「こうして不幸な青年は、300円を追いかけたが為に300300300300300300円もの借金を背負ってしまいましたとさ……これでよしと。ネタなしマンがどんな話で攻めてくるかは分からないが、とりあえず俺は自信作を書けたぞ。あとはネタなしマンがとんでもない失敗作を書いて自滅してくれることを願うばかりだ。わはははは……」
お題ゾンビが笑っていると、
「それはどうかな?」
轟音と共に巨大な戦車が現れた。
「あっ、お前は!」
「そう。我らが主役・ネタなしマンである。お題ゾンビ、俺が主役になる最も簡単な方法を思いついた。それは俺が物語の中で強力兵器を作って実体化させ、その兵器でお前を倒すことだ。いざ、覚悟!ズガガガガガ……」
戦車にまたがったネタなしマンは悠然とお題ゾンビの方へ向かってくるではないか。
「ま、待てネタなしマン。暴力で解決しようなんて、バカのする事だぞ。何より自分にはとても対抗できるほどの才能がありませんと言っているようなものじゃないか。お前はそんなバカじゃない、話せば分かる。話せば分かるんだ」
「黙れゾンビ。俺はお前如きに負けるとは思っちゃいない。だが、この戦車は俺の物語を実体化させたもの。それでお前を倒せば、結局は俺の物語で決着をつけたことになるかと思ってな」
「そ、そんな強引なぁ!」
「確かにお前の言う通り、ただ自分の物語で作った戦車で倒すのでは芸がない。だがこの戦車はただの戦車ではない。ストーリー性のある戦車なのだ」
「ストーリー性のある戦車?」
「そう。例えばこのように……」
ネタなしマンが戦車の装置をいじると、
「サルカニガッセンモード」
戦車から黒い霧が流れ、充満して辺り一面を覆い隠した。
「ぶわっ!何だこれは?」
お題ゾンビが思わず目をつぶり、
しばらくして開けると、
「あれっ?」
気が付けばお題ゾンビは高い柿の木に登って柿をほおばり、遥か下でそれを羨ましそうに見上げるカニを見下ろしているではないか。
「おおい、お題ゾンビどん。私にもその柿を分けてくだせぇ」
「何だか分からんがおやすい御用だ。いきますよーそれっ!」
お題ゾンビは柿を一つもいでカニが受け取れるものと思って投げたが、
「わああああああああああっ、やっ、やめてぇえええええ!」
カニの硬い甲羅でも落下してくるカキの直撃には耐えきれず、
ボカ―ン!
あろうことか、爆死してしまった。
「何だよぉ、取って欲しいって言うから投げてやったのに、爆死することはないだろ……悪いことしたみたいで気分悪いなぁ。せめて普通の死に方だったら、残った身体をカニグラタンにでもしておいしく頂いて供養してあげちゃったりなんかしたのになぁ。カニグラタンに比べて、こんな渋柿」
お題ゾンビは柿を食べるのに飽きて木から降り、
「ところで、ここはどこだろう」
辺りを見渡すと、
「どうやら俺の家の近くらしい。その証拠にすぐ近くの家の表札に俺の名前が書かれている!」
すぐに答えは出た。
「ただいまー」
お題ゾンビがその自宅の中へ入ると、
「ん?」
部屋の中にはベールに覆われた巨大な何かがあった。
「何だろう?」
ベールを剥がすと、
「わっ!」
それは例の戦車ではないか!
