「へへへへぇ、儲かったぞ1億円!まさか物語を作っていたら主人公に話を進める主導権を買収されるなんて夢にも思わなかったけど、それで1億もらえるなんてのもまた夢にも思わなかったよなぁ。さてさて、どうやって使おうかな……」
1億もの大金に恵まれたお題ゾンビは天国気分だったが、
「それ偽札じゃん」
「へっ?」
冷めた通行人がお題ゾンビにツッコミを入れた。
「当たり前だろ。フィクションの世界の金なんだから」
「そ、そそそそそんなはずがあるか!あっ、おまわりさん!」
お題ゾンビは通りすがりの警官を呼び止め、
「このお金、本物ですよね?」
聞いたが、
「偽札だよ」
「そんなぁ!」
現実は厳しかった。
「君、これを使おうとしたのだね?」
「い、いえ、だからその、使えるかなぁと思っておまわりさんに聞いたんですよ……だからね……」
「ごまかしても無駄だ!偽札製造容疑で、逮捕する!」
「ひぃいいい、誤解です!お題ゾンビ、犯罪してない!犯罪好きじゃない!」
「じゃあその金を作ったのは誰だ?」
「何でも買うマン、いえ電撃!何でも買うマンです!」
「そいつはどこにいる?」
「俺の作った物語の中です!」
「ほーお、なーるほど。自分の作ったキャラに偽札を作らせ、実体化して使おうとはふてぇ野郎だ!」
「だ、だから誤解です!あいつが話を進める主導権くれたら1億くれるっていうから、それで……」
「問答無用!逮捕だーっ!」
「ダメだこりゃ。に、逃げろーっ!」
お題ゾンビが逃げ、
「待てーっ!」
警官がその後を追う。
逃げ回っていると、
「あっ、俺!」
もう1人のお題ゾンビに出くわした。
「おー、お前こそ俺じゃないか。何でも買うマン良かったぜ。俺の何でも売るマンはどうだった?」
「いやぁ、面白かったよ。俺が書いた何でも買うマンなんかより全然良くできてたと思うぜ」
「ホントに!?いやぁ、本体にそんな風に言ってもらえるとは嬉しいなぁ」
2人になったときはああだこうだ言い合っていたが、何でも売るマンと何でも買うマンの物語は何だかんだで交代に書いていたのである。
「あ、俺さ、ちょっとトイレ」
「ああ、トイレか」
お題ゾンビはそう言ってその場を離れたが、
「トイレ?この辺りにトイレなんてあったかな?ずっと先まで行かないとないんじゃあ……」
コピーの知りうる限り近くにトイレはない。
見渡していると、
「あっ、見つけたぞ!こら、逮捕だーっ!」
警官が追い付いてきた。
「えっ、何ですか逮捕って」
「偽札製造の疑いでの逮捕だ」
「そんな事したヤツがいるんですか?」
「いるんだよなぁすぐ近くに。そう目の前に。そこのお前だよ!」
そう言って警官はコピーに手錠をかけた。
「あーっ、何だこれ!」
「手錠に決まってんだろ。さぁお題ゾンビ、偽札製造の罪は重いぞ。署まで連行だ!」
「そ、そういうことか。トイレだなんて言って、本体の奴め俺に罪を擦り付けようと……違うんです!俺はお題ゾンビ本体ではなくネタなしマンの物語の中から生まれたいわばお題ゾンビのコピーであって、偽札を作ったのは俺じゃなくて……」
「まだ訳の分からないことを言うかこの野郎。言い訳は署でゆっくりと聞いてやる。さあ来い!」
「あーれー、助けてーっ!俺は無実だーっ!無実なんだよーっ!」
叫びも虚しく、コピーは連行されてしまったのであった。
近くの草むらから出てきたのは、もちろん本物のお題ゾンビである。
「ひひひ……うまくいったぜ。コピー君には申し訳ないけど、本体様は逃げ延びさせてもらうよ……」
図らずも、コピーは自分の書いた何でも売るマンと同じ警察連行オチを辿ってしまったのだった。
「待てよ?それなら俺もまた雷に打たれるという事か?ひぇえ、くわばらくわばら。……あ、でも何でも買うマンがお金で解決したから、俺も雷を買収すれば何とかなるかも……」
そう思って財布をあさったが、
「全財産たったの597円しかないや。これじゃあ雷も買収できないよなぁ。例の1億円は偽札だし……」
このザマである。
「ああ、怖いなぁ。きっと今にゴロゴロと……」
怯えていると、
「こらああああああああーっ!バカモーン!」
確かに大きな雷が落ちた!
