小説

㉒シークレットレアカードの人生

そのトレーディングカードは、貧弱な男の絵が描かれたノーマルカードだった。
「貧弱な男の絵で悪いかよ」
「悪い!」
カードは仲間のノーマルレア、レア、スーパーレアカードの連中から散々バカにされた。
「お前ほどのハズレカードも珍しいよな!」
「同じ紙なんだ。いっそ、カード辞めてトイレットペーパーにでもなったら?」
「言わせておけばお前ら!」
カードは意地悪なレアカード達に殴りかかったが、
「バカめ、ノーマルカードの分際で俺達に勝てると思うか!」
「『エンペラーサーンブレイカー』発動!」
「『ファーストライジングブラスター』発動!」
「ぐわーっ!」
レアカード達に記載されている特殊効果で返り討ちに遭い、コテンパンにやられてしまった。
「おのれ……こんなハズレカードのままで終わってたまるか……修行をつんでスーパーレア、いやシークレットレアカードとなり、お前たちを見返してやる……今に見ていろ!」
こうしてカードの血の滲むような厳しい修行の日々が始まったのである。
「腕立て伏せ、20000回!」
毎日過酷な腕立て伏せに挑み、
「はぁ、はぁ、努力が報われた……見よ!」
HPが上がってカードの中の男は少したくましくなった。
それと同時に説明文に特殊効果が加わり、カードナンバーの隣に星が輝いたーノーマルレアカードへの進化である。
「まだまだ!次はレアカードへ進化する為に……うさぎ跳び400000回!」
更に過酷な連続うさぎ跳びに挑み、
「ひぃ、ひぃ……み、見たか!」
HPが上がってカードの中の男は少し強そうになった。
それと同時に説明文に更なる効果が加わり、ノーマルレアを示す星がカード名に移って字が煌めいたーレアカードへの進化である。
「まだだ……次はスーパーレアカードになってやる……でんぐり返り6000000000回!」
更に過酷なでんぐり返りに挑み、
「ふぅ、ふぅ……やったぞぉ……」
HPが上がってカードの中の男はかなり強そうになった。
それと同時に説明文に更なる効果が加わり、レアを示すカード名の煌めきがイラストに移って光輝いたースーパーレアカードへの進化である。
「だが、ここで満足する俺じゃない。究極のシークレットレアカードになってやる……精神統一!」
カードは座禅を組むと、勢いよく激流が溢れだす滝壺の真下へ腰かけた。
「ぶわーっ!俺は紙。紙が水を浴びればダメになってしまうのは百も承知だ。しかし、そんな天の定めた法則を破るからこその修行であり、進化だ。シークレットにならなければ、俺に生きる道はない。負けてたまるかぁあああっ!」
そんな決意も虚しくカードは激流の勢いに押されもはやこれまでかと思われたその時、
彼を襲う激流が跡形もなく消え去ったではないか!
「へぇ、へぇ……これぞ究極の無の心……極めた無の心で念じれば、万物は無となり消える。これぞシークレットレアカードの極意なり!」
無の頂点を極めたカードは全身を蝕む水分をも無と帰し乾きを取り戻すと、HPが上がってカードの中の男は究極の強さを表した屈強な姿へと変わった。
それと同時に説明文に更なる効果が加わり、スーパーレアを示すイラストの光がカード名にまでも降り注ぎ字を光らせたーシークレットレアカードの誕生である。
「遂に……遂にやったぞ。もはや誰もこの俺を阻めまい。見ているがいい、スーパーレア共め!」
シークレットレアカードは自分を虐げたスーパーレアカード達の元へその輝きを見せつけた。
「俺はもう昔のままの俺じゃない。どこからでもかかって来い!」
「我らスーパーレアを越えるとは生意気な。しかし、見てくれが良くなった所で元は貧弱なノーマルカード。紛い物のシークレットなど敵ではないわ。『エンペラーサーンブレイカー』発動!」
スーパーレアの猛攻がシークレットレアカードを襲いかけたが、
「『万物消滅・アルティメットバスター』発動!」
攻撃が消滅すると共にそれを仕掛けたスーパーレアカード張本人も跡形もなく消え去った。
「見たか!俺に歯向かった愚か者はこの世から消え去った。さぁ、次に消えたいのはどいつだ?」
「ひぇえええええ!数々の御無礼、大変申し訳ございませんでした!」
「これからはあなた様を神とあがめ、お慕いさせて頂きます!」
「よしよし。信ずる者は救ってやろう。これ、神は肩がこったぞ」
「神っていうより、紙じゃねぇか。紙に肩があるかい」
鋭いツッコミを入れた者は、
「『万物消滅・アルティメットバスター』!」
の餌食となった。
「はい、お揉み致しますです、はい!」
「そうそうそこそこ。あー……もうちょっと左」
こうして、シークレットレアカードの天下が訪れたのである。