「母ちゃんの仇!」
戦車に乗り込んでいる子ガ二は憎しみに満ちたまなざしでお題ゾンビ目がけて弾を撃ってくる。
「ひぇええええ!や、やめなさい!さっきのカニの子供か。あれはね、単なる事故だったの。俺はお前の母さんに言われた通りにしてやっただけなの!」
「嘘だ、母ちゃんがお前みたいな奴に自分を爆死させてくれだなんて頼むもんかい!」
「爆死は事故だって言ったろう。とにかく、俺は悪くない。俺はなーんにも悪くない。助けて!」
必死に逃げ回っていると、またあの電子音が流れた。
「カチカチヤマモード」
そして再び黒い霧が辺りを包み、気が付くとお題ゾンビは古びた屋敷の食卓に一人腰かけていた。
「ここは……?」
辺りを見渡すと、目の前のテーブルの上には「狸汁」と書かれた味噌汁が置かれている。
「いや、これは狸汁なんかじゃない」
お題ゾンビは味噌汁をまじまじと見つめて何かを思い出した。
「空腹で倒れそうになっていた俺は近くの畑できなこを盗み喰いしていたら狸と間違えられて老夫婦に捕まり、狸汁にされそうになった。おじいさんが外へ出て行きおばあさん1人になったので、こんなやり方は卑怯だ、どうしても俺を狸汁にするならせめて正々堂々と戦って俺を倒してからにしろと訴えた。納得したおばあさんと一騎打ちの戦いになり、俺が勝ったので代わりにおばあさんをばあさん汁にしてこしらえた。でもおばあさんはおじいさんの妻。せめてもの供養で夫であるおじいさんに食べさせるのが良いと思って、おばあさんに変装しておじいさんの帰りを待っていたのだ」
その後すぐにおじいさんが帰ってきたのでばあさん汁を食べさせ、
「実は俺、狸と間違えられて捕まったお題ゾンビで、本物のおばあさんはさっきの味噌汁の具に使われたものだったりなんかしちゃったりしなかったり……」
真実を知って激しく嘆き悲しむおじいさんを置いておずおずと家を後にした。
しばらく歩いていると、
ズガガガガ……
聞き慣れた嫌な音が響いた。
「嫌な予感」
振り向くと、
「話はおじいさんから聞いたぞ、ゾンビ狸め。おばあさんの仇!」
今度はウサギが例の戦車にまたがってお題ゾンビを狙っているではないか。
「ひぇえええ!」
またもお題ゾンビは復讐の相手に選ばれ、必死で弾をよけ逃げ回ることとなった。
「この殺人鬼め、思い知れ!」
「いやあの、俺は少し盗み喰いしたくらいで狸汁、いやゾンビ汁にされそうになるのが理不尽だから、どうせなら同じ条件下で正々堂々と戦ってゾンビ汁にされようと……」
「でも結局、お前が勝ったじゃないか。お年寄りを相手に、大人げない!」
「いやまぁそこはですねぇ……」
「それに、自分が勝ったら逃がして貰えば済んだ話じゃないか。何もばあさん汁にしなくても!」
「や、それはその、うーん……そりゃまぁ確かに……」
「こうしてくれるわ!」
ウサギが戦車のスイッチを押すと、
「!?」
お題ゾンビの背中に大量のしばが巻きつけられ、
「あちちちっちっちち!」
そのしばに火が付いて燃えだした。
「ひーい、助けてー!」
熱さに苦しみのたうち回っていると、
「オリジナルモード」
またも電子音と共に霧に包まれ、
気が付くとお題ゾンビは公園に佇んでいた。
「背中が熱くないというか、しばがない。熱地獄からは抜け出れたようだな。それでここは一体……?」
見渡してみると、
「トランポリンをやらんかね、トランポリンはいかがかね」
1人の男が大きなトランポリンの近くで道行く人々にトランポリン勧誘を行っている。
