目の前に広がる光景にしばらくあっけを取られていたが、ふと後ろを振り返ると巨大な球体が宙に浮かんでいた。どうやら僕たちが今までいた場所は、あの宙に浮く球体の中だったらしい。周りを見渡しても同じ高さにあるものは一切なく、この世界では一番と言っていいほどの高さに位置していたようだ。だから空の世界があんなに近くで見えたのだ。
そしてもう一つ、この世界は現実世界とほぼ同じくらいの「空間」が広がっているようだった。さきほど「巨大な大陸が2つほどある」と言ったが、それはここから見える範囲の話でどうやら奥の方にまだ大陸のような何かがありそうなのだ。現実世界でも全ての大陸を目視で見ることはできない。この世界もそれと同じようにまだ見えぬ広大な土地が広がっているらしい。
ここまでくると、夢だとか幻覚だとは言えないレベルで現実味を帯びてきていた。実際、あの球体から出た時の気温差や風など、それはまさに現実で感じるのとまったく同じものだった。つまり、「この世界は実際に存在している」ということがようやく明確になったのである。
そんなことを考えている間に、やがて地表が見えてきた。地表には牧場のような施設が無数に存在していたが、なんとそこには意外にも牛や豚など見覚えのある動物たちがいたのだ。驚いた、この世界にきてまさか見覚えのある動物を見ることになるとは。そんな僕の様子を察したのか、神が言った。
「あれは家畜たちだ。この大陸にのみ生息している。この大陸の者たちは彼らの力を借りて生活している。」
「はぁ。。。」
現実世界で言うところの「農民」と同じような生活スタイルなのだろうか。
「空中移動はここまでだ、ここからは歩きでポペラヒルクへ向かうぞ」
彼がそう言うと移動していた身体はピタッと止まり、ゆっくりと下降していく。そして僕はこの大陸に初めて足をつけたのだった。
聞き覚えのある鳴き声が辺り一帯に響き渡っている。地面は相変わらず土で、周りの風景は絵に描いたような「田舎道」という感じである。普段人が歩いているであろう「道」はしっかりと踏みしめられており、植物などが生えていないのが一目瞭然である。それが多少クネクネしながら遠くまで続いている。ここだけを切り取ると、自分が異世界にいるということはまったくわからない。実際には行ったことはないのにどこか懐かしい、現実世界の「田舎」に来たような気分だ。
「あそこに見えるのがポペラヒルクだ。」
若干呆けていた僕は彼の言葉にはっとする。気を取り直し彼が指さす方向を見ると、少し高い建物が密集している場所があった。
「あれがポペラヒルク…。」
東の都市だというからもっと大きい「街」だと思っていたが、予想に反して「THE田舎町」という印象を受けた。この世界ではやはり基準が違うんだなと思いつつ、僕たちは「ポペラヒルク」へ向けて歩き出した。
小説
土とともに #5(いざ「ポペラヒルク」へ 下)
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