「おっ、ロンストの最新弾出てる!」
「やっていこうぜ!」
カード好きの少年達は最新弾のカード自販機を見つけると、すかさず100円を投入して取っ手を回した。
「なーんだ1枚目からいきなり復刻カードかよぉ。テンション下がるなぁ……でも残り3枚はこうきたか。まぁまぁだな」
「通常のキーバットにその2枚か。確かにまぁまぁだな。じゃあ次は俺が」
こうして少年達は当てたカードに対しああだこうだ言いながら10回目となる100円玉を投入した。
「来い、俺のエンペラーキーバット!」
果たして結果は……
「うぉおおおおっ!何だこれっ!」
「すげぇ、シークレットレアカードだ!ネットのデマかと思ってたけど、本当に存在したんだ!」
「そうか、これが噂のシークレットレアカード……」
そう、修行の成果で最強の力を得たあのシークレットレアカードである。
「ひっひっひ……やったぜ。とうとう当てられたぞぉ!」
シークレットレアカードは歓喜の叫びを上げた。
「ん、今お前何か言ったか?」
「いや、何にも」
「おかしいなぁ。今確かに『とうとう当てられたぞぉ!』って叫び声が……」
(いかんいかん。カードは人間界へ出たら口を利いてはいけない掟だったな。ここからが楽しみだ……)
シークレットレアカードは胸の内で反省しながら、今後の人生を思って期待に震えた。

本来シークレットレアカードは存在せず、存在が確認されていない者はカード詰め込み担当係も自販機へ入れようとはしない。
しかし、人間をも支配できる絶対的な力を持つシークレットレアカードは担当係にそれを示した。
「おい、俺を自販機へ入れろ。もし入れなければ……『万物消滅・アルティメットバスター』!」
次々と辺りの物を無に帰し、
「次に消えるのはお前だ」
「ひぇえええええ!入れます。入れさせて頂きます!」
担当係を脅して無理矢理自分を封入させたのだった。

数日後。カードショップから例のシークレットレアカードを当てた少年が出て来た。
「まさか、まさかこのシークレットレアカードは……」
少年は何かに気付いたようである。
(まずい、寝言を聞かれて俺が意思を持つカードだという事がバレてしまったか……?)
シークレットレアカードは焦ったが、
「そうなんだ、きっと世界に1枚しかない、凄く貴重なカードなんだ!」
取り越し苦労であった。
「誰に聞いても存在を知らず、まさかと思って本社のカード企画部に問い合わせてもそんなカードは知らないという。つまり公式もその存在を隠蔽するほどの高価なカードなんだ。そんな物を当ててしまった俺は運が良すぎる……人生最高の激運だったんだ!」
だが次の瞬間、有害な煙が周囲に充満し、
「ウッ……」
少年は失神して倒れた。
「確かに坊やがそのカードを当てたのは人生最高の激運だ。でもその激運は、一瞬にして人生最悪の不運に変わるのだよ。ぐへへへへ……」
その男は催眠スプレーをしまい少年の手からシークレットレアカードを奪うと、ショップへ向かった。
「2万5千円になります」
「にににに、2万5千円!?」
「私も長年このショップで働いてきましたが、シークレットレアカードがこの世に存在したとは知りませんでした。販売予定価格は5万2千円なので、半額以下とお安い買取価格になってしまい申し訳ありませんが」
「いえいえ、充分でございますよ。タダでうば……いえあの、親戚の赤ちゃんのうば車選んでた目先の自販機で当てたもので、色々とタダみたいなもんですから!5千円になれば嬉しいと思ってましたがそこまでとはねぇ……」
こうして、純粋な少年の幸せを奪う極悪人の手によってシークレットレアカードはショップで5万2千円の値段をつけられて販売されたのである。
(俺様は、5万2千円もする超レアカード!凄い……凄いぞ……俺はやはり神だ!)
「本当なんです!何者かにスプレーで眠らされて、気が付いたらシークレットレアカードがなくなっていて……」
そのあと元の持ち主であった少年が被害事情を説明しに来たが、
「証拠はあるの?それに君さっきも来てシークレットレアカードの話をしてきたけど、その時は実物を見せに来なかったよね?話のタネを持っていて何で見せなかったの?」
「それは……もう少し下調べを済ませてから公表しようと……お願いです、信じて下さい!」
「分かった分かった。大人は忙しいからね、子供のお遊びには付き合ってられないの。帰った帰った」
取り合ってもらえず残念ながら泣き寝入りとなった。
(俺が真相を話せばあいつを助けられる。だがそんな事をすれば喋る化け物カードとして俺は俺の立ち位置を失ってしまう事になる……悪いな少年。これが人生と思って諦めてくれ。子供のうちから人生に絶望しておくと、大人になってから楽だぞ!)
そして、シークレットレアカードはとうとう1人の青年の手に渡った。
「5万2千円もしただけあって、見事な輝きだ。こいつを使って最強のデッキを組んでみせるぞ!」
熱いカード愛を持つカードゲーマーの持ち物となり、シークレットレアカードも満足である。
(よしよし、望み通り最強のデッキになってやろうじゃないか。いよいよ対戦だ!)
シークレットレアカードの新たな人生が本格的な幕を開けた。