「いえ、結構です」
「子供じゃあるまいし……」
人々は皆、断ったが、
「懐かしい。子供の頃を思い出すなぁ」
お題ゾンビは興味津々だった。
「懐かしいだろう。もっと思い出しなさい」
「もっと思い出した」
「もっともっと思い出しなさい」
「もっともっと思い出そう」
「もっともっと思い出したところで、跳んでみなさーい」
男はお題ゾンビの体を掴んで近くに置かれているトランポリンに着地させると、
びよーん
お題ゾンビの体は衝撃で空高く飛ばされた。
「あーれー」
飛ばされていると、
「あーれーは?」
目の前の噴水に若い女性が腰かけている。
「あっ、危ない!」
「キャーッ!」
お題ゾンビはその女性の元に直撃し、
「ハッ」
衝撃で彼女は息絶えてしまった。
「うわわわわわわわわわわ。どうしようどうしようどうしようどうしよう」
慌てていると、
「花子さーん……あっ!」
女性の関係者らしき男が来た。
「死んでいる……」
男はお題ゾンビを憎しみに満ちた眼差しで睨む。
「お前だな」
「お前じゃありません」
「じゃあ誰だ」
「俺にトランポリンを勧めた男です」
「そいつはどこにいる」
「ずっと先です」
「ずっと先からどうやって花子さんを」
「トランポリンを使って俺の体をこの人にぶつけて」
「じゃあやっぱりお前が」
「いや、それはあの……」
「明日は花子さんの結婚式だったんだぞ」
「同情します」
「明後日は花子さんの燃えないゴミの日だったんだぞ」
「同情します」
「明明後日は花子さんの焼きパインの日だったんだぞ」
「同情します」
「同情の日は1週間後だったんだ。それをお前は!」
「すみません!」
「俺は花子さんの婚約者だ。未来の妻を奪われた怒り、こうしてやる!うわああああーっ!」
男が慟哭の雄たけびを上げると、
ズガガガガ……
轟音と共に地底から例の戦車が出現した。
男は戦車に乗り込み、
「お題ゾンビ、今日を花子さんの仇の日にしてやる。覚悟!」
お題ゾンビ目がけて大砲を連射した。
「ひぇえええ、覚悟できません!」
「なら覚悟しなくてもいい。覚悟する間もなく全てを終わらせてやればいいだけだからな!」
「全てを終わりたくありません!」
「黙れ、花子さんはお前のせいで全てを終わらせられたんだ。仇を討ってやる……」
愛する者を失った男の攻撃は執拗である。
「だからあれはただの事故であって……」
「その事故の原因は誰だ?」
「俺をトランポリンで飛ばした……」
「おのれ、どこまでも責任逃れを。許さんぞお!」
とうとう砲弾がお題ゾンビすれすれまで当たり、
「ひぇーっ!」
衝撃でその体は再び宙を舞った。
「あーれー……でも助かった!」
そう思わなくもないが、
「あーれーは?……危ない!」
またもや目前のベンチには小さな男の子が腰かけている。
「うわーっ、ママーッ!」
墜落の衝撃を受け、
「まさか……」
小さな男の子は帰らぬ身となってしまった。
「うわわわわわわわ。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
「死んで詫びろーっ!うちの子の仇!」
声の方を振り向くと、男の子の母親らしき人物が例の戦車にまたがりお題ゾンビ目がけて弾を撃ってきた。
「ひえーっ!」
お題ゾンビは砲撃をかわしてたまらず逃げ回る。
「やりたくてやったわけじゃなくて、不慮の事故みたいなもんで……」
「だったらあんたもこの戦車の威力で不慮の事故に遭うんだね!」
「お題ゾンビ、不慮の事故嫌い!」
