師走
―白い息ー
冬になると、空気って一気にはりつめたものになって、夏みたくおだやかじゃなくなるよね。
辺りを固めていくというか、パリッとさせるというか、何というか。
沙樹は両手をポケットに入れ、裏山の中を自分の白い息を見つめながら歩いていた。
仕事帰りに寄ったこの裏山から見える景色はもう暗く、団地や一軒家の灯りがイルミネーションのように見えた。
もうこんなに暗いのになぜ私はこんなところに立ち寄ったのだろう。
自分でもわからない。
たいてい自分がこうゆうところに立ち寄る時は何か不安に思っている時、引っかかることがある時と決まっている。
だからいつもこうゆう行動をしたときは自分にこう問いただしている。
今回は何があったの?
好きなアーティストの衣装によく似た分厚い深緑色の上着を着た沙樹は自分の胸に手を当ててみる。
…うーん。まだわからないなぁ
沙樹は白い息をはぁーっとはいた。
またあのベンチにでも座るか。
この山のてっぺんにある、立ち寄った時は必ず座るベンチ。
それがもうすぐ見えてくるはず。
いつもの夜景、いつもの森、風のなでる音、そしていつものベ…ンチ。
誰もいないはずのベンチに誰か座っていた。
…豚。