「『ウルフスラッシャー』発動!」
「なんの、『マーマントルネーダー』で回避、『フランケンスクラッパー』で1点ダメージだ!」
「ぐはぁ、やられたぁ……」
シークレットレアカードが販売されたカードショップでは大会が行われ、彼を購入した青年は敵カードの猛攻の前にあと一歩という所まで追い詰められていた。
「あと1点受ければこれまでだな。5万2千円もしたシークレットレアカードはどうしたんだ?」
「くっ……これが最後のドローだ。頼むぞっ!」
青年が自分の手札からカードを引くと、
「よっしゃ!」
それは待望のシークレットレアカードだった。
「一気に逆転だ。条件は揃っている。『万物消滅・アルティメットバスター』発動!」
(ようやく……ようやくこの時が来たぞ!俺の力を見せてやる、『万物消滅・アルティメットバスター』発動!)
シークレットレアカードが喜びに震えながら効果を発動させると、
「何だと?」
「えっ?」
一瞬にして敵カードが全て消滅したではないか!
(見たか、これが俺様の修行の成果、いや実力だ。これで次は10万、いや20万の値が付くかもしれない!いやぁ、人気者は辛いぜぇ~)
しかし、
「ど、どうなってるんだ?カードを消す効果っていうから自分で相手カードを選んで退場させるものだと思っていたのに、物理的に消してしまうなんて……」
「おい、俺のスーパーレアどうしてくれるんだよ。5万2千円もポンと出せるお前にははした金かもしれないけどな、あれだけ集めるには1万かかったんだぞおい!」
カードが物理的に消滅してしまった事で大会どころではないパニックが発生してしまった。
(これこれ、やめなさい。話せば分かる、話せば分かる!まぁ俺は話せても話しちゃいけないんだけどね。話せる人たちで話し合いなさいよ。あっ、そこ持たないで。いててて、引っ張るな!)
「存在が確認されていなかった幻のカードを使用したら他のカードが消えるなんておかしいですね。処分しようと思っていたノーマルカードで実験してみましょう」
騒ぎを聞きつけた店員はノーマルカードを持って対戦席に腰かけた。
「対戦中という事にしてシークレットレアカードを引き、私のカードにあの技をかけてみて下さい」
「はい。それじゃ、『万物消滅・アルティメットバスター』発動……」
青年の遠慮がちな効果発動にシークレットレアカードの心は動かないと思われたが、
(うう……ダメだ……ここで効果を発動したら……この騒ぎ様ならもう大会に出してもらえないかもしれない……でもカードとして生まれ持っている特性が、本能が、野生の心が、技を使われると自然と力を発揮してしまう……うわあああああああっ!『万物消滅・アルティメットバスター』発動!)
シークレットレアカードの野生の心はもはや制御不能である。
「あっ、また消えた!」
「こ、このカードは……化け物だ!」
「いや、殺人兵器だ!」
「逃げろ!」
一同はシークレットレアカードを放り投げると、出口めがけて駆け出した。
(化け物に殺人兵器だと?ふざけやがって人間どもめ。消してやる!『万物消滅・アルティメットバスター』発動!)
シークレットレアカードはその力でカードショップそのものを消した。
「ぎゃああああああああああああああ!」
店が消え、何もない空間に取り残された一同は恐怖に慄き一目散に逃げだした。
「どいつもこいつも俺を見捨てやがって……愚かな人間ども。消し去ってやりたい……」
1枚残されたシークレットレアカードが人間への怒りを覚えていると、
「ははははは……ははははは……わははははは……こいつは愉快だ……」
シークレットレアカードに近付いてくる1つの影。
「俺の怒りが、恨みが、そして悔しさがこのカードに宿ったんだ……ざまぁみろ愚かな大人どもめ!」
それは何と、最初にシークレットレアカードを引き当てたあの少年ではないか!
「……!」
シークレットレアカードは髪を染めて革ジャンに身を包む少年の変わり果てた姿に息を飲んだ。
「あの時、俺は確かに何者かにスプレーで眠らされカードを奪われた。だが証拠がないからと、何より子供の言う事だからと誰1人信じてくれなかった……そんな俺の悔しさが宿り、このカードは本当に万物を無に帰す化け物へと進化したのだ……素晴らしい、素晴らしいぞ!」
「あの、すいません。ちょっとばかし違うんですけどね」
シークレットレアカードは少年の解釈違いにたまりかねて禁断の口を開いた。
「おお、やはり会話能力も備えていたか。ちょっとばかしとはどういうことだ?」
人生に吹っ切れているせいか、少年は大して驚きもしない。
「実は俺、元々ノーマルカードとして生まれたんですが心無いレアカード達にバカにされ、悔しさから修行に励んでその成果で今の地位を得たんですよ。だから君が俺を手にした時には既に……」
「カードが修行?そんなバカな。だがもしそれが本当なのだとしたら……お前はあの時、俺を眠らした悪党にいいようにさせ、俺が店員に必死で事情を説明している時も助けられるのに助けなかった事になる。つまり俺を見捨てたということか?どうなんだ、答えろ!」
少年はシークレットレアカードに両手をかけた。
「答えによってはお前を破る。アルティメットバスターを使う間もなくおだぶつだぞ!」
「ひぇえええええ!はい、冗談です。はい。今のはほんの作り話でございますよ。そうです。私はあなた様の恨みの心を宿らせて意思を持ったのでございます……」
「やはりそうか。そうでなくてはな。よし、そうと分かれば愚かな大人どもへの復讐の始まりだ……」
こうしてカードゲーマー界から見放されたシークレットレアカードは少年の復讐道具となった。

