「うーん……鉄人金儲けマンは完全に出オチだったなぁ」
お題ゾンビは書き上げた物語に不満を漏らした。
「我ながらこういう主人公、嫌いなんだよなぁ」
発想重視の物語作りにおいては、嫌いでも書かなければいけない時もある。
「おダイは勇者の道を歩んで自分の才能を活かせていると聞いたけど、肝心の俺はどうなんだろうか。何か足りないような。こういう時は、原点に立ち返って……」
しかし記憶力と物持ちの悪いお題ゾンビは一番最初に書いた物語が何だったのか覚えておらず、自分の原点が分からないのである。
「この世界に来てから最初に書いたのは銀行ゴートの話だけど、原点ってわけじゃないかなぁ」
「この世界に来た日こそが原点だろ」
「そうか、そういう考え方もあるな!あんた良いこと言うじゃないか。ところで、誰?」
助言を与えてくれた者の方を振り向くと、
「あっ、お前は!」
「久しぶりだな、お題ゾンビ。まぁ、前に会った時はまだお前もゾンビになっちゃいなかったが……」
それはあのガラスの破片ではないか!
「初めて会ったキャラにしては何の役にも立たず、いてもいなくても良かったようなガラスの破片!」
「おいおい。そういう言い方はないだろう。せっかく知恵を貸してやったのに」
「そうだな。たった今、ようやく役に立ってくれた。はははは!」
「ようやく役に立ってやったんだから、お前も俺の役に立て」
「と言うと?」
「俺の頼みを聞いて欲しい」
「まさか、責任取って元のガラスに戻してくれって?そういうことは俺じゃなくて修理屋さんに」
「そうじゃない。知り合いのガラスに作家志望の奴がいて、お前のようにネタに苦しんでお題ゾンビガラスになりかけているんだ。お題を分けてやってくれ」
「そんなガラスがいるのか。よし分かった。ここはお題ゾンビ先生に任せなさい!」
ハチマキを巻いたガラスが勉強机の前でうんうんと唸っている。
「私がネタに苦しんでお題ゾンビガラスになりかけているガラスです。……何も思いつかない。苦しい。あーっ!うわーっ!ぐわああああああーっ!」
ガラスはネタに苦悩し、激しくのたうち回っていた。
「救急車!……いや、霊柩車!……いやいや、葬儀屋さん!」
「これが噂のネタに苦しんでお題ゾンビガラスになりかけているガラスか」
ガラスの破片に連れられてやって来たお題ゾンビは呆れた。
「完全にビョーキだな」
「まぁ、お前も似たようなもんだけどな!」
「一緒にするなよ。俺はここまでひどくない。でもこんなんじゃ、ロクに声もかけられないじゃんか」
「大丈夫。こう言えばいいからな。おい作家志望ガラス。葬儀屋さんを連れて来たぞ!」
それを聞いた途端、作家志望ガラスはお題ゾンビに飛びついた。
「おおおおおお葬儀屋さん!早く私を葬儀して、お経をあげてください。なーむなーむなーむ……」
「いやあの、俺は葬儀屋さんじゃなくてね、お前の知り合いのガラスの破片に頼まれてお題を提供しにきた同じく作家志望のお題ゾンビ大先生でありますよ。わはははは……」
「同じく作家志望のお題ゾンビ大先生?いやはや、これは失礼しました。お題があれば、私もわざわざ霊柩車に乗って葬儀されなくても良くなるわけでございますよ、大先生」
「まぁこいつは自分で自分を大先生と言ってるが、実はそんなに大した奴じゃないぞ」
「何おうガラスの破片!ただガラスの破片やってるしか脳のないお前に言われたくないわい!……で、作家志望のガラスくん。君は具体的にはどんな物語を求めて悩んでいるのかな」
「そりゃまぁ漠然と面白くてこう、がはははははは!と笑える物語ですかねぇ」
「そうだよなぁ。やっぱりがはははははは!が一番だよなぁ。で、その中でもこういうテーマを扱いたいとか、主人公はどうとかあるかい?」
「いやあの、そこに悩んでるわけで……」
