小説

004-十人十色

 僕は周りの人物を注視すると、その人に色が付いて見えてくる。その色は単純な赤だったり青だったり、はたまた黄色や緑、複雑になれば檜皮色(ひわだいろ)や杜若色(かきつばたいろ)や青朽葉色(あおくちばいろ)など挙げればキリが無い。
 一度他の人にこの話を振ってはみたのだが、その相手にポカンとされたので恐らく自分にしかこの色は見えていないのだろう。そしてこれらの色が意味しているものは、恐らくその人が抱いている感情なのだと勝手に僕は思っている。少なくとも僕が観察した限りでは怒っていれば赤に、悲しんでいれば青に、元気であれば黄色に、穏やかであれば緑に近い色に見えている。
 しかし一つだけ関係している感情が判っていない色がある、それは桃色だ。少なくとも今まで僕が見てきた人のパターンであれば、頭が恋愛感情に占有(せんゆう)されている時にその色に近くなっているのだが……どういう訳か、僕と同じクラスなのに全く話したことの無い、謂(い)わばクラスのアイドル的、憧れの様な存在のヒトが僕の方を少し見遣(みや)る瞬間にもその色になる。

 それは一体、何故(なぜ)なのだろう。

———-

 自分は昔から不思議な力のようなものを持っている。それは他の人をじっと見る事でその人に色が重なって見えて、自分に対しては使えないというものだ。しかしながら繰り返し様々な人を観察しているのに、色とその人の関係については未(いま)だよく判っていない。優しそうに接している人も怒っている人も、悲しんでいる人も赤く見える事があるからだ。
 友達に軽くこの事について訊(き)いてみても、その友達は知らないようだったので恐らく自身だけの力だろうと思っている。
 そんな中、自分は一つ気になっている事がある。それはよくこちらを見てくる同じクラスの子だ。その子はこちらを見ている時に淡(あわ)く白(しら)んだ赤に見えるのだ。他にも同じ様に見える時はあるのだけれど、その子だけは一段と濃く色が見える。しかしそうやって自分がその人を見ると、相手のその色は一層濃くなって視線を逸(そ)らされてしまう。

 最近では、気付けばついその人の事を目の端でも追ってしまっている自分がいる。

お餅。

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