小説

㉙何でも買うマンの喜劇

「うおーっ、買うぞ買うぞ買うぞーっ!」
平和な町に、いきなり馬にまたがったやかましいカウボーイが現れた。
「俺は買うボーイ・何でも買うマンだ!要らないものがあればどんどん売ってくれ。その名の通り、何でも買ってやるぜ!」
「ん?今何でも買うって言ったよね?」
「じゃあ何でも買ってもらおうか、さっきの大掃除で出てきたホコリの塊3000円!」
「さっき買ったトンカツ弁当の食べ終わった容器だけ50000円!」
揚げ足を取って高額をせしめようとするセコい市民たちだったが、
「買ったあ!ホコリの塊とトンカツ弁当の容器、合わせて53000円ね!」
何でも買うマンは本当にこんなゴミに躊躇なく言い値を支払ったのである。
「おお、いいねいいね。弁当の容器にホコリを乗せて、ホコリ弁当。なーんちゃって。食いたくねー」
高額でゴミを押し付けられても物ともせずに購入品を眺めて楽しむ何でも買うマンの大胆な姿勢の前に市民たちは調子に乗り、次々とゴミを売りつけた。
「何でも買うマン君。この鼻かんだティッシュ、15万で買ってくれたまえ!」
「食べきれないからカップ麺の残り、30万で買って!」
「おお、安いねぇ!そっちもこっちも買ったあ!」
こうして何でも買うマンは次々と高額なゴミを買い続けていく。
「何か、こんなゴミで高額せしめて申し訳ない気がするなぁ」
ある時、1人の若者が何でも買うマンに申し訳なさを覚えた。
「いやいや、あんたらのゴミも、何でも買うマンにとっちゃあ宝の中の宝。遠慮するこたぁないです」
「別にこっちは金が欲しいだけなんだ。ゴミを50万で押し付けるくらいなら、ただ20万貰えれば満足なんだが……」
「それじゃあこっちがただ20万あげてるだけじゃないですかよ。そんな親切はできませんね。あんたのゴミも私にとっちゃ宝なんだから、50万の価値を見出している訳で至って問題ないの!」
この調子で何でも買うマンはどんなものにもあり得ない大金を支払っていったのである。
「いやぁ楽しい。金を使うのは楽しい楽しい!なんせ何でも買うマンには泉の様に湧き出る魔法のお小遣いがあるんだからな」
何でも買うマンが腰の巾着袋を開くと、
空っぽの巾着袋から50万もの大金が湧くように現れたではないか!
「この買うマン小型造幣機があれば、いくらでも金が作れる。金さえあれば、俺の大好きな買い物を永遠に続けられるというわけだ!買いたい……この世の全てを、この手で買い尽くしたい!」
こうして無限に増え続ける大金が何でも買うマンの尽きない購入欲を無限に満たしていくのであった。
「そして、今この俺がもっとも欲しいものは……」
何なのだろうか?
「ここから先の展開を決める主導権だ!」
!?
「作者の掌で踊らされるキャラを続けるのは御免だ。それに、死亡オチの恐れもあるしな。俺は誰にも縛られず自由に生きたい。だからここから先の展開を決める主導権を俺に売ってくれ!」
いや、そういうのはちょっと……
「50万なんてはした金じゃなくて、100万でも200万でも500万でも……」
500万……
「そんなはした金、と思うでしょ?ところがどっこい。1000万でも2000万でも無限に払えちゃうんだなぁこれが!それもはした金と言うのなら、いっそ1億でも……」
売ったあ!
「よっしゃあ!確かに買ったぞ主導権!ここから先の文章は全てこの俺が書く。具体的には、」
こうしてこの俺・何でも買うマンは主導権を握ったのである。
「こんな感じの一人称視点での文章に変更になるんで、そこんとこヨロシク!」

