『六次(ろくじ)の隔(へだ)たり』という言葉を知っている人はそう多くはないだろう。だがこれは実のところかなり有名な話であり、かなり噛み砕いて説明するのであれば全ての人物や物事は六つのステップを経るだけで必ず目的のものまで辿り着けるといったものである。
例を挙げるならば、この文を読んでいる貴方は他国の大統領なんかとは縁(えん)も所縁(ゆかり)もないのではなかろうか。しかしその人に繋がりそうな人物、要はその国と接点のありそうな友人が一人目、二人目くらいにいても何(なん)らおかしくはないことである。そうして人脈を辿っていけばあら不思議、その大統領までたったの六人ほどで繋がってしまうといったものである。これは別名『スモール・ワールド現象』と呼ばれることもあり、世界では実際にこの事象についての研究や実験がなされたこともある。しかしながら、そのどれもが条件や状況などの不十分により明確な実証はできていないとされている。
しかしながら『縁は異なもの乙なもの』ともよく言ったものだと自分自身も常々思うし、その縁を辿(たど)ることでどんな人物にも辿り着ける『六次の隔たり』についても割と信じている方である。似た言葉に『袖(そで)振り合うも他生(たしょう)の縁』という言葉もあるが、そちらの意味はすれ違うぐらいに服の袖同士が擦(こす)れ合うというのも前世からの深い因縁だといった故事成語(こじせいご)である。この様に縁と言う物は実に広く、また不思議であるとも言えるであろう。
現にこの手紙は先に書いた実験に基(もと)づいて今は遠く離れて住所も知らない君の元へと届いているだろうからだ。もし君が昔に僕と交わした約束を覚えているならば、返事を待っている。その約束を、どうか僕に果たさせてほしい。