「うわーっ!やら、れたーっ!」
お題ゾンビはその場でばったりと倒れた。
「ちーん……」
お題ゾンビはすっかり「死んだつもり」でいたが、
「おい、いつまでそこで死んでるんだ」
にっくきネタなしマンのべたべたした嫌ーな声が耳に入ってきたではないか。
「いつまでって、お前も俺の最期を見たろう。撃たれたから死んでんの。それで、あの人は助かったんだろうな?」
「はははは、どこまでもバカな奴。物語に没頭しすぎて、フィクションと現実の区別もつかなくなったか」
「何だって?」
お題ゾンビは驚いてガバッと跳ね起きると、
「あれ?死んだどころか、どこも痛くないぞ」
おかしいことになっているではないか。
「当たり前だ。一連の出来事は現実に起こったことではなく、すべて俺の作った物語だからな。お前は自分が主人公の物語なもんだから、読み進めているうちにすっかり現実との区別がつかなくなっちまって」
「なーんだそうだったのか。無事で良かった。はははははは……」
お題ゾンビは安堵して笑ったが、
「……って、ちっとも良くないわ!物語の中とはいえ、俺を殺すな!」
考えてみればかなり腹立たしいことである。
「フン、それは表現の自由というものよ。本当に殺しては犯罪だが、自分の作った物語の中でお前をどうしようが俺の自由。俺が主役の座を手にすればお前はお払い箱。どうせ黙って消えるならせめてカッコ良い死に様を用意してやろうという俺のせめてもの優しさが分らんか。まぁ分からんだろうなぁお前のようなバカには。はははは……」
「ぐぐぐぐ……何が優しさだ。どこまでも腹立たしい……お前がそこまでの嫌な奴とは思わなかったぞ……」
「何とでもほざけ。お前が俺の名作を読んでいる間に審査員の先生にお来しいただいた。いま、お前の駄作と俺の名作を読み比較されているところだ。じきに判定を出されるだろう。勿論、俺様が主役になるという結論がな!」
ネタなしマンの言う通り、目前のベンチでは気難しそうな初老の男ー審査員が「お題ゾンビ死す!?」を読んで唸っている。
「まさか、この審査員もお前が作った物語の登場人物じゃないだろうな。そうだとしたら絶対に俺の作品を評価するわけが……」
「キミ、失敬な!」
審査員はお題ゾンビの言葉に激高して立ち上がった。
「私は今まで数十回もの文学コンクールの審査員を務め、多くの作家を生み出してきた大先生なるぞ!著作も50編と多数。それを物語の登場人物だとぉ?」
「い、いえいえいえ、そそそそんな事は……」
「もーう怒った。作者の人柄が悪いから、『300円を追いかけて』は30点減点!」
「そんなぁ!お題ゾンビに罪はあっても、お題ゾンビの作品に罪はない!」
「口答えするな!さらに20点引いて減点50点!主役の座が遠のくよー」
「ぎゃひー……」
「先生の偉大さも知らないとは無知な奴。先生、私の拙い愚作などをお読み頂き、お目汚し申し訳ございません。お疲れでしょうから、肩をお揉みいたしましょう」
「おお、じゃあ揉んでくれたまえ」
「ははーっ」
ネタなしマンは卑屈そうな笑みを浮かべて審査員の肩を揉んだ。
「いやぁ、光栄だなぁ。私ごときが偉大なる大先生の肩をお揉みできるなんて。なんという名誉だろうか」
「そうかいそうかい。キミはそっちのゾンビと違っていいヤツだなぁ。作者の人柄がとても良いので、『お題ゾンビ死す!?』50点加点!」
「ははーっ。ありがとうございます。光栄でございます。大先生に加点を頂けるとはありがたき幸せ……」
「あっ、汚いぞネタなしマン!審査員の先生に気に入られて点数上げようだなんて!」
「汚いのはキミの身と心だよ、お題ゾンビ。ネタなしマンくんは礼儀をわきまえている。キミも見習いたまえね!」
「ははーっ、ありがたきお言葉……」
「くーっ、分かりましたよ分かりましたよ。見習えばいいんだろ?見習いますよ。大先生、ここまで歩いてこられて足がお疲れでしょう。足ツボお揉みしましょう!」
「足ツボ?そりゃいい。揉みなさい」
「ははーっ」
お題ゾンビは審査員の足を全力で揉んだ。
「どうです大先生。気持ちいいでしょう?」
「ああ、悪くないね」
「ははーっ」
「でも、特別気持ちいいわけじゃないかな。点数はやれんよ」
「そんなぁ!」
「大先生、こんな奴の下手な足揉みより、私の肩揉みはどうでしょう?」
