粒ぞろいのアニメ作品の中でも異彩を放つ「いせレベ」
2023春アニメ(4月~6月)はなかなか豊作であった。
王道を征く「推しの子」や4話限定ながら激熱な展開が話題の「ウマ娘~ロードトゥトップ」だけではない。
コメディに見せかけて人間関係のビビッドさ、複雑さを丁寧に描いた「私の百合はお仕事です!」
ギャグとシリアスの緩急が抜群で、哲学やバトルと放送ギリギリの下ネタとが共存する「神無き世界のカミサマ活動」
1話から視聴者の予想を裏切る巧みなストーリーテリングとぶっ飛んだキャラ、謎めいた世界観が魅力の「デッドマウントデスプレイ」
マガジンの正統派ハーレムラブコメ「女神のカフェテラス」
メンバー全員身長149㎝以下だからU149とかいうド直球なタイトル。かわいいキャラクターや音楽が魅力的なだけでなく、無駄なカットの一切ない、計算されつくした演出が見事な「アイドルマスターU149」
回を追うごとにキャラクターの魅力が増していく初恋ラブコメ「僕の心のヤバいやつ」
高校生が田舎町で初恋にドキドキしながら星空の写真を撮るとかいう、青春要素役満アニメ「君は放課後インソムニア」など、個性豊かな作品がそろった粒ぞろいのクールといえる。
ちなみに僕ヤバは主人公がヒロインにクリスマスイブデートに誘われて二人でイルミネーションを見て、君ソムは撮影合宿で主人公がヒロインと夏休み中ずっと一つ屋根の下で過ごした。
俺、許せねえよ……。
話を戻すと、だいたい1クールに1,2個くらいは、こういう王道な作品に紛れてどこかネジの飛んだような作品があるものだ。今季でいえばそれは「いせレベ」である。開き直ったとしか思えないような演出だらけの、ツッコミながら見るアニメとしては、2023春アニメの中でも最高峰といえる。
「いせレベ」のレベルが違うストーリー
いせレベ、正式名称は
「異世界でチート能力を手にした俺は現実世界でも無双する~レベルアップは人生を変えた」
である。長い。しかしストーリーはまさにこの通りで分かりやすい。

©美紅・桑島黎音/KADOKAWA/いせれべ製作委員会
誰よりも優しい心を持ちながらもブサイクな容姿のせいで祖父以外の人間、同級生どころか実の両親からすらも虐げられまくっている少年、天上優夜。ある日、不良に絡まれていた少女、宝城佳織を助けようとして返り討ちにあい(ポリスが来たので不良は逃げた)、己の境遇を呪っていたそのとき、ふと祖父の残した秘密の部屋を見つける。そこにあった扉から異世界へ出入りできるようになったことで人生が変わる。というストーリーである。
タイトル通り、この作品は主人公がトラックにひき殺されたりしていないので普通に現世でも生きている。異世界でレベルアップすると現世にも影響があり、最初のモンスター退治で大幅にレベルアップした主人公は3頭身のブサイクを卒業、一夜にして8頭身高身長筋肉シックスパックイケメンへと肉体が変化する。(その変化の仕方が筋肉とか骨とかバキバキ変わっていってエグかった)
ブサイクはレベルが低く、イケメンはレベルが高い人間だという残酷な陽キャのテーゼをこのご時世に提示してくる勇気が潔い。そもそもブサイクだというだけでクラスメートどころか一族郎党全員から、ダドリー家におけるハリー・ポッター以上に憎まれているというのがすごい。まあ、祖父が莫大な遺産をすべて優夜に渡したのも原因だと思うが
イケメンになってからは文字通り人生が一変する。ブサイクだったころに助けた美少女、宝城佳織が実は超エリート高校の理事長の娘であったことから最高の教育環境を整えられたエリート学校に勧誘されるし、異世界では一国の王女レクシアを助けると即一目ぼれされ、結婚を申し込まれるというお手本のような展開。
やはりイケメンこそが正義なのかと思ったら、誰もが同一人物だと信じない中、佳織だけは何の疑問もなくブサイク時代の優夜と同一人物だと見抜いた。なぜなら主人公の真っすぐで優しい目は全く変わっていないからだという。なんて心がきれいな娘さんだろう。やはり人間、見た目より内面なのだ。いい話だ。感動する。
しかし目を見ただけで同一人物と確信したり、通りすがりに助けてくれた少年の名前や通ってる学校、さらには家族構成やその人格まで調べ上げた上に了承も得られていないのにとりあえず学校から連れ出すこのヒロインも中々ぶっとんだ性格である。
すべての演出はイケメンの活躍のために
いせレベで特筆すべきなのがその独特の演出である。優夜の格好良さを表現するのが最優先なのだ。例えば優夜が町を歩こうものなら周りのモブ全員から「やだ、なにあのイケメン……」「筋肉すごい……」「彼女いるのかな……?」とささやかれ、男女問わずギャラリーが山のように群がってくる。それもほぼ毎回である。なにかノルマでもあるのか。
3話では撮影をすっぽかした男の代わりに現地調達されたイケメンとしてモデルを務めることに。もちろん相手役の女性モデルからも惚れられる。