遂に買ったぞ主導権!ここからは全て俺の思うがままの展開にできるのである。
「例えば、」
俺の目の前にいきなり500人もの販売人たちが現れた。
「こう書けば……」
本当に現れるのだ!
「何でも買うマン、このマンガを30万で買ってくれ!」
「このゲーム90万で!」
「カード1枚8千億!」
「こっちは9千億だ!」
「はいはい買います買います。いくらでも買うのが何でも買うマンのいいところ。あれもこれもそれもどれもみーんな買ってしまうのだよ!」
こうして500人もの販売人たちから全ての売り物を買い尽くすと、
「いやぁ、満足満足!」
である。
しかし、
「困ったな。この先の展開どうしよう」
いざ主導権を握っても買い物するくらいの展開しか思いつかない。
「よし、展開に詰まったので、ここからは回想シーンでお送りします!」
回想シーンとは、
「何でも買うマンが何でも買うマンになったわけ!」
のことである。

この何でも買うマンも、元々は普通の少年だった。
「このプラモデル欲しいなぁ」
「このゲーム欲しいなぁ」
昔は純粋にその時欲しいものを買ってきた。
だがある時、
「この店の商品を全部貰おうか」
用事で来ていた百貨店で金持ちが大胆な買い物をする光景を目撃してしまったのである。
「凄いなぁ、カッコいいなぁ」
買うマン少年にとって、その見ず知らずの金持ちはヒーローだった。
「俺もあんなカッコいい大人になりたいなぁ」
「我が家のような貧乏家ではお前がよほど出世でもしない限りまず無理だなぁ」
父親はそんな風に言うではないか。
「父ちゃん、そりゃないだろ。俺がせっかく夢見てるのに、なに現実的してるんだよ!」
「いや父ちゃんは、お前のためを思って」
「俺のためを思うと現実的になるんなら、俺のためを思わなくていいよ!」
そんなこんなで大人になった俺は、
「この店の商品を全部貰おうか」
幼少期に憧れた見ず知らずの金持ちと同じ行為を行えたのはいいが、
「開けろコラァ!金払え!」
「居留守を使っても無駄だぞ!」
「居留守代は500万だ!」
それは全て莫大な借金を背負ってのものだった。
「ひぃいい……借金なんかに頼ったのが間違いだった……」
「今更気付いても遅いわ!」
とうとうドリルでドアをこじ開けた借金取りに見つかってしまい、
「金を払え!」
「持っておりません……」
「そうかい。なら一緒に来てもらおうか!」
連れ去られてしまったのである。
「あーれー、誰か助けてーっ!哀れな俺の借金の保証人になってくれー!」
そんなものを引き受けてくれる天使のような人物がいるわけがない。
「奴隷の様に働いてもらうぞ!」
「うぅ……俺はどこで人生の道を踏み違えたのだろうか……貧乏人の分際であんな金持ちに憧れたのが間違いだった……」
「そうよ、人生なんて間違いだらけよ。分かったらさっさと働け!」
「間違いだったとはいえ……あの店の商品を全部買った時は最高級の快感だった。こうなったら現実逃避を極め、一生あの快感に浸っていこう」
そう決意すると、俺は仕事の手を止め現実逃避を始めた。
「何をしてやがるんだ。さっさと働け!」
「快感だったなぁ……あの買い物の瞬間……」
「あっ、この野郎!現実逃避なんかしやがってからに!もういい。こうなったらお前を亡き者にして、保険金で借金返済させてやる。おらあああーっ!」
冷酷な借金取りが凶器を振り上げたその時、
「うーん、莫大な金を使うのは気持ちいいなぁ……」
「な、何っ⁉」
俺の体は真っ赤な光のバリアに包まれた……らしい。自分じゃ見えなかったけど。
やがてその光の中から現れた俺は、
「誕生・何でも買うマン!」
となっていた。
「ど、どういう原理だ、これは」
今となっては分かる。説明しよう。
俺の心が現実逃避を始めるとそれは体全体に行き渡り、体の構造も現実逃避型、つまりは現実世界におけるあらゆる物理の法則を無視した状態となる。それによって、どんな不可能も可能となるのである!
「原理なんてどうでもいい。大切なのは金だ。そうだろう?」
「いやはや、実にその通り。何でも買うマンだか何だか知らんが、さっさと働け!」
「その必要はない!」
そこで高らかに掲げたのが、例の買うマン小型造幣機である。
「これで一気に返済してやる。はい、1億円」
「ぎぇえええええええええ!いいいいいいい、一億円!?……いや待てよ。そんな簡単に現金が作れるはずがない。どうせ偽札……じゃ、ないな。れっきとした本物だ。ぎぇえええ、ぎぇえええええっ!」
「やいやい借金取りさんよぉ、よくも俺をこき使ってくれたな。お返しに……」
俺は造幣機から5億円を出し、
「この金やるから、お前も俺の様に身を粉にして働け!」
命じた。
「おおおおおおお!はいはい。こんな大金があれば、借金取りなんかしてなくても遊んで暮らせる訳だ。働きます働きますぅ!」
こうなると完全に立場の逆転である。
元・借金取りは金に目をくらませ身を粉にして働いた。
働き過ぎて、
過労死してしまった。
「金に目をくらませて限界を考えずに働いた俺も愚かだったが、俺を過労死に追い込んだお前もワルだ。呪ってやるぅ……」
過労死した元・借金取りは幽霊として現れたが、
「しょうがない。おい、そこの時計」
俺はもろともせずに近くにあった時計台の時計へ3億を投げつけた。
「このお小遣いやるから、こいつが過労死する少し前まで時間を巻き戻せ」
「さささ、3億円!?これだけの大金があれば俺、こんな安っぽい時計じゃなくて国宝級の超高級時計になれるではないかぁ!はいはい、戻しますぅ!」
金に目がくらんだ時計が時計を逆回転させると、
元・借金取りがへとへとに働いて過労死寸前の時間まで戻った。
「へぇ、へぇ、ま、まだまだ……一生遊んで暮らす為には……ここで死ぬほど働かなければならないんだ……」
「その必要はないんだとさ。ほれ」
俺がすかさずベッドを差し出すと、
「そうそう。こうやって寝たりしてゆったりと人生を送る為には……ここで死ぬほど……ふぁああ、働かなければ……疲れたぁ……おやすみなさーい……」
元・借金取りは吸い寄せられるようにしてベッドで眠りにつき、何とか過労死を免れたのである。
「よし、ここからはひたすら買い物だ!誰からも何でも買ってやる!それが何でも買うマンの使命、いや趣味だ!」
こうして現在に至るのであった。