「気持ちいいが、そろそろ飽きてきたかな。もうそんなもんでいいよ」
「かしこまりました。ではこの辺で。大先生の肩をお揉みできたこの光栄、一生忘れません!」
「そうそう覚えとけよ。足揉みもそんくらいでいいよ」
「ははーっ。私も大先生の足をお揉みできたこの光栄、一生忘れません!」
「そうそう忘れるなよ。それより喉乾いたなぁ」
「ははーっ。それでは直ちに!」
「飲み物を買ってまいります!」
お題ゾンビとネタなしマンは我先にと競い合いながら自販機へ駆け込み、
「大先生、飲み物をお持ちしました!」
即座に手渡した。
「ああ、ご苦労さん」
ネタなしマンは高級なトロピカルジュースである。
「おお、美味いなこれ」
「ははーっ、ありがたきお言葉……」
お題ゾンビは安物の麦茶である。
「平凡だなぁ。もっと気の利いた飲み物はなかったのかよぉ」
「うっ、そん……いえその、申し訳ありません……」
「まぁ麦茶も好きなんだけどねぇ、……あっ、でもこれ安物でもサッパリしてていいかもな」
「ははーっ、ありがたきお言葉……」
「喉は潤ったから、また読み進めようかな。どれどれ……」
審査員は再び2人の作品を読み始めた。
「飲み物では点数はつかないのか……」
「あんだって?」
「い、いえいえいえ何でもございません!どうぞお気になさらず……」
審査員の採点基準は実に気まぐれである。
「失った点数を取り戻さないと……何か大先生にしてさしあげられる事はないか……」
「更にお題ゾンビを蹴落とす為にも、何か大先生にしてさしあげられる事はないか……」
2人は小声でぶつくさと考えていたが、
「あっ、大先生、お頭におフケが!」
「あっ、大先生、お歯にお詰まりが!」
審査員の頭のフケと歯に詰まった食べカスを発見した。
「フケと歯に何か詰まってるって?そんなんいちいち気にしなくていいよ」
「いえいえ、大先生ともあろうお方がそれではいけません。私めがお頭を磨いてさしあげます!」
「ご安心ください、大先生のご負担にならぬよう、私めがお歯を磨いてさしあげます!」
言うや否や2人はスーパーへ駈け込んでそれぞれ飲料水&シャンプーと歯ブラシ&歯磨き粉を買うと、
「お待たせいたしました、大先生。私めが磨いてさしあげましょう!」
審査員への奉仕に取り掛かった。
「磨いてさしあげましょうって……わぶっ!」
お題ゾンビは審査員の頭に飲料水をぶっかけ、
「シャンプーするには、まずはお頭を濡らしませんと。では、ここからシャンプーさせて頂きますね。ゴシゴシゴシゴシ……」
シャンプーで髪を洗い始めた。
「いいよ、いいって。野外でそんなことするなよ。まったく……あがっ?」
今度はネタなしマンが審査員の口に歯ブラシを突っ込み、
「では、私めはお歯をお磨きいたします。シャカシャカシャカシャカ……」
歯磨き粉をつけて歯を磨き始めた。
「むわぁ、ふぉんなこと、いむぁひなくても……」
「ゴシゴシゴシゴシ……」
「シャカシャカシャカシャカ……」
「ふぉんなことはれると読みにふいんらよぉ!」
「えっ、読みにくい?申し訳ありません。でしたら、私めがかわりに音読してさしあげます!えー、『分かったか、お題ゾンビ。俺がいくらお前を倒す作戦を考えようと、このようにお前は』……」
「音読下手だなぁ、貸せネタなしマン。えー、『俺が人生の終わりを望む?そんなバカな事が』……」
「都合よく自分のセリフだけ読むな!」
「うるさいな。お前だっていきなり自分のセリフから読もうとしたろう」
「人の事よりまずは自分の事だろ!」
「何おう?」
「やるか?」
「前にやったけど、お前勝てなかったじゃねぇか」
「お前もな。このやさ男!」
「お前だってやさ男だろうが!」
言い争っているうちについつい手に力が入り、
「いててて、髪ひっぱるな!……もががが、歯ブラシ奥まで突っ込みすぎ!」
審査員が巻き添えを喰らった。
「うがーっ、いい加減にしろーっ!」
審査員はたまりかねて2人を突き飛ばした。
「あんたら俺を尊敬する心から純粋に親切にしてるんじゃなくて、ただ点数稼ぎたいだけだろ?魂胆が見え透いてるんだよ。2人とも、20点減点!」
「そんなぁ!」
「もういい。余計なことをしないで、そこで正座でもしておとなしく読み終わるのを待ってろ!」
「はーい……」