「うちの子だって不慮の事故は嫌いだったよ。それなのにあんたは!」
「ごめんなさい!」
「許さん!」
砲撃がお題ゾンビすれすれまで当たり、
「あーれー」
またも空高くへ吹っ飛ばされた。
「あーれー……なんてふざけてる場合じゃない。このままいくと、また誰かにぶつかってその誰かが犠牲に……」
「その心配はない!」
お題ゾンビの体は誰かにぶつかる前に大きなネットに包まれ、事なきを得た。
「あっ、お前は!」
例の戦車からネットを放出してお題ゾンビを受け止めたのは、何とあのネタなしマンである。
「さっきは俺を消そうとしたのに今度は助けるなんて、どういうつもりだ?」
「それはな……こういうことだ!」
言うや否や、ネタなしマンはネットを剥がしてお題ゾンビを放り出した。
「うわーっ!」
高所から真っ逆さまに落とされたお題ゾンビはひとたまりもない……はずだった。
しかし、
「あいてーっ!」
尋常ではない衝撃と痛みに襲われるだけで、お題ゾンビは生きている。
「分かったか、お題ゾンビ。俺がいくらお前を倒す作戦を考えようと、このようにお前は絶対に死なない。何故なら、この一連の物語の世界はコメディだからだ!コメディもので主人公の死などあり得ん」
「な、なるほど……」
「しかし、それはあくまで主人公の意思の問題。主人公が望めば、その人生も終わりにできる」
「俺が人生の終わりを望む?そんなバカな事があるか!」
「これを見てもそう言えるかな?現れよ、彷徨えし幽霊たちよ!」
ネタなしマンが叫ぶと、
「うらめしやぁ……」
「私の体をかえせぇ……」
「ぼくの幸せをかえせぇ……」
「憎い……お前が憎い……」
親ガニ、おばあさん、花子、男の子の幽霊が現れてお題ゾンビを取り囲んだではないか!
「ひぃいい、出たぁ!」
「出たぁ!ではない。出したぁ!の間違いだ。こいつらが幽霊になった原因はお前なんだからな。この殺人鬼!」
「そうだぁ、お前は殺人鬼だぁ……」
「よくも私たちを殺ってくれたなぁ……」
「許さんぞぉ……許さんぞぉ……」
「せめてもの償いに……お前も我々の元へ来い……」
「い、い、いえいえいえいえいえいえいえ、ちょうだいなく遠慮します!」
「ちょうだいなく遠慮するなぁ……」
「償え……償えぇええええ……」
「ここここここここ、こっちだって好きでやったんじゃありませんよ。全ては事故みたいなもももも、もんであって……」
「そうかい……私をばあさん汁にしたのも事故なのかい……随分と能動的な事故だねぇ……」
「いやまぁ、そういう言い方もありますかねぇ……」
「ふははははは、どうだお題ゾンビ!」
ネタなしマンは勝ち誇ったように笑った。
「このストーリー性のある戦車はストーリー煙幕能力によってお前をむかしばなしの悪役に仕立て上げ、その後も独立した物語で更なる悪役へと仕立てた。じきにお前は罪悪感に押し潰され、セルフサービスで自らこの戦車の元へ飛び込んでくるだろう。それがお題ゾンビの最期だ!」
「そういうことか……しかしネタなしマン、俺はお前が思っているほど責任感の強いゾンビじゃない。事の詳細が分かった今となっては、被害者に対して責任は感じない。同情するだけだ。俺が故意に殺したんじゃなくて、お前によって『殺させられた』んだからな。むしろお前の駒にされた自分自身にも同情するよ」
「何だと……?」
お題ゾンビが考えを言い放つと、
「おのれ……我々を手にかけておいて、そこまで開き直るとは……」
「そこまで開き直られると……」
「幽霊としての怨念も効かなくなり……」