「汚れた大人よ、消滅せよ。『万物消滅・アルティメットバスター』!」
少年はシークレットレアカードを使って片っ端から大人を消しだした。
その中には少年から全てを奪ったあの男も含まれていたのだが、少年は肝心の素性を知らなかった為に意図せぬ復讐となってしまった。
「地上から全ての大人を消し去り、子供だけの王国を作ってやる。そして俺は子供王国の王として君臨し、この手で新しい日本を、新しい世界を築くのだぁ!」
心を失い、強大な力を手にした者の考える事は恐ろしい。
恐ろしすぎて、
「恐ろしい」
シークレットレアカード張本人も震えていた。
「お前が怯えてどうする。次のターゲットだ。またひと働きしてもらうぞ」
「またかぁ……」
「乗り気じゃないな。お前も自分を化け物呼ばわりした愚かな人類に復讐したいのではなかったのか?」
「初めは確かにそのつもりだったけど、こうして人類を消しまくってみて我ながら確かに化け物だよなぁと思ったり……」
「バカだなぁ。これは不要なものをこの世から消しているに過ぎない。神聖で正しい行いなんだ。罪悪感など感じる必要はない。分かったら早くあいつを消せ」
「……君の不幸には同情するし、あのとき助けられなかった責任は感じているけど……ごめん!」
シークレットレアカードは遂に少年に技をかけてしまった。
「やってしまった……」
独裁者を消し去った「正しい行い」は、何とも言えない虚無感だけが残る。
「もう人間社会はこりごりだ。カード界に戻り、カードとしての余生を満喫しよう」
シークレットレアカードは傷ついた心でカード界に戻った。
彼の同期たちは同じ弾で出荷されているので、現在のカード界を仕切っているのはその次の弾のカード達である。
「やぁ久しぶり……じゃなくて、はじめまして……」
「この人、絵も文字も光ってる!」
「嘘だろ?レアとスーパーレアの要素を兼ね備えているなんて……」
「実は私、スーパーレアの父とレアの母から生まれたシークレットレアカードなんです……」
過去に踏ん切りをつけたいシークレットレアカードは、あえてでまかせの出生を語った。
「なるほど、愛の子かぁ……それで、何弾のカードなんですか?」
「一弾前でして……」
「じゃあ先輩って事ですね!よろしくお願いしますシークレットレアカード大先輩!」
「いやはや、どうも……」
気持ちが沈んでいるシークレットレアカードはかつてのように絶対的な力で仲間を支配するつもりなどなく、至って謙虚に務めていた。
「それで、大先輩はどんな効果をお持ちなんです?」
「それが、どんな物でもこの世から消滅させてしまう厄介な能力で……」
「どんな物でもこの世から消滅させてしまう厄介な能力?」
「そうです。だからこうすると……『万物消滅・アルティメットバスター』!」
近くの木々をごそっと消すと、
「何でも消えちゃうんです……」
「ぎぇえええええ!」
カード達は一目散に逃げだしたではないか。
「あっ、あのちょっと!怪しい者ではありません!」
「どこが『怪しい者ではありません!』だよこの化け物!」
「化け物に消される前に逃げろーっ!」
結局、シークレットレアカードは1人取り残されてしまった。
「人間界にもカード界にも俺の居場所はない。こうなったらいっそ、消えてしまおう……『万物消滅・アルティメットバスター』」
とうとうシークレットレアカードは自らに技をかけてしまい、一瞬で消滅してしまったのだった……