謹慎をくらった2人だが、早速小声で口論を始めている。
「そうだぞ。魂胆が見え透いているんだよネタなしマン。気に入られようと媚びやがって」
「うるせぇな。お前だって俺のやり方をパクリやがってよく偉そうに言えたもんだ。おかげでこっちまで悪者扱いだ。責任取れ!」
「ハッ、自業自得だろ。お前のやり方が下手なせいで大先生はお怒りになったんだ」
「何だと?お前も十分下手だったくせに!」
「うるさいな!」
「やるか?」
小声のはずがいつの間にかヒートアップしていつものボリュームになり、
「いいんだよ、100点減点して0点にしても?」
審査員の冷ややかな喝が入った。
「申し訳ございませんでした。おとなしくいたします……」
0点を恐れてさすがにおとなしくなった2人だが、
「考えてみればまぁ俺の方が有利だな。20点減点されても俺には肩揉みで稼いだ50点がある。20点引いても+30点。そしてお前は-70点。俺の評価は最高で100点満点なのに対し、お前は最高で30点満点と地の底だ。作品評価で1点以上取れれば絶対に俺の勝ちということだからな。勝ったも同然だぜ」
小声で相変わらず嫌味に挑発するネタなしマンである。
「ぐぬぬ、確かに……だが、あんな駄作に果たして点数がつくかな。物語にかこつけて俺いじめてるだけじゃないか」
「フン、お前の『300円を追いかけて』だって発狂オチだけが取り柄じゃないか。少なくとも俺が審査員なら点数はやらんね。まぁせいぜい今のうちに主役としての余生を満喫しておくんだな」
「黙れ、正義は必ず勝つのだ!」
「フン、何が正義だ。読者を涙させるような感動の名作を手掛けたならともかく、結局は不幸な男の転落人生を笑いものにしただけの作品じゃないか。そんなもののどこが正義なのだ?」
「そ、それは……そうか、感動話にすれば高得点も夢じゃなかったのか……」
「今さら悔やんでも遅いわ。もはや勝利は、主役の座は俺様のものだ!」
言っているうちに、
「はい、読んだよ2本とも。じゃあ採点しようか」
話を読み終えた審査員がめんどくさそうに立ち上がった。
「ははーっ、お願いいたします」
いよいよ決着の時が刻まれたのである。
「まずはお題ゾンビの『300円を追いかけて』既に70点減点なので30点満点基準。果たして結果は……ドルルルルル……」
「ああ、どうか神様、審査員大先生様、哀れなお題ゾンビに救いの手を!」
「これで30点満点でなければ俺の勝利は確実。お題ゾンビの無様な敗北をとくと見届けてやるぜ」
「ドルルル……ポン!20点!まぁ本来は90点ってことだね」
90点もの高得点とは何とも嬉しい結果ではあるが、今のお題ゾンビには絶望でしかなかった。
「ま、負けた……ネタなしマンは最低でも30点は取ることが分かっている以上、勝ち目はない……」
「ふはははは、やったぞ。これで俺の勝利は約束された。主役の座は俺のものだああああっ!」
「300円を追いかけて全てを失う男の物語。めちゃくちゃしょーもなくて実に下らないんだけど、そこが良かったね。こんな下らないもん普通は誰も話の題材にしないよ。目先の特を考えてかえって損をするなという教訓も含まれている所は素晴らしい。オチにもそうきたか!と笑ったね。まぁ数々の感動の名作に触れてきた身としてはギャグ一辺倒な構成は物足りなさもあるのでそこは10点引いて90点。そこから-70点で20点ね」
「本当なら90点ももらえればネタなしマンに勝てた可能性は高いのに、余計なことをして減点されたせいで主役の座を奪われるなんて……作家モドキとして悔しい、悔しいいいっ!」
「悔め悔め!それでは大先生、私めの作品の採点をお願い致します。私の勝利はもう決まりましたので、多少の辛口評価を頂いても全然構いません。大先生の正直なお気持ちを聞きとうございます!」
「じゃあそうさせてもらおうかな。ネタなしマンの『お題ゾンビ死す!?』100点満点で既に30点のアドバンテージ付き。果たして結果は……ドルルル……」
「ああ、もうおしまいだぁ!」
お題ゾンビは頭を抱えてうずくまり、
「我が勝利の時だあ!」
ネタなしマンは満面の悪意ある笑みを浮かべて採点を待つ。
「ドルルル……ポン!0点!」
「0点!?」
