お題ゾンビは土手に寝転がって昼寝していた。
だが、
「眠れない」
昼寝できなかった。
「こういう時は、数を数えよう。数えるものは……そうだ、俺の作ったキャラ」
お題ゾンビは早速数え始めた。
「ひとーつ。銀行強盗……今では銀行ゴート」
「ふたーつ。厄介な女・森本ナナ子」
「みーっつ。真の銀行強盗・虻川将司」
「よーっつ。ナナ子の母」
「いつーつ。ハロウィンパーティーのゴミ」
「むーっつ。野菜を愛した少年」
そこまで数えた時だった。
「ななーつ。お題ゾンビ!」
後ろで大声が響き、お題ゾンビはひっくり返った。
「わっ!」
立ち上がって声の方を見ると、もっと驚いた。
「わわわわっ!」
それは何と、銀行ゴートに森本ナナ子に虻川に……名前を挙げたキャラ達ではないか!
「お前たちは……」
「そう。お題ゾンビ、あなたによって作られた存在です」
「そうか、それなら……」
お題ゾンビはにやりと笑った。
「俺がみんなの創造主……いや、神様、って事になるな」
すごいうぬぼれである。
「お賽銭しなさい。1回20万円から」
「よし、お賽銭してやろう」
虻川を筆頭に一同がお題ゾンビに近づいた。
「ただし、暴力のお賽銭だけどな!」
一同はワッとお題ゾンビに殴りかかった。
「ギャーッ!な、何すんだぁ!?」
「何もしない。ただ暴力するだけだ」
「どうして俺が暴力されなきゃいけないんだ!」
「偉そうだからだ」
「偉いんだもん」
「偉くない」
「偉くなるには?」
「もっと謙虚でありなさい」
「よし、謙虚であろう」
お題ゾンビは心を改めようとしたが、
「謙虚であれない!」
殴られる痛みがひどくて謙虚であれない。
「殴られながらも謙虚である。それが真の謙虚な人というものです」
「言ったなナナ子の母!もう許さない。生みの親としてお仕置きだ!」
お題ゾンビは反撃した。
「行くぞ銀行ゴート!お題ゾンビキック!」
「メェー!」
「ナナ子め、お題ゾンビパンチ!」
「あれーっ!」
「虻川、お題ゾンビスマッシュだ!」
「ごはーっ!」
「ナナ子の母、ハロウィンパーティーのゴミ、野菜を愛した少年、みんなまとめてお題ゾンビダイナマイト!」
「ギャーッ!」
お題ゾンビの必殺技が炸裂し、全員ノックアウトされた。
「がーっはっはっは。見たか、これぞお題ゾンビの底力!」
失神しているので、誰も何も答えない。
「俺が一番強い!」
お題ゾンビは自分の強さに酔いしれた。
「それに比べて、お前たちの弱いこと弱いこと。ははははは……!」
だがそれも虚しくなり、
「うううう……」
泣き出した。
「生み出したキャラに嫌われ殴られるとは、俺は不幸な作者だ……」
お題ゾンビの泣き声のうるささに一同が目を覚ました。
「うるさいぞ!」
虻川が怒ろうとしたが、
「でも何だか可哀想」
ハロウィンパーティーのゴミが同情した。
「確かに可哀想だ」
野菜好きの少年も同意した。
「お題ゾンビを嫌わず、殴らないようにしましょう」
ナナ子の母が提案した。
「虻川様のお髭が剃りたい」
ナナ子は聞いていなかった。
「メェー」
銀行ゴートは聞いているのか聞いてないのか分からなかった。
一同は親しみを込めたまなざしでお題ゾンビを見つめた。
親しみを込められたお題ゾンビは元気を取り戻した。
「おっ?」
両者はしばらく見つめ合い、
「はははははは!」
とりあえず意味なく笑った。
お題ゾンビと仲間たちは無意味ついでに歌って踊り、大いに飲んで食べた。
酔った勢いでお題ゾンビは一同のキャラ性について語り始めた。
「銀行ゴートは俺が銀行強盗に全財産を巻き上げられた腹いせに酷い目に遭わせてやったけど、今思えば初めてのキャラクターとして可愛いもんだよなぁ」
「メェー」
「ナナ子はとにかくインパクト重視で作ったヒロインだよ。こんな銀行員まずいないよなぁ」