「自然と成仏させられてしまう……ああ、うらめしやぁ……」
幽霊たちは自然消滅を余儀なくされた。
「やったぞ!心の勝利だ。さあネタなしマン、俺に弾丸を打ち込んでみろ。できるもんならな!」
「ぐぬぬぬ……」
ネタなしマンの言葉が正しければ、主役であるお題ゾンビは自害させるほか倒しようがないのである。
「見事な逆転劇だ、お題ゾンビ。敵ながら褒めてやるぞ。しかし、お前は重傷を負って入院したことがあったのを覚えているな?死なない程度に痛めつけることはできるのだ。その証拠に、さっき高所から転落した傷が疼き始めている!」
「あっ、本当だ!いてててて……」
「ここで失神しては成り行き上まずいので大事に至ってないだけで、ダメージはかなりのものだ。その体でどこまで逃げ切れるかな?」
「ぐぬぬぬ……」
今度はお題ゾンビが唸らされる番だった。
「さあ、弾丸の衝撃波でもっと傷を負ってもらおうか!」
「もっと傷を負わされて……たまるか……」
お題ゾンビは痛む体を押してよろよろと逃げ出した。
路地裏まで隠れ、
「ここなら安心だ……」
安堵したが、
「うぅううううう……」
そこでは見覚えのある4名が泣いていた。
「俺に大砲を撃ってきた遺族の皆さん!」
「ううううう……そうだよそうだよ。お前のせいで、俺たちは可哀想な遺族の皆さんになっちまったんだよ……」
「母ちゃん……母ちゃんはいい母ちゃんだった……」
「おじいさん……おじいさんはいいおじいさんだった……」
「花子さん……花子さんはいい花子さんだった……」
「うちの子……うちの子はいいうちの子だった……」
遺された者の哀しみは重い。
「ああ、可哀想に……これもみーんな、あのネタなしマンが悪いんですよ」
「これだけの事をしておいて、他人に罪を擦り付けるか……」
「やはりこいつはゾンビ。人間の心を失い、身も心も腐っている……」
「いやそりゃまぁその、ああでもないこうでもない……」
「誰が悪かろうと、直接花子さんたちを手にかけたのはお前だ。それを忘れるな……」
「は、はい……」
「お前を倒して復讐を果たそうかと思ったが、やっぱりやめておく」
「おおおっ、それは助かります!」
「うちの子はそんな物騒なこと、望まないだろうからね」
「花子さんも」
「お母さんも」
「おばあさんも」
「いや、それはその……望んでるみたいですよ……」
「どうして?」
「さっき俺の犠牲者の皆さんの幽霊が出てきて、俺にうらめしや、こっちへ来いって。でも遠慮したら成仏しました……」
「ナニッ」
「まぁ無念そうとはいえ成仏したはしたんで。俺はこれで……」
去ろうとしたが、
「本人たちが望んでいるなら話は別だ。この野郎~!」
遺族たちは一斉にお題ゾンビに殴りかかった。
「ひぇえええ、暴力反対!タコ殴りはやめてーっ!」
「なら一瞬で片づけてやる。うわああーっ!」
一同は慟哭の雄たけびで例の戦車を呼び出して乗り込み、
「こうなれば命を賭けた最後の手段!」
「ファイナルモード」
装置のボタンをいじって武装した。
「お題ゾンビよ、お前を倒そうとしているからには我らも全滅を覚悟の上。目にもの見せてくれるわ!」
「どんな仕掛けがあろうとも、俺は絶対に死なない体なんだ。こうなったら逃げ切ってやるぞ……」
お題ゾンビは武装戦車の砲撃から逃げ回っていると、
チチチチチチ……
ウサギの戦車から不穏な音が鳴り響き、
「おのれ、もはやこれまで。さらば!」
ボカーン!
戦車はウサギもろとも大爆発を起こしたではないか!
