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土とともに #14(各大陸の説明 3)

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 「「カコル大陸」はさっき説明した「エオリ大陸」の北側、「ポペラ」から北西に位置する大陸ダ。ここも「エオリ」と同様、気温が低い所になル。大陸の沿岸部は山々が連なっていて、たとえ上陸したとしても「カコル人」の案内なしに集落にたどり着くのは難しイ。そして、大陸の中心部には「トッコ」と「レーコ」という二つの集落が存在すル。この二つの集落はお互いの特産物を交換し、共同で生活基盤を作り上げていル。ここを担当する「カコル大臣」は、少々人当たりが強い性格。これは、毎日雪が降りしきり得られる食料も少ないこの大陸で住民たちの心を少しでもたくましくし、生き残る術を身に着けさせるための行動なんだってサ。」
「…そう言われるとお会いするのが怖くなってきました…」
「アハハ、多分君とはそりが合わないネ。あいつの前で少しでも弱気な言動をしたり、逆におちゃらけたりするとすぐ大きな声で一喝されるからネ。」
「そ、そんな…」
「まぁまぁ、今からそこを心配してても仕方ないからサ。もし、あいつに会う機会があったらその時にまた接し方とかを考えれば良いと思うヨ。」
「…本当にそんな感じで大丈夫ですかね…?」
「うーん、だって今こうやって僕の口からあいつのことを言っても君が実際に会ってみないと分からない部分は多いでしョ?」
「まぁ…確かに…」
「だから実際会うまでは考えても仕方ない!それで終わりだヨ。」
「はい、分かりました。」
「うん、じゃあ続けるヨ?次は「カコル人」についてだネ。彼らは口数が少なく、その態度に慣れないうちは冷淡に見えるかもしれなイ。だけど、それはただ単に彼らが感情表現が苦手なだけであって、決して冷たくあしらっているわけではないということを理解してあげてほしイ。根気強く関われば、彼らの心の奥底にある気持ちに寄り添えるようになると思ウ。」
 なるほど。そういえば、自分の同級生にもそういう感じの子がいた。彼も自分の感情を表に出すのが苦手だった。そんな彼に少しでも歩み寄ろうとしていたあの頃の自分。あの時と同じように接することができれば、「カコル人」とも仲良くできるのかもしれない。
「なるほど、分かりました。もし関わる機会があったら根気強く接してみます。」
「うん、そうしてあげテ。よし、とりあえず各大陸の説明は以上となるけどここまで大丈夫かナ?」
「うーん、まぁ一応出てきた事柄については把握できているつもりです。」
「そうだネー…実際に自分の目で確認してみないと分からないことの方が多いからネー。もしどうしても分からない部分があったら、書物とかを見て調べてみたりもしてみてネ。僕の口ですべて説明するのは無理があるからサ…」
「それはもちろんです。」
「うン。じゃあ次ハ…」
 彼がそう言いかけた時、部屋に設置されていたスピーカーからチャイムが鳴った。
「ピンポンパンポン♪えーお呼び出し申し上げます。「大臣」、「大臣」、お伝えしたい要件がございますので、至急A会議室までお越しください。」
「えェー。まだ説明終わってないのニ…ごめん、行かなきゃいけないみたイ。後で案内の者を寄越すから、それが来るまで待っててネ。」
「えっ、ちょっと、「大臣」!?」
 彼はそう言い残すと、駆け足で部屋から出ていった…彼の足音が遠のいていくと、部屋は一気に静かになった。部屋の壁にかかっている時計の秒針が時を刻んでいる…時刻は20:30だった。どうやら時間の概念は僕のいた世界と変わりないようだ。
 それにしても、さきほどの説明を聞いてもなおこの世界の謎はまだまだたくさんある。彼が言っていた「科学災害」という出来事についても、まだ聞けていない。その出来事の影響で、この世界に様々な変化が起こってしまったと彼は言っていた。その話を聞くことができていれば、僕の考察も幅広がったかもしれない。