何も知らなくても楽しめる第4話
圧巻なのが4話である。
チート能力を身に着けた優夜がその力と心のやさしさを存分に見せてくれる回である。
優夜が王星学院に転入した直後の話なのだが、主なイベントは3つほど。そのどれもが突っ込みどころ満載だ。
①楓との出会い
サッカーの授業を見学中、優夜は(授業中なのに何故か主人公のところにやってきた)同級生のギャルっぽい少女、風間楓に話しかけられる。
だがそこに、なぜかゴールどころかサッカーコートからも外れたミスキックがものすごい勢いで飛んでくる。楓に当たりそうなシュートを(普通にキャッチすればいいのに)優夜は見事オーバーヘッドキックで迎撃、さらにボールはそのままかなり離れたゴールに突き刺さるという神プレイを披露。その一瞬で楓は優夜に惚れる。
雨が降ったら傘が降るのと同じくらい自然な展開である。ちなみにこの子もとてもかわいいです。
②不良軍団(レッド・オーガ)襲来
そんなこんなで、また一人優夜に恋する女子が増えたわけだが、その後、優夜の兄妹と不良軍団が学校を襲う。
兄妹曰く「劣等種のくせに超エリート校に行った兄」と「そんな兄を勧誘したお嬢様」への復讐のためだという。警察が来る前にお嬢様を攫ってしまえばいいという作戦を自慢げに披露する。白昼堂々身元も顔も晒しておいて誘拐を実行するという、後の事を何も考えていないライブ感がたまらない。
だが学校側もエリートの子女を預かっているくせになぜか警備員が一人も出てこないガバガバセキュリティだった。好き放題する不良を止めるため、主人公は4階から飛び降りて現場へ駆けつけ、人間離れしたパワーとスピードと意味の分からないスタイリッシュな動きで不良どもを蹴散らし、さらにはひき殺そうと襲い掛かる不良軍団ヘッドのバイクを空高く飛んで躱すという超人技を披露。人間離れした優夜の動きに驚愕して注意を失ったヘッドは運転をミスってバイクが階段に派手に衝突、爆発炎上する。なおヘッドは無傷で爆発したはずのバイクも全然原形をとどめている。
③大人たちはみんなネジが外れている
警察は夕方になってようやく到着し、不良軍団を文字通りお縄につける(手錠なし)のだが、目の前でヘッドが八つ当たりで兄弟を絞め殺そうとしても「やめなさい!」と言いながらも棒立ち。この国の官憲はどうなっているのか。駆け寄ろうとしている描写が集中線で強調されるものの、近づく様子がない。アキレスの亀のパラドックスでも起きているとしか思えない。
警察監視下での堂々たる殺人という大不祥事が起きかけるが、主人公が「離せ」と一睨み(覇王色の覇気)するとヘッドは意識を失い、弟を無事救出、「ひどいことをされたけど、家族はほっとけないよ」と見た目も心もイケメンなところを見せつけてすべて解決する。なお、この間体育の授業中だった女子生徒のほとんどが教師ともどもグラウンドに棒立ちだったが、特に誰かが怪我をするということもなく、事態が収まると「授業を再開するぞ」と号令がかかった。え、この時間で再開するの……?1秒の隙もなく突っ込みどころしかない神ストーリーであった。
ちなみにこのアニメの警察は総じてやる気がないらしく、1話では佳織を助けようとして返り討ちにあってボコボコにされ、血まみれになった優夜が立ち去るのを黙ってみている。暴行事件の当事者なのに……。
ほかにもシュールな絵面や突っ込みどころが満載だが、ここまで力押しだといっそすがすがしい。
なにせ1話からして、主人公が中学卒業から高校入学まで自分の顔の変化に気づかないのだ。ヒロインを助けてボコボコにされたあと、怒りで鏡を割ったから家では気づかないのはギリギリわかるとしても、制服を買うために(学校指定じゃないのも変だが)服屋に行っているのに気づかないのはちょっと信じがたい。服屋に鏡がないということだろうか。
異世界でも、なぜか敵を倒すとアイテム「露天風呂」がドロップするなどエッジのきいた演出があったりするが、現実世界パートのもろもろを見ていると、アイテムで露天風呂が手に入るくらいなんてことはないか、という気持ちになってくる。
いせレベとヒロインレースの行方はいかに
そんな感じで、いせレベが一貫しているのは、主人公を活躍させるというテーマを中心に、それ以外の演出は多少不自然でもごり押しすることだ。
とある回ではOPからEDまでの間にストーリーがびた一文たりとも進まなかったこともある。ドラゴンボールのセルゲーム編でセルが悟空たちを待ち続けるだけで放送が終わったのと同じようなものだ。
全13話でこのペース。いったいこの後どうストーリーが展開していくのか。
そしてヒロインレースの行方も気になるところだ。
現時点で理事長の娘、一国の姫、超人気モデル、姫を狙っていた暗殺者、同級生が主人公に惚れている。
どう考えても肩書が弱すぎる同級生に明日はあるのか……!