「えっ、どうなってんだ?」
「驚いたかお題ゾンビ!我らはこの戦車に自爆装置を仕掛けたのだ。そう、お前を倒せなければ短期間で次々と爆発が起きるようにな!」
「そんなぁ!命を賭けてまで俺を……」
「愛する者の仇もとれずにおめおめと生き恥を晒していられるか。仇をとって余生を満喫するか、仇をとれずここで爆死するかのどちらかだ。それが愛する者の遺志を継ぐということなり!」
「そ、そういう自分を大切にしない思考はよくないなり。考え直して戦車から降りるなり……」
「無駄なり!このシートベルトは標的の命が尽きるまで絶対に外れない仕組みになっている。我らの覚悟を否定するならお題ゾンビ、お前が犠牲になってくれれば済む話よ!」
「そういう話よ。喰らえ!」
容赦ない砲撃がお題ゾンビを襲うが、相変わらず命中はしない。
やがて小ガニに爆発のリミットが迫り、
「母ちゃん、すまん!」
哀れな爆死を遂げてしまった。
「ああ、可哀想に……」
「そう思うのならお題ゾンビ、お前が犠牲になるしかないのだ、覚悟!」
「ひぃいいい、それはもっと可哀想でできません!」
「何が可哀想だい。あんたの犠牲になったうちの子の方がよっぽど可哀想だよっ!」
「花子さんの方が可哀想なのだ。あの世で謝ってこい!」
「あ、あと60年くらいしたら謝りにいきますからちょっと待って!」
「問答無用!」
「ひぃー!」
そうこうしているうち、
母親のタイムリミットが迫った。
「おや、私もそろそろおしまいかい。長いようで短い人生だったよ……」
目を閉じてこれまでの人生を一通り振り返ると、
「さらば!」
壮絶な爆死を遂げた。
「うっ、うわああああああっ!」
それを見て絶叫したのは、お題ゾンビではなく男の方である。
「周りの勢いで俺も同じ道を選んでしまったが、やっぱりこの若さで爆死は早すぎる!お題ゾンビ、助けてくれ!」
「そうですよ。人間そうでなくちゃ。はいはい、今助けますよ!」
お題ゾンビは戦車の操縦席に乗り込んでシートベルトを外そうとしたが、
「ぐぐぐぐ……ダメだ、硬すぎて外れない!」
「だから言ったろう。このシートベルトを外す方法は1つしかない。お前が砲弾の犠牲になるしかないんだ!」
「それは……それだけはちょっと……」
「まだ犠牲者を増やすかお題ゾンビ!」
振り返るとネタなしマンが戦車を構えていた。
「お前の犠牲者は4人から7人に増えた。そして今8人目に増えようとしている。何とも思わないのか?」
「そりゃまぁ、思うけど……」
「お題ゾンビ……このままじゃ死なないからな!」
男は涙ながらに訴えた。
「俺がここで死んだらお前のせいだ。花子さんがなったように俺も幽霊となり、化けて出てやる。お前がここまで犠牲者を出しておいてのうのうと生きるのは絶対に許さない。全身全霊でお前を呪い、今後お前の人生におけるありとあらゆる快楽を封じて終始不幸にしてやる!」
「……」
「それが嫌なら……助けてくれ!」
「助けてくれって……自分を助けるか、この人を助けるかって事か……」
「お題ゾンビ。やはりお前には心が無いな。この男は愛人の仇に命乞いしている。どれだけ惨めな状況か、こいつの立場になって考えてみろ」
「……可哀想に……」
「そう思うならお前が犠牲になるのだ!」
「でも……」
苦悩していると、
チチチチ……
とうとう男の最期の時が刻まれ始めた。
「うわあああああっ、嫌だ。助けてくれお題ゾンビ!」
「くっ……」
「さあ、どうするお題ゾンビ?」
「あと40秒……」
「……」
「あと30秒……」
「……」
「あと20秒……」
「……」
「どうしたお題ゾンビ!」
「あと10秒……お題ゾンビ、助けてくれええええっ!」
「お題ゾンビ!」
「う……うわああああああああああああああああっ!」
とうとうお題ゾンビは覚悟を決めて戦車へ向けて突っ込んだ!
「恩に着るぞお題ゾンビ。花子さんの仇!」
断罪の砲弾はいくぶんか申し訳なさと感謝の気持ちを込めながら、容赦なくお題ゾンビを貫いた……
「ふははははは、やったぞお、お題ゾンビの最期だ!これでここからの主役はこの俺様・ネタなしマンだあ!ふははは、ふははははは……」
果たして、お題ゾンビは本当にこれで終わってしまったのだろうか?