皆さんこんにちは、お久しぶりですお餅。です。
今回の記事は以前投稿していた小説の中でも一番理解の難しいもの、『ワニと論理』の解説になります。
まだ読んでいない方はこの機にぜひこちら(https://creatorsyokohamaplus.com/archives/31648)からどうぞ。
さて、早速本題です。
まずタイトルがよく分からないという方、それがほとんどだと思うので安心してください。
実はここへ載せている小説には毎回元になった『単語』やら『テーマ』があるのですが、このタイトルは有名なパラドックス問題の一つである『人喰いワニのパラドックス』がテーマとなっています。
まず『人喰いワニのパラドックス』がどういうものかといいますと――
ナイル川の河畔でワニが赤ん坊をかすめ取った。その母親は赤ん坊を返してくれるようにワニに懇願した。
「うーむ」とワニは答えた。「もしお前が次に俺が何をするかを言い当てたら、赤ん坊を返してやろう。言い当てなかったら赤ん坊は食ってしまうぞ。」
母親は狂わんばかりに叫んだ。「あなたは赤ん坊を食べてしまうでしょう!」
「さてと」と賢いワニは答える。「赤ん坊は返すわけにはいかんな。だって返したらお前は言い当てなかったことになるんだからな。言い当てなかったら赤ん坊を食ってしまうと言っただろう!」
もっと賢い母親は言った。「それは逆よ。あなたは私の赤ん坊を食べるわけにはいきませんよ。なぜなら、食べようとするなら、私はあなたがすることを言い当てたことになるのですからね。私が言い当てたら赤ん坊を返すと約束しましたよね!」
(もちろん、ワニは約束を守る奴であるし、赤ん坊を食う欲望より名誉を重んじる奴であると仮定しての話である。)
――(Wikipedia記事『ワニのパラドックス』ページより抜粋)
ぶっちゃけた話、抜粋元のページを見ていただいた方が分かりやすいとは思いますが一応解説させていただきます。
まずワニが赤ん坊を食べようとしている場合、母親は当てたことになるので赤ん坊を返さないといけなくなる。しかし返すとなると結果として赤ん坊を食べる事にはならないので外れる事となり食べることになる。よって矛盾してしまい答えが出ない事となる。
次にワニが赤ん坊を食べようとしていなかった場合は、母親は予想を外す事になるので赤ん坊を食べることになる。そうなると予想が当たる事となり食べない、という話になり前述のパターンと同じとなる。
……というのが普通の『人喰いワニのパラドックス』の選択肢なのですが、私はここへ独自の選択肢を”2つ”足したのがこの『ワニと論理』という話です。
人喰いワニが話の主題となっているので今挙げた2つの例はどちらも当然”食べると予想している”前提の基に成り立っています。しかしここに母親が”食べないと予想していること”が前提とされるとどうなるでしょうか?
実際にそのパターンを文字に起こして確認してみましょう。
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Case3.ワニが食べようとしていた場合
この場合母親は予想を外したこととなるので、ワニは赤ん坊を食べることになります。そのまま矛盾は生じずにこの話は終わってしまいます。
Case4.ワニが食べようとしていなかった場合
こちらの場合は母親の予想が当たったこととなり、無事に赤ん坊は母親の元へと返されて何も起きなくなります。
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さあ、ここで出た合計4つのパターンのうち”1つだけ”赤ん坊が食べられる事のないものがありましたね。
さて、今度はこの話を”予想を外したら返す”という前提にするとどうなるでしょうか。
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Case-B1.ワニは食べようとしていて、母親が食べると予想した場合
母親の予想は当たることになるので、ワニは赤ん坊を返さずに食べてしまう。矛盾は生じない。
Case-B2.ワニは食べようとしておらず、母親が食べると予想した場合
母親の予想は外れることになるので、ワニは赤ん坊を返すこととなる。これも矛盾は生じない。
Case-B3.ワニは食べようとしていて、母親が食べないと予想した場合
母親の予想は外れることになるので、ワニは赤ん坊を返すこととなる。そうなると食べないという予想が当たることになりワニは赤ん坊を食べることとなって予想が外れるので返すことになり、それにより予想が当たるので食べる、矛盾となる。
Case-B4.ワニは食べようとしておらず、母親が食べないと予想した場合
母親の予想は当たる事になるので、ワニは赤ん坊を返さずに食べてしまう。そうなるとこれもまた食べないという予想が外れることとなるので食べないことになり矛盾してしまう。
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さて、以上の8パターンが考えられ得る全てになります。
この中で矛盾が生じないパターンを取り上げるとCaseA(前者の4つ)の3と4、CaseBの1と2の合計4パターンになります。
ここで上で表現していた『赤ん坊を食べる』という表現と登場人物『ワニ』と『母親』の部分を小説本編のものに置き換えてみましょう。
『母親』と『ワニ』は”A(主人公)”と”B(告白相手)”となり、当然『ワニが赤ん坊を食べる』という表現は『BがAの告白を断る』に置き換わります。
ここから更に置き換えた状態で、矛盾の生じない4パターンを書いてみると……
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Case-A3.AはBが断ると予想していて、BはAの告白を受け入れようとして、当てたら付き合う場合
この場合Bは予想を外したこととなるので、Aは告白を断ることになります。
Case-A4.AはBが断ると予想していて、BはAの告白を断ろうとして、当てたら付き合う場合
この場合Bは予想が当たることとなるので、AとBは付き合うことになります。しかし結果として付き合えてしまうのでここでは矛盾としています。
Case-B1.AはBが受け入れると予想していて、BはAの告白を受け入れようとして、外したら付き合う場合
この場合Bは予想が当たることとなるので、Aは告白を断ることになります。しかし結果として断ることになるのでこちらもここでは矛盾とします。
Case-B2.AはBが受け入れると予想していて、BはAの告白を断ろうとして、外したら付き合う場合
この場合Bは予想を外したこととなるので、AとBは付き合うことになります。
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この4つの中から――全体であれば8つの中ですが――、『断ると予想したのに付き合える』というパターンを探した結果Case-B2を採用したのが小説本編になりました。意外性を求めるために敢えてこの選択をしました。自信満々に断ると予想したのになぜ付き合えるという結果になるか、これで解っていただけたでしょうか?私は本編を書いていた時も8つのパターンを全てメモ帳ソフトで書き起こして保存しても混乱して、この解説記事を書くにあたってそのファイルを再度開いてここまで書いている間にも混乱しました。
という訳で長期間掛けて書き上げた本編とこの解説記事ですが、ようやくこれにて『ワニと論理』は正式に終わりと相成ります。これで心置きなくメモファイルを消すことができます。いえ、もったいないので消しませんが。
過去最長の記事でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。多分この記事を見てくださった方はやっと本編を理解したことと思います。また次の小説、ないしはコラム記事でお会いしましょう。今回もこの私、お餅。がお送りしました。また次回。