2人はあり得ない結果に驚いて同時に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そもそもこれ作品って言えるの?お題ゾンビが死ぬだけの話じゃない。それにストーリー性のある戦車だっけ、その発想は面白くて昔話になる辺りは良かったけど、オリジナルモードって何。トランポリンで跳ばされて衝撃で人殺すとかストーリーになってないし、全然面白くもない。それに無駄に暗いというか、ギャグとハードさのバランスもガタガタ。まぁさぞかし面白かっただろうねぇ、書いてる本人だけは!」
「は、話が……違う……違いますぞ……」
ネタなしマンは審査員から繰り出される罵倒のアッパーでふらふらになりながらも訴えた。
「百歩譲って私の名作が0点だとしても、肩揉みの30点が残って30点にはなるはず。それを0点とは話がおかしいぞ……」
「別におかしかないよ。100点満点とは言ったが、0点より下の事は言ってない。俺の採点は-100点まであって、-30点だったところが肩揉みで30点上がって0点になっただけなんだよね。-30点に30点プラスして、結果は0点」
「……」
「まぁ総括すると、お題ゾンビは読者を楽しませる愉快な作品を書いた。だがネタなしマンは仇敵を貶めるだけの残酷な作品を書いた。読者はあんたのお題ゾンビへの憎悪感情なんて興味ないのよ。それを押し付けられて自分の個人的な憎しみだけをアピールされても、あっそうってハナシ」
「……」
「キミは物語以前に、小学生の作文からやり直した方がいいんじゃない?」
「ふざけやがって……」
「あ?」
「ふざけやがってふざけやがってふざけやがってえええええええ!大先生だと?笑わせるぜ。てめぇみてぇな老いぼれには俺様の凄さが分からねぇんだよぉおおお!これは俺様の非じゃねぇ。審査員の採点ミスだ。撤回して詫びろやゴラァ!」
現実を認めずに大声でキレる醜態は先程までのネタなしマンと同一人物とは思えぬほどの豹変ぶりである。いや、残虐な本性を、馬脚を現したというべきか。
「目ェ覚まさしてやるよジジイ。おらあああああっ!」
あろうことか、暴力まで振るおうとする始末である。
「大先生、危ない!」
「心配するな。出でよ、彷徨える幽霊たち!」
審査員が叫ぶと、
「うらめしやぁ……」
親ガニに、おばあさんに、花子に……馴染みの幽霊たちが現れたではないか!
その中には、
「あっ、俺の幽霊もいる!」
あろうことか、お題ゾンビの幽霊まで混じっているのだった。
「これはネタなしマンの物語の中で殺された者たちの幽霊。ラストではお題ゾンビも砲弾の犠牲になったから、本物とは別に幽霊がいて当然だ」
「よくもやってくれたなぁ、ネタなしマン……」
「うらめしい……うらめしいぞぉ……」
8人の幽霊たちは一斉にネタなしマンを取り囲んだ。
「我らの不幸は全てお前のせいだ……」
「呪ってやる……たたってやるぅ……」
「うるせぇうるせぇ!てめぇらを生み出したのは誰だと思ってんだ。作者であるこの俺様だろうが!俺様が生み出したもんをどうしようが俺様の自由。分かったらさっさと成仏しやがれ!幽霊なんか怖くねぇんだよ!」
「なら、これはどうだ?」
審査員が幽霊たちにフッと息を吹きかけると、
「何?」
「おおおーっ!」
幽霊たちは実態を取り戻し生き返ったではないか!
「やったぞーっ、元の体だーっ!」
「生き返ったんだーっ!」
「母ちゃん!」
「カニ太郎!」
「さぁ皆さん。取り戻したこの拳と足で、ネタなしマンをタコ殴りにしちゃいましょう!」
「そうしましょう!」
「ネタなしマン、覚悟ーッ!」
一同は取り戻した実態を駆使して一斉にネタなしマンに殴りかかった。
「あいてーっ!やめろー、離せー、グワーッ!」
7人がネタなしマンをタコ殴りにしている中、
「あれ、お前はやらなくていいの?」
もう1人のお題ゾンビだけは参加せずに事の成り行きを見つめている。
「俺は……お前だから」
「お前は、俺?」
「やる時は、一緒じゃないとね」
「そうか……そうだよな」
お題ゾンビは大いに納得し、
「やるか、一緒に!」
「ああ。2人の力を合わせる時だ!」
2人で並び立った。
「お、おのれぇ、どいつもこいつも俺様の邪魔を……」
7人のタコ殴りでフラフラになったネタなしマンに、
「とーっ、ダブルジャーンプ!」
からの、
「ダブルゾンビーキーック!」
をお見舞いした!
