小説

⑥お題ゾンビはミュージカルスター

「お題をおくれ♪お題をおくれ♪お題があればこの世は天国……」
お題ゾンビは歌いながら楽しく町を徘徊していた。
「お題をおくれ♪お題をおくれ♪お題があればこの世は天国……」
通行人がたまらずツッコむ。
「それしか歌詞ないの?」
「いや、それが……」
ないのであった。
「この世は天国なら、あの世は地獄にするか。でも地獄なんて暗いワードだよなぁ。うーむ……」
お題ゾンビは歌詞に迷った。
「このままじゃ歌詞ゾンビになりそうだ」
なりたくないので、
「お題があれば、この世は天国。お題がなけりゃ、大いに悩む~♪」
無理やりでも歌詞をつけた。
「シュールさが足りない」
そんな時だった。
「素晴らしい! 君こそ、私が求めていた理想のミュージカルスター候補の男だ!」
サングラスの男がお題ゾンビに声をかけた。
「へっ?」
「私は音楽事務所のスカウトマンをやっている者だ。失礼ながら君は見た目は酷いが、歌声は素晴らしい。そのギャップがたまらん!歌詞はうちの事務所専属の作詞家に任せて、ミュージカルスターやってみないかね、ゾンビくん」
「やらせて頂きます~♪」
お題ゾンビはすっかりミュージカル体質になってしまっていた。

それから事務所での厳しいレッスンが始まった。
「お題をおくれ♪お題をおくれ♪お題があれば……」
「声が小さい!」
「お題をおくれ♪お題をおくれ♪お題があれば……」
「声が低い!」
指導者がお題ゾンビを拳でゴリゴリと扱く。
「いてててて!すんません!助けてぇ~♪」
「助けん!しっかり歌え!」

厳しい特訓を終え、いよいよ本番の日が来た。
「では、新人ミュージカルスター・お題ゾンビの登場です!」
観客の拍手に包まれ、お題ゾンビは舞台の壇上にその姿を現した。
「お題ゾンビと申します~♪」
メイク係の指示で顔にパックを施しており、今のお題ゾンビは美しかった。
ゾンビという名前に反した美しい顔立ちに、観客席から歓声が上がる。
「ここで1曲『お題ゾンビの天国』」
お題ゾンビは特訓で身に着けた芝居がかった演技力と派手な踊りをまじえて歌った。

♪お題ゾンビの天国♪

   お題をおくれ お題をおくれ
  お題があれば退屈しのげる
  退屈なとき人は死んでいる
   俺は退屈 いつも死んでいる
 死んでいる人生は虚しい
 死んでいる人生は悲しい

   お題をおくれ お題をおくれ
   お題があればこの世は天国 
   天国いるとき人は死んでいる
    俺はゾンビ ゾンビは死なない
死なない天国は嬉しい
死なない天国は楽しい


お題ゾンビが歌い終わると、観客席から盛大な拍手の嵐が巻き起こった。
「ありがとうみんな!いやーありがとう!」
お題ゾンビは嬉しくなって思わず言ってしまった。
「ついでに、物語のお題もくれないかな?」
「あげまーす!」
観客たちは一斉に同意すると、お題ゾンビに向けてそれぞれのお題を投げかけた。
観客たちの口からあんなお題が、こんなお題が、怒涛の勢いで押し寄せる。
「1曲歌っただけでこれだけお題をもらえるなんて、夢のようだ……!こんな沢山もらってしまって俺は金持ちならぬ、お題持ちになれるぞ~♪」
だが、お題持ちになり過ぎたのがいけなかった。
一斉に集まってきたお題が空気中で1つの巨大な岩石となり、お題ゾンビの頭上に落下した。
「!」
落下したお題岩石がバラバラに砕け散ると共に、お題ゾンビの意識は遠のいていった……

お題ゾンビは今、病院で治療を受けている。
「もうミュージカルはこりごりだ!」
そう思ってはいるが、
「看護師さん、包帯を取り換えておくれ~♪」
ミュージカル体質はしばらく抜けそうになかったのだった。
「ついでにお題もね~♪」

働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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