「いやぁ、懐かしいなぁ。そうそう。そうやって俺は生まれ変わったんだよ。分かったかな?それじゃあ!」
おしまい。

……に、しようと思ったが、
何やら天候が怪しくなり、遠くから雷鳴が響いてくるではないか。
「この雷は普通の雷じゃない。まさか……」
「そう。そのまさかだ!」
「その声は……間違いない。俺が主導権を買収するまでこの物語の作者だったお題ゾンビをゾンビにした落雷の主……この世の全ての物語を支配し、規定から外れると裁きの雷を落とす大いなる意思!」
「分かっているなら話が早い。いくら主導権を己の物としたところで、そんな適当なオチで許されるとでも思ったか愚か者め。雷に打たれ、お前も何でも買うゾンビとなるがいい!」
「何でも買うゾンビなんてゴロが悪くて嫌だ。どうせなるなら何でも買うゾンビマンだ!」
「名前などどうでもいい。裁きを受けよ!」
「嫌だ。50億、いや100億やるから見逃せ」
「フン、甘いな。大いなる意思には金など無価値。雷よ!違反者に裁きを!」
問答無用の雷が俺を貫くかと思われたが、
「雷よ!100億で手を打とう!」
取引を持ち掛けると、
金に目がくらんだ雷はすんでのところで俺を貫くのをやめた。
「ど、どうしたことだ」
「知れたことよ。雷を買収……いや買ったんだ。思えば今まで小物ばかり買ってきたが、雷とは我ながらかなり買いごたえのあるビッグな買い物をしたもんだ。ありがとう大いなる意思よ!」
「はぁ、どういたしまして……」
「何でも買うゾンビマンどころか、何でも買う雷マンに……いやいや、この際思い切って、電撃!何でも買うマンとでも名乗ろう。サンダー!」
叫ぶと、
俺の指先から強力な雷が!
「おお、これは凄いぞ。雷を買った俺の体は電気を帯びて、自在に雷を操れるようになったということか。痺れるぜ~。はっはっは!」
こうして俺は電気を帯びて電撃!何でも買うマンへと生まれ変わったのだった。
今度こそおしまい。









働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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