「ぐわーっ!」
ダブルゾンビーキックの破壊力が大爆発を起こし、
「や、ら、れ、たぁ……へなへなヘな……」
煙の中からボロボロになったネタなしマンが現れた。
「ネタなしマンよ、これからはネタなしゾンビとして醜く彷徨うがいい」
「そうするへな……へなへなへなへなヘな……」
フラフラと立ち去っていくネタなしマンの哀れな姿は、昔のお題ゾンビにそっくりである。
「バンザーイ!」
実態を取り戻した7人はそれぞれの居場所に帰り、
「めでたしめでたし!」
2人のお題ゾンビは手を取り合って喜んだ。
しかし、
「ところで……お前はどうするんだ?」
「どうするって、俺はお題ゾンビだから生き返ったからにはまた次のお話を書くよ」
「いや、それは本体である俺の役割だろ。お前はその、コピーみたいなもんなんだからさ、」
「コピーとは失礼な!俺も立派なお題ゾンビ様よ。お前が俺なら俺もお前だ!」
「何かややこしいなぁ。まぁいいや。とりあえず主役争奪戦に勝ったのは俺なんだから、俺が本体でお前はコピーな」
「だから俺だってお題ゾンビだ!お前が主役なら、俺も主役だ」
「双子の主人公かよ!俺に限ってないない。主役は本物の俺1人なの。帰った帰った」
「帰ってたまるか!俺は1度殺されたんだぞ。その辺に同情して主役を譲ってくれたって……」
「うるさいなぁ。ネタなしマンは倒したし生き返ったんだから気は済んだろ?」
「いーや済まない!ここで主役の座を奪われたんじゃ、結局は亡霊も同然。だから俺が主役だ!」
「理由になってない!主役は俺なの!」
ネタなしマンが敗れても今度は2人のお題ゾンビで主役争奪戦になってしまったではないか。
「ふわーあ。バカバカしい。どっちが主役でもいいよぉ……」
審査員はあくびまじりに「300円を追いかけて」を読み返していたが、
「でもこれ、考えてみればこの主人公も悲惨な末路だよなぁ。ネタなしマンがキャラを殺した罪を裁いたなら、お題ゾンビも主役を不幸にした罪で裁かないとフェアじゃないかもしれない」
ふと気付いて例の300円青年を実体化させた。
「うらめしやぁ……生きているが心は死んでいる。だからうらめしやぁ……」
彼の身なりはゾンビのようにボロボロである。
「わっ!お、お前は300円の!」
「な、何だって俺たちがお前に恨まれなきゃいけないんだ」
「お前たちが面白半分に展開したオチのせいで俺は多額の借金を背負い、一時の憩いも許されない地獄の借金生活を背負った身となった……これが恨まずにいられるかぁ……作者なら責任を取って俺の総額300300300300300300円の借金を返済すべく俺の代わりに働けぇ……」
「あ、あははは。実はな、今日から主役はこっちのお題ゾンビになったんだ。だから俺じゃなくて、こいつに何でも押し付けてくれ」
「お前、そりゃないだろ!さっきはあれだけ言っても主役の座を譲ってくれなかったくせに!」
「いやぁ、突然気が変わっちゃってねぇ。主役として、借金返済に一生を捧げてきなさい!」
「いやいや、俺も突然気が変わっちゃって、やっぱり俺はコピーだから主役やんなくていいや!」
「俺もせっかくネタなしマンに勝ったけどもう主役やんなくていいや!コピー君を推薦します」
「そんなコピーの分際で主役なんておこがましい!本物君を推薦しますよ!」
「コピー君を!」
「本物君を!」
「コピー君を!」
「本物君を!」
「よし、分かった、こうなったら……2人一緒に働いてもらおうか!」
「ひぇええっ!許してーっ!」
「逃げろーっ!」
「待てーっ!2人とも俺と同じ地獄を味わえーっ!」
「助けてーっ!」
逃げ回るお題ゾンビたちは2人になっても相変わらずのズッコケぶりなのであった。