「そうかい。じゃあ一緒に考えよう。うーむ……はい、一緒に悩んで」
「うーむ……」
「もっと悩まないといいものはできないな。うーむむむむむむ……」
「うーむむむむむむ……」
「まだまだだ。うーむむむむむむむむむむむむ……」
「うーむむむむむむむむむむむむ……」
2人は悩みに悩んで、
「グー……」
寝た。
「ダメだこりゃ」
「うむむむむむ……グー……」
「むむむむ……ぐおー……」
あれから数日間、お題ゾンビと作家志望ガラスは悩んでは寝てを繰り返しているが、一向にアイデアが浮かばない。
「いい加減、アイデア浮かんで来いよ……」
お題ゾンビが呟いた時だった。
お題ゾンビと作家志望ガラスの頭上からもくもくと湯気が上がった。
「おっ、何だ?」
「考えすぎて、頭がオーバーヒートしちゃったんじゃないですかね」
「大変だ。早く冷やさないと」
お題ゾンビは洗面所へ向かいかけたが、
「そうではあらーん」
間延びした声がその足を止めた。
「誰だ?」
声の主は、なんと2人の頭から上がる湯気である。
湯気が1つに集まると人間の形になり、
「へっへっへ」
不敵に笑った。
「何だお前は」
「アイデア」
「アイデア……?」
「お前たちは、俺を求めているはず。消えるから、探しなされ」
言うや否や、アイデアは2人の前から姿を消した。
「あっ、消えた」
「探しなされと言う事は、どこかに隠れているに違いない。そして見つければ、いいアイデアが手に入るってわけだ!」
「よっしゃ、探しましょう!」
2人は部屋中を探しまわった。
「アイデアやーい」
「どこじゃーい」
すると再びアイデアの声が。
「ちょっと出かけてくるぞーい」
「ガラス君、アイデアは外だ!」
「探しましょう!」
2人は繁華街を探し回った。
「アイデア出てこーい」
「隠れてはいかんぞーい」
人々は気味悪がった。
「何なの、あのゾンビとガラス?」
「なんか、色々と可哀想な人達ねぇ」
諦めずに探し続けると、
「あっ、いたっ!」
「え、どこどこ?」
アイデアが近くの店から出てきたではないか。
「待てー」
「わっ、見つかってしまった。逃げろや逃げろ!」
お題ゾンビと作家志望ガラスは逃げるアイデアを追った。
「ガラス君、挟みうちだ!」
「おう!」
2人がアイデアを挟みうちにすると、
「捕まった。グー……」
アイデアはいびきをかいて眠り始めた。
「おいおい、どうしたんだよ」
「そうか、アイデアを捕まえたからネタが手に入った。つまりネタになったから、寝たんだ」
「さすがはお題ゾンビ大先生。ネタで寝たですか。分かりやすい奴ですなぁ。はははは……」
「そうそう。さすがの大先生なの。ところでこのネタ、どうする?」
「どうするってそりゃあ、私のネタに使わせて頂きますよ」
「そのつもりなのかぁ……悪いけどこれ、俺にゆずってくれないかな」
「はい?」
「いやね、考えてみれば俺もネタに困ってるしさ。なにしろ大先生なんだから、いいだろ?」
「いいもんか。大先生はお世辞だよ。約束は約束。私が使わせてもらおう」
「大先生はお世辞だとぉ!?いかんいかん。そんなふとどき者にネタをやるわけにはいかん」
「放せ、大センコー……いや、化け物ゾンビ!」
「大センコーに、化け物ゾンビとは失礼な!絶対にやらんからな!」
「何だと、やるか?」
「やらん!」
「やるか?」
「やってやる!」
お題ゾンビと作家志望ガラスは取っ組み合いの大ゲンカを始めた。
「やら、れたぁ……」
傷だらけになって敗北を喫したのは、お題ゾンビである。
「相手がガラスだって事を、刃物だって事を完全に忘れてたぁ……」
救急車が来た。
「どうもすみません……」
霊柩車が来た。
「どうも……」
葬儀屋さんが来た。
「……」
連れていかれようとしたが、
「?」
ふと我に返り、
「俺はまだ死なんぞおおおおおお!」
まだまだ元気なお題ゾンビだった。