
混乱する怒りの獣に対し、
「ここだあっ!」
天井に張り付いていた一流忍者は渾身の一刀を振り下ろした。
「ギャオ―ッ!」
一刀両断された怒りの獣から化け物の皮が剥がれ落ち、
「お注射……しましょうね……」
元の看護師に戻ってばったりと気絶した……一流忍者の勝利である。
「見たか、これぞ一流忍者の実力!」
「おのれ、まさか我らのうちのいずれかに本当にシノビシウムが含まれていたとは……」
「運の良い奴め……このまま敵の糧になって終わったのでは朝ごはんの恥。一流忍者!何としてでもその首頂くぞ!」
朝ごはん軍団とヨーグルトの片方は破れかぶれで一流忍者に挑んだが、
「お勤めご苦労であった。もう貴様らに用はござらん。拙者の栄養分と化すがよい。黄金流・完食の術!」
黄金流忍術によって一瞬のうちに完食され一流忍者の胃袋の中へと消えた。
「黄金流・消化の術!」
一流忍者はこれまた一瞬のうちに胃袋の朝ごはん軍団を消化し、
「さあヨーグルト、残るは貴様1人でござる!」
最後の生き残りとなったヨーグルトと向き合った。
「おのれ、一流忍者め……」
「そう、拙者はもう一流なのだ。貴様如きが敵う相手ではないぞ。降伏するなら見逃してやってもいいが?」
「誰が降伏などするものか!一流忍者、覚悟―ッ!」
ヨーグルトはやぶれかぶれで突進したが、
「なら仕方あるまい。ヨーグルト、いただきますでござる!」
一流忍者が言葉を発し終わると同時にその中身は彼の胃袋へと消えた。
「はっはっは!手強い朝ごはん軍団だったが、一流忍者の拙者にかかれば赤子も同然。実に美味い奴らばかりでござった!……はてさて、戦も終わり、いよいよ拙者の力を皆に触れ回る時が来たな。拙者を三流と嘲っていた一流どもは果たしてどんな顔をするか……」
一流忍者が期待に顔をほころばせた時である。
黄金に輝いていたはずの忍者装束から、銀色の光がうっすらと溢れ出た。
「何だ?」
やがてその銀色の光は金色の輝きを飲み込み、とうとう忍者装束は金から薄い銀へと劣化してしまったではないか。
「バ、バカな!黄金の輝きは一流忍者の証。それがなぜ、こんな地味な色になってしまうのだ!?」
忍者が錯乱していると、
「俺が説明しよう……」
その胃袋から消化寸前のヨーグルトの声が響いた。
「俺は4日目の朝ごはんとして貴様に雑に食べられた時、確かにシノビシウムを含んでいなかった。だが、シノビシウムは何の前兆もなく朝ごはんの中で生まれるもの。俺も貴様と戦ううちに、第2のシノビシウム入り朝ごはんとなっていたというわけだ……」
「そういうことか。しかしこの劣化はどういうわけだ?1つのシノビシウムで一流になれるなら、もう1つ重なれば更に高みの存在へと変わり他の一流忍者ども以上の高貴な存在になり得るはずだが……」
「その考えは甘かったな。1+1=2。1つで一流になれるシノビシウムが二つ重なれば数は足されて2になる。つまり、一流忍者から二流忍者へと格が下がるわけだ……」
「な、なにおう!?」
これはあまりにも衝撃的な事実である。
「忍者よ……俺は力では貴様に及ばなかったが、一矢報いることは叶ったようだ……ふははは、ふはははははは……」
ヨーグルトは満足げに笑いながら静かに消化され、
「がちょおおおおおおーーーーーーーーん!」
忍者は激しいショックを受けてその場に崩れ落ちた。

一ヶ月の月日が流れ、
「努力なくして勝利はござらん。努力なくして、勝利はござらーん!」
二流な忍者は一時的に掴んだ一流の栄光を取り戻すべく滝に打たれて過酷な修行に挑んでいた。
「おお、流石は三流の我らより格が高い二流忍者殿。あそこまで身体を張って修行されているとは!」
「我らも三流忍者として、二流忍者殿を見習わなければなぁ」
三流忍者たちはそう言うが、
「一流忍者になったのに調子に乗って朝ごはんを食べ続け、みすみすチャンスを逃したあのバカを見習って俺達は二の舞いにならないようにしないとな!」
本質的にはバカにしているのである。
「拙者より格下な落ちこぼれの分際で、生意気な!」
忍者は怒ったが、
「うるせぇな、俺達からしたらお前も格下の落ちこぼれよ!」
「オラオラ、もっと自分を痛めつけろぉ!努力と修行で俺達のような一流忍者に戻りたいんだろ?」
佐助を始めとする一流忍者たちが忍者をどやした。
「一度シノビシウムに当たり一流忍者へと進化すれば、黄金流忍術で朝ごはんなど食べなくても空腹を満たせる体となるのだ。それを知らずにヨーグルトなんぞで二流に下がって自滅するとは、とんだおマヌケよ!」
「恥かきついでに、また朝ごはん食って三度目のシノビシウムを当てて一気に三流へと逆戻りしたらどうだ?」
「見た目は二流でも、中身は三流以下だもんな!」
冷徹な一流忍者たちの罵倒が続き、
「くそぉ……ヨーグルトめ……必ず、必ず自力で一流忍者の力と栄誉を取り戻してやるぞおおっ!」
激しさを増す滝水の流れに固く誓う忍者であった。

働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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