夏が好きだ。
太陽は煌めき、入道雲が立ち上る。草木はむせかえるように匂いたち、蝉の鳴き声が雨のように重なっていく。子供たちのはしゃぐ声が響き、遠くからは屋外プールの1時間につき15分の休憩時間を知らせる放送が聞こえてくる。そんな風景や音から、僕は夏を全身で感じ取っている。
暑さで気力も体力も奪われてしまうし、毎年うんざりしているのに、それでも僕は夏が好きだ。
外を歩いていると、子どもの頃のことを思い出す。
マウンテンバイクにのって友達と市営プールに行き、夕方までめいっぱい泳いだ。
帰りがけには必ずコンビニに寄って、ソーダ味のガリガリ君を買って食べた。
別の日には、お菓子を食べながら遅くまでテレビゲームで対戦した。出てくる麦茶やジュースの味が家ごとに違っていて、苦手な家もちょっとあった。みんなカルピスが好きだったのに、僕だけは苦手で飲めなかった。
冬だったらとっくに真っ暗で急いで帰らなきゃいけない時間なのに、夏は五時を過ぎてもまだ明るい。夏の夕方は金色を帯びていて、そのどこか透明な光の中にいると、このまま自転車を走らせてどこへでも行けるような気がした。夏は心が弾む冒険の季節だった。
けれど、季節の中で夏だけがどこか切なさをはらんでいる。それは、旅行やお祭りの終わりに似ている。
子どものころ、待ち焦がれていた夏休みが終わる寂しさを覚えているからかもしれない。あるいは、戻れない子供時代そのものを思うからだろうか。永遠に続けばいい、けれど、否応なく過ぎ去ってしまう。そんな物事が、夏にはたくさん詰まっているように思う。
だから僕は夏の風景が、夏を描いた物語が、夏を思わせる音楽が好きだ。
輝きと儚さを秘めた、夏が好きだ。