小説

㊺最終回 お題ゾンビよ永遠に!

「『こうして望月は明るい未来への第1歩を踏み出していったのだった。』いや~我ながら実に素晴らしい締め方だ。ギャグばっか書いてた俺にしては珍しく良い話になったしな。みんなもそう思うだろ?」
お題ゾンビは自画自賛しながら今まで自分の作り上げてきたキャラ達に問いかけると、
「……うん、良い話だった」
「これを読んで、大事なことに気付かされた」
最高の高評価が返ってきたではないか。
「だよなぁ~! 大事なことに気付かされる良い話だったろ?感動の名作だろ?やー、これね、俺の大好きな某ゲームのタイトルをもじって作った話なんだけど、もりじゃなくてもちっていうのがポイントでさ……」
お題ゾンビは天狗になってますます自画自賛の自作語りを始めたが、
「お題ゾンビ、この話を書いた作者であるあんたも、本当は気付いているんじゃないのか。だからこの結末を書けたんだ」
「そう、今のままじゃいけないって、本当は分かってるんだろ?」
キャラ達は真剣な眼差しで逆にお題ゾンビに問いかけるのだった。
「今のままって……もしかして?」
「そう。お前が過酷な現実世界から逃げて、この空想世界に引きこもっているこの現状の事だよ」
「だ、だって……お前らもあの現実世界の恐怖と狂気を見たろう! 歩いてるだけで殺されかけたんだぞ?もうあそこは俺のいるべき場所じゃないんだよ。自分の世界に戻って殺されてこいってか?冗談じゃない。たとえ自分の生まれた世界であろうと、もう俺は二度とあっちに戻らないからな。この世界で、こうやって物語を書き続けるんだ。最近はぶっちゃけ不作ばっかだったけど、『どうぶつのもち』は本当に良いものが書けた。だから俺はこれからもずっと……」
「あれを見るでござる、お題ゾンビ殿」
一流忍者が指さしたところには、
「おぉ……」
何とも綺麗な一輪の花が咲いていた。
「あれは、現実世界に咲く名もない花だ。お前がこっちへ逃げ出してきた時からずっと咲いているんだ。あんな過酷な世界でも、美しく、強く生き抜いている花だってある」
そう言うと、シークレットレアカードは現実世界の様子をお題ゾンビの前に写し出した。
「確かに現実世界は過酷なままで、犯罪は止まらない。だが、お前がここへ逃げ込んできた時よりはマシになっているらしい。人口の半分が警官になった事で犯罪も未然に防がれ、犠牲者は毎年減っているって話だからな」
「だ、だからって……俺がその犠牲者にならないって保証はないだろ。俺はお前らみたいに、忍術を使ったり、勇者の力を駆使したり、メカニックパワーを持ってるわけじゃない。ひ弱な人間に過ぎないんだよ」
「花になればいいんじゃないかな、お題ゾンビ」
そう言ってきたのはカケルである。
「確かにあんたは僕みたいに強くはないと思う。でも、あの花のように強く美しく咲き誇っていれば、必ず希望は見えたりするんじゃないかと思ったりする」
「思ったりするだけだろ?説得力ねぇよ!」
「じゃあ、俺が実体験を伝えたらどうかな?」
そう言って現れたのは、先ほど書き上げた「どうぶつのもち」の望月である。
「俺もあんたの選んでくれた結末のお陰で、闇の中にも光を見いだせた。今度は俺があんたにそれを伝えたい」
「望月……」
「別れは寂しいもんだが、辛くなったらいつでも俺たちを思い出せ! ま、あんまりロクな思い出ないかもしれないけどよ」
「ガラスの破片……」
「野菜を食べて、身体には気を付けてね」
「野菜少年……」
「頑張ってね、父さん!」
「おダイ……」
「悪い奴に追われたら、とにかく走れ!」
「高校生……」
「ま、金で解決できるって事もあるから金だけは稼いどけよ!」
「鉄人金儲けマン……」
「困難を前にしても修行すればパワーアップ、だろ?」
「シークレットレアカード……」
「いらなくなったものは売ればいいし、」
「欲しい物は買えばいい。サンダー!」
「何でも売るマン、何でも買うマン……」
「お前の後は、俺が継ぐ! だから心配するな。頑張って生きて行けよ」
「ネタなしマンによって生み出されたもう一人の俺……」
「忍ならずとも、忍者の極意は万人にあり。悪い奴には忍術をお見舞いしてやるのでござる!」
「一流忍者……」
「こういう時って何を言ったらいいのか分からないけど、とにかく頑張ってねって思ってるんじゃないかな」
「カケル……」
「俺も悲惨な人生だったけど、未来の希望とかいうオチだったじゃん?だからお題ゾンビさんも!」
「希望マン……」
みんなと話していると自然に元の世界へ戻っていく流れになり、
「分かったよ……そうだよな、俺はもう現実から逃げない。たとえ人殺しが多かろうと槍の雨が降ろうと、負けるもんか! 俺は元の世界に戻る。そしてしっかり生き延びて、気が向いたらお前達の兄弟を、また新しい物語を書いてやるよ」
お題ゾンビは過酷な現実世界へと戻っていく決意を固めたのだった。
「じゃあ……通路を開くでござるよ……」
現実世界への通路が作られ、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
お題ゾンビは気合を込めて元の世界へと戻っていった。
「さようなら! ガラスの破片! 銀行ゴート! ナナ子とその母親! 虻川! 野菜少年! ハロウィンのゴミ! 美声人間! おダイ! 子育ての勇者! 高校生! 金儲けマン! 三六! シークレットレアカード! 売るマン買うマン! もう一人の俺! カケル! 一流忍者! 希望マン! ボコ! 望月! 」
「さようならーっ、お題ゾンビ!」
それからお題ゾンビがどうなったのか、それは誰にも分らない。
しかし、どこかで生きているには違いない。
彼の書いた物語によって生み出された仲間たちは、いつまでもそう信じているのだった。


おわり

働 久藏【はたら くぞう】

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『お題ゾンビ』の物語などをマイペースに書いています。頑張って働 久藏(はたらくぞう)!


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