「や、ら、れたぁー」
ばったりと倒れたお題ゾンビだが、
「まったく、これだから最近の若いモンは……しっかりせんかい!」
「ん?」
前に雷に打たれた時ほど激しい苦痛はないではないか。
「こんな作者では、先が思いやられるわい」
目の前でぶつくさ言っている老人の姿から察するに、どうやらお題ゾンビに落ちた「カミナリ」はこの老人の叱責だったようである。
「なんだ、そっちのカミナリかぁ……」
「そっちのカミナリだけじゃないぞ」
言った途端、
老人の指先から電撃が流れた!
「ひぇえええええ!」
「こっちの雷の専門なのじゃ」
「それじゃあまさか、雷神様か何かだったり……?」
「そうそう、そんなんだったりするのじゃ!」
見ると、いつの間にか老人は雷神の正体を現していた。
「はぇええ……本当に雷神様だ……あっ、それでどうして俺が怒られなければいけないんです?」
「それを分かっていないからじゃ」
「えっ?」
「怒られる原因が分からんから怒られる。怒られる原因が分かっている奴は既にその原因を対処していて怒られなどせんわい!」
「分かるような、分からないような……」
「どうせいつまでたっても分からんじゃろうから教えてやる。お前がおかしな事に巻き込まれたり、それを得ておかしな話を作ったりを繰り返して今回で30本目。じゃから30を記念して何か特別な事をせいというからに!」
「あ、そういうことか……」
「30といえば、なんじゃ?何かいいアイデアはあらんのか?」
「それが、あらんのです」
「簡単に投げ出すな。しっかり考えんかい。アイデアの電球が切れとるんじゃないか?ワシが頭に雷を落として充電させてやろうか?」
「けけけ結構です!お題ゾンビの電球はつくときにつけば良いのであって……そうだ、またカードの話にでもするか。むかしむかし、あるところに30枚のカードが……」
「いかん!もう二度も連続したネタではないか。どんだけ好きなんじゃ。もっと記念的な内容にせい!」
「記念ねぇ……」
「そうそう。30本目じゃぞーっ!と言うようなパーッとしたお祭りにするのじゃ。ちっとは感慨深さってもんがあるじゃろう」
「そりゃあ、ありますよ」
「じゃあそれを中身に活かすのじゃ」
「うーむ……お祭りかぁ……また無難に21~29本目の新キャラ集めてパーッとやるかぁ……でも、ただ集めるだけじゃ10本目の時と同じだから……ん?ちょっと待てよ?」
「何じゃ」
「30本目と言いますけど、今回は30本目じゃないんですよ。ネタなしマンの野郎のお題ゾンビ死す!?とコピーの何でも売るマンは俺が作った訳じゃないから、正確にはまだ28本目って訳で」
「まぁそうなんじゃが、そこは一連のお題ゾンビシリーズとでも言うべき括りがあってな。誰が書いても1本1本にカウントされるのじゃよ」
「そう言われても、なんか実感ないなぁ……」
「お前になくともこっちにはあるのじゃ。無理やりでも実感せんかい!」
「分かりましたよ。無理やり実感……しながら、考えてみると……ただ集めるだけじゃなくて、せっかくならチームにでもしたいよなぁ。チームといえば……戦隊だ!」
「戦隊?あのなんちゃらマンとか、なんちゃらレンジャーってやつか?」
「なんちゃらマンは売るマンとか買うマンで出てきたからレンジャーになりますけどね。30本記念に、俺が今まで作ったキャラを5人揃えて戦隊チームにしてみると!」
「してみると、どうなるんじゃ?」