 などと考えている時、誰かが扉をノックした。
「コンッコンッ。失礼します。「大臣」から案内を任された者です。」
「はーい、どうぞ。」
「ガチャッ。」
 扉を開けて入ってきたのは女性だった。僕と年齢が近そうな感じがした。
「どうも初めまして、私は「ルーニャ」と申します。以後、お見知りおきを。」
「ど、どうも。僕は…」
 そう言いかけて、僕は思い出した。僕の名前はこの世界では使えないのだ…一体どうしたものか…そう悩んでいる僕に、彼女は声をかけてきた。
「大丈夫ですよ「空人」さん、「大臣」からお話は伺っております。」
「えっ…なぜ…」
「私は「大臣」の側近、「補佐官」の一人ですの。ですから、この世界に「空人」がいらっしゃっていることは承知しておりますわ。」
「なるほど…「補佐官」の方だったんですね。」
「はい。とりあえずここにいてもあれですので、あなた様のお部屋までご案内させていただきますわ。」
「そうですね、よろしくお願いします。」
「では、こちらですわ。」
 そう言うと、彼女は歩き始めた。僕はその先導に従ってついていった。彼女の歩き方はとても上品だった。というかその他の細かい仕草までもがしなやかかつ上品だ。女性と話すこと自体久しぶりだというのに、その相手がこんなに美しい人だなんて…僕は彼女の後ろをついていっている間、ずっと緊張していた。すると彼女は口を開いた。
「あなた様は一体どうやってこの世界に来たのですか?」
「えっ、それは…僕にも分かりません…僕はただ、公園で座っていただけなんです。そしたら急に全身が重くなって、気が遠くなって…気づいたらこの世界にいました。」
「ふーん…それは確かによく分かりませんわね…でも私は「空の世界」に興味がありましてよ、色々と伺いたいことがあるんですの。」
「は、はあ…全て答えられるかは分かりませんが、出来る限りは。」
「まあ!本当に!?ありがたいですわ。そうしましたら、こちらがあなた様のお部屋になりますわ。まずは中へどうぞ。」
「ありがとうございます、失礼します。」
 僕は部屋の中へ入った。部屋の内装は和風な雰囲気だった。床には畳がしかれ、行燈が部屋を灯している。
「うわぁ…」
 おもわず声がでてしまった。まるで高級旅館の一室に来たかのような感覚だった。
「その様子だと、お気に召していただけたようですわね。」
「はい、とても。」
「うふふ、それはようございましたわ。ではそちらの椅子にお掛けになって、今お茶をお入れいたしますので。」
「あっ、大丈夫です。さっき「大臣」に頂いたので。」
「あらそうですか。では私の分だけ入れさせていただきますわ。」
 そういうと彼女はお茶を入れ、僕の向かいの椅子に座った。
「それでは「空の世界」のお話、色々と伺わせていただきますわよ。」
「はい、どうぞ。」
 それから、僕は彼女の質問に答えていった。内容は本当に一般的なことだった。世界がどういった分け方をされているかとか、気候はどういう感じだとかそういったものが中心だった。
 気づけば時間は過ぎ、23時になっていた。
「あら、もうすっかりこんな時間ですわね。ごめんなさい、ついつい長くお話ししてしまって…」

「いえいえ、参考になったのなら幸いです。」
「そうですね、色々と新発見がありましたわ。それでは私はこの辺りで失礼いたします。お布団は敷布団となっておりますので、ご自分のタイミングで広げてください。」

「分かりました。ありがとうございます。」
「それでは。」
 そういって、彼女は部屋から出て行った。僕はしばしボーっとしていた。この世界に来てからというもの、ゆっくりできる暇がまったくなかったからである。
 数分ほどボーっとしてから、僕は用意されていた寝間着に着替え眠りについた。明日は一体どうなるんだろうという、不安を期待を抱きながら。

#15へつづく

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