「お陰で虻川様と巡り会えましたわ……うひひひ」
「虻川は立派な銀行強盗にしようと思ったんだけど、どこか抜けてるところがあって、楽しかったな」
「いい迷惑だ。こんな女に好かれて終身刑だなんて、俺は世界一不幸な銀行強盗だよ!」
「ナナ子の母は、ある女優さんをモチーフにしたからキャラがイメージしやすかったよ」
「誰がモチーフなのか、気になりますね……」
「ハロウィンパーティーのゴミは、お前の面白いイラストを見つけて物語にしたいと思ったんだ」
「どうでもいいが、お前はハロウィンでポイ捨てしてないだろうな?」
「野菜好きの少年は心が風邪引いてたせいでうまくいかなかったなぁ。お前、本名はなんていうの?」
「お題ゾンビさんに任せますよ。それより今も胃袋の中でパセリの坊やが暴れてて、快感だなぁ……」
「いやぁ、出来不出来はあるけど、改めて思えばみんなかわいいもんだなぁ」
「そうです!みんな可愛いもんです!」
一同は同意した。
「ところでお題ゾンビさん……」
「ここまできたら、次はアレでしょう」
「アレって?」
「アレと言ったらアレだよ。とぼけちゃって。分かってるくせに」
「何のこと……あ、そうか、アレかぁ!」
お題ゾンビは一同の心を察した。
「俺に新たな兄弟を、新たなキャラクターを作ってくれってことだな!」
「そうでーす!」
「お安い御用だよ。なんかリクエストある?」
「お題ゾンビさんに任せますよ」
「そうか少年。それなら好きに作ろう。どうしよっかなぁ……」
お題ゾンビは考えた。
「どうせならインパクトあるキャラがいいな。ナナ子以上にアクの強い……強い?そうか、強いキャラもインパクトあるよなぁ。うーむ……」
数時間かけて考え、
「よし、できたぞ。正義のスーパーヒーロー、ここに誕生!」
原稿用紙の中からお題ゾンビが想像したスーパーヒーローが現れた。
「おおーっ!」
金の仮面と銀のマントが光り輝く逞しき勇姿に、一同が歓声を上げる。
「それで、このヒーローの名前は?」
「それは……」
お題ゾンビが答えようとした時だった。
ヒーローが腰から棒を引き抜き、お題ゾンビの頭めがけて振り下ろした。
「いてーーーっ!な、何すんだ、生みの親に対して!」
「私の生みの親が汚らわしいゾンビとは。こんな醜い生みの親は生みの親ではない。生みのゴミだ」
「親に対してどの口利いてんだ、この野郎!」
怒りに任せて飛びかかったお題ゾンビは相手がヒーローであることを忘れていた。
「化け物ゾンビめ、覚悟しろ。必殺・ゾンビキラー正拳突き!」
ヒーローの拳がお題ゾンビの腹部に炸裂した。
「ごはっ……やら、れたぁぁぁ……」
お題ゾンビは無念の死……ならぬ、無念の失神を遂げた。
「お題ゾンビさん!」
「貴様、生みの親に対して何ということを!」
ヒーローは一同の方を振り向くと、仮面の下で不敵な薄笑いを浮かべた。
「お前たちも醜い……」
その低い声が一同の耳に届いた瞬間、全ては終わっていた。
ヒーローの高速蹴りが一同の急所を射とめていたのだ。
「まいったぁ……」
邪魔者が失神して敗れたのを横目にヒーローは呟いた。
「この世界には醜いものが多すぎる。醜いものは排除して私がこの世界を綺麗にしよう。私は天がつかわした生ける正義の掃除機・バキューマンだ!ふははは。ふははははは……」
バキューマンと名乗ったヒーローは颯爽と立ち去った。
お題ゾンビが目を覚ますと、周りには誰もいなかった。
「あれ?もしかしてみんな夢だったのかな……いてっ!」
体を起こしたお題ゾンビのBの文字をかたどった傷は、紛れもなくバキューマンがつけたものである。
「夢じゃない。みんなはきっと元の世界に帰ったんだ。あんな独善的なヒーローを野放しにしたらこの世界は……まずいことになったぞ!」
どうする、お題ゾンビ?