「それはしてみてからのお楽しみですよ。さて、誰をメンバーにしようかな……まずはあいつとあいつと……よし、これで決まりだ!」
お題ゾンビが原稿用紙から出現させたのは……
「論文なんぞはサラリと済ませ、ひたすら走るぜ赤い閃光・お題レッド!」
「おお、レッドは例の卒業論文に悩んでいた元・高校生……今じゃ陸上選手じゃないか」
「痺れる電流は正義の証。雷光るぜ黄色い稲妻・お題イエロー!」
「イエローは安定の電撃!何でも買うマンじゃな」
「神を信じて平和を祈り、戦う姿は青い竜巻・お題ブルー!」
「おお、ブルーは2021年とは予想外じゃ!」
「野菜を愛してたかが半年。愛する心は緑の弾丸・お題グリーン!」
「野菜少年!そういえばいたのぉこんなキャラ。で、肝心の5人目は見当たらんが?」
「フフフ……実はもう、目の前にいるのです」
「目の前じゃって?ワシの目の前にいるのはお前しかおらんように見えるが……実は蚊でも飛んでいて、その蚊が5人目とかか?」
「はははは。蚊がヒーローになんかなれるわけないじゃないですかぁ。5人目は……」
「5人目は?」
「この俺だ!」
言うや否や、お題ゾンビは黄金の仮面とスーツを纏ったヒーローに大変身したではないか!
「無限のお題を力に変えて、創る世界は黄金の輝き・お題ゴールド!」
「5人目はお前かぁ!なるほど、これは愉快じゃないか。」
「はてさて、5人揃って戦隊結成といえば……」
「結成といえば、メンバーをスカウトする司令官じゃな。メンバーを決めたのはお前じゃが、ここは年の功でワシが……」
「いえいえ、そんなもんは不要です。司令官なしで戦い抜いた戦隊だっているしね。やっぱりここからは……悪の怪物との戦いだ!」
「そうか、司令官が不要なのは残念じゃが戦いがないとな。存分に戦ってくるといい。それで、その悪の怪物はどこじゃ?」
「それが……」
辺りを見渡すが、
「どこにもおらんのです」
そうなのである。
「そんなら自分で作るしかないなぁ。クモ怪人でもトカゲ怪人でも作って戦ったらどうじゃ」
「まぁそうなんですが……正義の味方は目の前で非道の限りを尽くす怪人の前に颯爽と現れて退治するものであって、セルフで怪人作ってそれをやっつけるっていうのはなぁ……わざと野放しにして非道の限りを尽くさせたら再現できるけど、それって結局は正義の味方である俺達が自分のこだわりの為に市民の平和を脅かすって事じゃないですか。そんなんじゃ正義どころか悪の組織と同じじゃないですか」
「ううむ、確かに……これは難しい問題じゃなぁ」
「この難しい問題を解決するには……異形の者を悪の怪物と断定して5人でボコ殴りにするしかない。俺は異形なゾンビだが今はこの金仮面で覆われてヒーローしている。となると……」
「となると?」
「悪の怪物はそんな所で変な格好をしている雷神、お前だ!」
「えーっ、ワシ!?」
「みんな、かかれーっ!」
お題ゾンビ……ならぬお題ゴールドの号令でメンバーは一斉に雷神に襲いかかった。
「ワーッ!」
だが、
「バカモーン!」
雷神の一喝と共に超高圧電流を帯びた雷が5人を貫き、
「やら、れたぁ……」
全員ノックアウトである。
「まったく、調子に乗りおってからに!フン、フン!」
雷神は怒って去って行った。
「け、結局……雷に打たれてしまい……」
もうろうとした意識の中、最後にお題ゴールドは呟いた。
「それぞれの個性もロクに活かせないまま、チーム名決める前に全滅しちゃったあ……」
このザマではもはや全滅レンジャーか失神レンジャーがいいところである。