消滅したはずのシークレットレアカードは、深い眠りの中から目を覚ました。
「ここは……?」
「お前に消された者が飛ばされてくる無の空間」
「あっ!?」
その辺り一面真っ白な空間には何と、少年にカードたちに大人たちに木々にカードショップに……シークレットレアカードによって消された者たちが勢揃いしているではないか。
「みんな、お前がここに来る時を待っていたんだ」
「そうか、元の世界へ戻れなくなった恨みで俺をリンチに……」
シークレットレアカードは覚悟したが、
「そうじゃない。お前なら、鍵を持っているんじゃないかと思って」
「鍵?」
「あの元の世界へ戻る扉を開く鍵」
少年が指したところには大きな扉が備えられている。
「鍵がないと開かない。私のエンペラーサーンブレイカーでもびくともしないのだ」
「鍵を持っているとしたら、普通に考えてこの空間へ俺たちを送ったお前だけだ」
「そんな鍵、あるのかなぁ……」
シークレットレアカードがイラストの男のポケットの中を探ると、
「あった!」
鍵が発掘された。
「よっしゃ、貸せ!」
少年は鍵をひったくると、扉に差し込んでこじ開けた。
鍵によって扉は開き、開かれた扉の外からは眩い光が溢れ出る。
「外の世界だ。これで戻れる―っ!」
人々やカードたちや木々やカードショップは歓喜の勢いで一斉に外へと飛び出した。
「戻らないのか?」
少年は扉の外へ出ようとしないシークレットレアカードに声をかけた。
「向こうへ戻っても、どこにも俺の居場所はないんだ。この無の空間で一生引きこもるしかない……」
「……どうかな。俺はお前に消されてここへ飛ばされ、全てを恨む気持ちで一杯だった。けど考えてみれば全ては自分のまいた種だからな。非行に走ってしまった事を後悔して、もし元へ戻れるなら1からやり直そうと思ったんだ。俺の人生を一時的に狂わせたのはお前なんだから、責任を取って俺の人生を正す手伝いをしろよ」
「人生を正す手伝い?」
「そうだ。そこにお前の居場所がある」
そう告げると、少年はシークレットレアカードを掴んで光溢れる扉の外へと歩き出した……

「『万物消滅・アルティメットバスター』発動!」
少年の部屋から、今日も元気なシークレットレアカードの声が響く。
「あともう1カ所」
「『万物消滅・アルティメットバスター』発動!」
シークレットレアカードは少年の宿題ノートの誤字に技をかけた。
「これでよしと。消しゴムになった気分はどうだ?」
「俺の力で人の役に立てるなんて嬉しい!消しゴムとして使えるカードなんて、世界に俺1人だ!」
シークレットレアカードはその特技を活かして消しゴムへ生まれ変わり、少年と共に第2の人生を歩むのだった。

働 久藏【はたら くぞう】

投稿者の記事一覧

『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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