この国には、「立つ鳥跡を濁さず」という言葉がある。これは、「立ち去る者は見苦しくないようキレイに始末をするべき、また引き際は美しくあるべき」という意味を持つ諺(ことわざ)である。
半月ほど前に僕は、長年付き合っていたヒトへ別れを告げた。その理由はとても単純なもので、気持ちのすれ違いだった。たったそれだけの事かと言われればそうかもしれないが、僕は相手へ存分(ぞんぶん)に尽くしていたつもりだったのに、相手の方は僕にあまり関心を持ってくれてはいないように感じてしまったからだ。僕はそのもどかしさに堪(た)え兼(か)ね、自分から別れを告げたのだった。
それから僕はすぐに自分の身辺(しんぺん)、相手から貰った物、それまでの相手に対する恋愛感情さえもキレイさっぱりと整理した。つもりだった。
だというのに僕は今日、何(なん)とはなしに開けた机の引き出しの奥の奥、そこから当時二人で撮った写真が不意に出てきてしまった。その写真は、ホワイトバランスは最悪だしフラッシュで少し赤目になっているしで、お世辞にも良い写真とは呼べないものだった。その時はこれも思い出と思って割り切って、二人で笑い合っていたのに、どうしてだろうか、今はこの写真を見て何故か涙が零(こぼ)れてきたのだった。
僕は結局、跡を濁して立ってしまった鳥だったのかもしれない。