本屋が好きだ。別に何か買いたい本がなくてもよく本屋に行く。陳列された本を眺め、手に取り、軽く目を通す。それだけで何か広い風景が目の前に広がっていくような心地よさを感じる。
本屋はアイデアの宝庫と言われる事もあって、作家や編集者の中には、机に向かって唸り声をあげているより、本屋に行って本を眺めたほうがアイデアが湧いて来るという人もいる。僕も割とそのタイプで、本屋に行くと何か面白い事を思いついたりする。
そんな本屋だが実は大きな問題がある。
僕は「本屋にいるとトイレに行きたくなる」のだ。
湧くのはアイデアじゃなくて便意。
それもわりとビッグウェーブなタイプ。店内にトイレがない本屋だったりすると、殺人鬼に断崖絶壁へと追い詰められているような状況になる。
ほとんど毎回そうなるので僕にとって本屋に行く=トイレに行くということだ。もはや本屋はトイレと言える。紙もたくさんあるし。失礼な話だが水に流してほしい。
何にせよこれでは本屋に行くのが怖くなってしまう。不便だ。(便だけに)
うーん、この体質……
などと思っていたのだが、どうやら意外と少なくない人が同じことで悩んでいるらしい。俗称ながら名前もついている。その名も「青木まりこ現象」だ。
青木まり子現象とは。
青木まり子、なんと実名である。読書好きの女性が「本の雑誌(編集・椎名誠とか)」というなんとなく高尚な感じがする名前の雑誌に投稿してきたことがきっかけで世に広まった。その中身はまさに「トイレに行ったら便意が高まる」というもの。共感する人が多かったのか、投稿者の名前をとって「青木まりこ現象」と呼ばれるようになったらしい。
この投稿があったのは1985年。つまり人類はもう40年近く本屋での便意に悩まされているのだ。にもかかわらず原因は明らかになっていない。ただ、いくつかの俗説はあるようだ。
本屋が便意を誘発する理由は?
①立ち読みする際の姿勢の良さや、店内を歩いたり本をとろうと屈む動きが便意を促している
②本のインクのにおいが化学反応を起こしている
③大量の本を前にして神経が高ぶっている
④本屋にはトイレがないという不安感が原因
⑤過去に同じことがあったゆえの条件反射
など。どれもそれなりの説得力があるものの、どれも科学的なエビデンスはなく、仮説にすぎない。
僕個人的には③が有力で、興奮してるからお腹の動きが活発になっているのかな、と思っている。
子供のころから緊張や興奮で気持ちが昂った時など、ほぼ毎回トイレに行きたくなっていたからである。
運動会の徒競走のときとかもそうだった。湧き上がってくる闘志と便意。一歩間違えれば大惨事であった。
大きい本屋は蔵書も多く、ちょっと行かなかっただけで新しい本が出ていたりするので何となく気持ちが高揚する。だから便意も上がっていくのかもしれない。
もちろんこれは僕はそうというだけで、違う理由の人もいるだろう。みんなちがってみんないい。
そもそもどんな理由があろうと圧倒的な便意の前に人は無力なのだ。理由が分かったところで本好きが本屋に行くのは止められないし、人間である以上便意を止められるわけでも無い。人の夢はおわらねェ!
というわけで我々が考えるべきは、青木まりこ状態になった時の対処法である。
青木まり子現象の対策を練ろう!
①牛歩戦術
全身の運動が腸に刺激を与えるのが便意を誘発しているのなら、牛歩戦術で出来るだけ体が動かないようにちびちび歩けばいいのだ。
欠点はそもそも本屋に行くまでの間に徒歩という運動しちゃっている点だ。運転できる人はいいが、それ以外は家から牛歩するしかない。だがそれだと本屋につく前に日が暮れてしまうし、下手をしたら路上で便意である。ちょっと採用は難しい。
②においをカットする
インクの匂いがダメなら嗅がなければいい。マスクを着用するなどして匂いをカットするのだ。鼻をつまむかマスクをするか、それでもだめならガスマスクだ。ガスマスクは優秀だし、万が一粗相しちゃっても自分は匂いを気にせずにすむし、周りから顔も見られない。店員に怪しまれて110番されることくらいしかデメリットがない。
でもコロナ以降ずっとマスクしてる僕が相変わらず本屋=トイレなので効果は期待できない。GOTOトラベルは終わったけれどGOTOトイレは終わらないのだ。
そもそもコロナ禍で青木まりこ現象が減りましたという話も聞かないし。
③気持ちを落ち着ける。
興奮すると便意が強くなる。なら興奮を抑えればいい。とはいえ人間、すぐにリラックスはできないと思うので、便意を抑える薬(くすり)やサプリを使うのがいい。他にも主に新宿歌舞伎町や池袋などで手に入るメンタルのリラックスに効く薬(ヤク)があり、キメると理性のコントロールがはずれてリラックスしたり、多幸感が得られるなど
④断食
出るものがなければ出ない。溜まったものを全部出し切って、そのあとご飯を一切口にしなければ大丈夫だ。おなかがすくと頭が冴えるので一石二鳥である。
⑤記憶を消す
条件反射をなくすために徹底的にやろう。電気ショックがオススメだが人格も変わってしまうのが難点。(時計仕掛けのオレンジ)
あんまり有効な対処法がなかった。どれもこれも日常生活を損なう案ばかりであり、リスクが大きい。
というわけで、一番現実的な案がこちら。
⑥近くにトイレがある本屋に行く。
これに尽きる。本屋に行くとトイレが近くなってしまうのであれば、近くにトイレがある本屋に行けばいいのだ。逆転の発想である。
便意を受け入れて本屋を選ぼう。
おすすめはデパートやショッピングモールの中にある大型書店。そうした建物には1フロアに複数個トイレがあるし、ダメでも他の階にいけばいいので限界突破目前のトイレサバイバーでもチャラヘッチャラ。しかもそういう本屋の売り場は広く、品ぞろえもいい。売れ線だけを置くような書店にはない海外文学や学術書、マイナーな漫画とかもあったりするし、定期的にフェアが開かれて独自のテーマに沿ったラインナップを組んだりしてくれるので、本探しにもピッタリである。
逆に小さな町の本屋とか、小さなビルに入った本屋には注意が必要。トイレがある可能性はぐっと低くなる。
具体的に言うと大〇山にある天〇書房は3階建てのビルまるごと本屋だが、どの階にも客用のトイレがない。
便意を感じたら早めに脱出しなければならないが階段が急なので2,3階で催したときはかなりスリリングな体験ができる。
そういう本屋を利用する時はどうすればいいか。答えは、事前にコンビニを探す、である。
最近のコンビニはトイレを開放してくれている店舗が多いし、都会ならあちらこちらに雨後の筍のごとくコンビニがあるので頼もしい。今ならグーグルマップとかもあるので、周りにコンビニがあるかどうかチェックしておこう。
店舗によってはトイレがないコンビニもあるので、本屋に挑む前にさりげなくコンビニを覗いてトイレがあるかどうか確認するとよい。まさに町のホッと(リアル)ステーション、コンビニエンスストアである。
それでも僕たちは本屋に行く。
なんとか青木まりこ現象への対策ができた。まとめると、大型の商業施設にある本屋がオススメ。そうでない本屋に行く際は最寄りのコンビニの位置とトイレの有無を確認することが大切である。
実に論理的かつ的確な行動を提案できた。知恵の勝利といえる。これも日頃から本を読んでいるおかげだ。みんなもどんどん本屋に行こう。
そしてどんどんトイレに行こう。