その他

なかよし川のエモさが響く!ユーフォニアム

やっぱりなかよし川が最高なんだよなあ。

急にどこかの二級河川について語り始めたわけではなく、
もちろん前回に続いて響け!ユーフォニアムのお話である。前回も言った通りこの作品の魅力は多面的なので一度にまとめるのは難しいのだ。
三期に向けて増えるであろうネット検索にあわよくば引っかかろうとしているわけでは断じてない。
#響け!ユーフォニアム #大谷翔平 #推しの子 #プーチン 

モブキャラまで手を抜かない、響け!のキャラクターメイキング


響け!の最大の魅力は、深みのあるキャラクター造形と、それが織りなす繊細な人間関係だと僕は思っている。
登場人物が、単なるキャラクターとしてではなく作品世界を生きる一人の人間として描れているのだ。
現実の人間と同じように、いやそれ以上に泣いたり笑ったり、悩んだりもがいたり、時には行き場をなくしてどうすることもできなかったりする感情に満ちている。

響け!は数十人いる吹奏楽部員一人一人に性格、趣味や特技、友人関係などを設定している。登場人物の多くは本来ならモブキャラという立ち位置なのに、カットの外でちゃんと作品世界を生きているのだ。こだわりがすごい。岸部海松(みる)とかモブキャラに付ける名前ではない。
https://www.kyotoanimation.co.jp/shop/kitaujisuibu/


カメラに映っていない教室の反対側で、校庭で、渡り廊下で、
久美子や親友の高坂麗奈が感じていたのと同じ熱量の感情が渦巻いている。
だからこそ響け!の物語は濃厚で熱く、美しい。

なかよし川が 響け! 最強のコンビである理由

そんな中でも「なかよし川」はぶっちぎりでエモい二人なのだ。
「なかよし川」は久美子の一学年先輩である「中川夏紀」「吉川優子」のコンビのことで、なかがわとよしかわだから「なかよし川」

あだなとかパートグループの名前とかの絶妙なダサさがまたリアル高校生感があっていい。
ポニーテールでツリ目、いつもけだるそうにしているのが中川夏紀。勝気な表情で、頭に嘘みたいなでかいリボンをつけているのが吉川優子である。視聴者からの呼び名はもちろん「デカリボン先輩」だ。

「なかよし川」のくせに、二人は顔をあわせればいつも言い合いになって喧嘩している。
大体夏紀が何か茶化して優子が怒るというお決まりのパターン。
そんな二人の喧嘩はもう名物になっていて、新入生以外は皆「また始まった」扱いである。
トラブルや気まずい空気にとりわけ敏感な感度ビンビン主人公、黄前久美子でさえ、二年生の終わりごろには普段の二人の口喧嘩は「ほっといていいよ」というくらいである。

もちろん本当に仲が悪いわけでは全くなく、要するに「喧嘩するほど仲がいい(認めたがらないが)心の底をさらけ出せる唯一の相手」である。実に尊い。エモすぎるやつ。しょっちゅう憎まれ口をきいたりつっかかったりして言い合いになるくせに、一番信頼しあっているのだ。素晴らしい。

メインの影ながらも見逃せないなかよし川

なかよし川のクール担当、中川夏紀は割と早々に出番があった。久美子と同じユーフォニアム担当で一緒に練習することになるし、大会に向けたスタメン選抜で先輩の夏紀に勝ってしまったことに引け目を感じる久美子を逆に応援したりと良い先輩っぷりが目立つ。

一方で優子が全面に出てくるのは1期の中盤ごろ、優子の尊敬する三年生の先輩、中瀬古香織と天才的な技巧をもつ一年生、高坂麗奈のどちらがコンクールでソロパートを吹くかという問題が生じたときだ。ここで優子は、香織派の急先鋒として良くも悪くも目立ちまくった。

多くの視聴者にとって、序盤で久美子の不安を消し去った夏紀は「良いパイセン」として既に人気を得ていたが、優子の評価はこの時点ではけして高いものではなかった
性格は勝気で口調も強めで攻撃的。主人公の親友である麗奈に対して、香織先輩にソロを譲れと言いだしたり、しまいには麗奈を不利にするために、顧問の滝先生と麗奈が昔からの知り合いだったとばらして贔屓の存在をにおわせる始末。ひどすぎる。
もちろん、優子や香織たちの世代は改革前の北宇治で苦しんでいた背景があるとはいえ、この時点では完璧な「やな先輩」である。

だがよくよく見てみると印象が変わる。香織への思慕の強さだけではない。自分が悪者になっても誰かのために必死に行動できる情の深さがすでにあらわになっていたのだ。

どちらがソロか決めるために麗奈と香織が演奏した時、その実力差は明らかだった。香織を慕う部員たちがどちらにも投票できずに迷っているとき、優子はたった一人香織に全力で拍手を送る。香織世代が在学中の北宇治は一部を除いて腐っており、それでも後輩のために必死になんとかしようとしていた香織を思い、時にやりすぎを注意されながらも香織の側に立ち続けたのだ。

もちろん、香織の演奏が麗奈に及ばないことなど、優子はわかっている。全国に行くためには麗奈の力が必要であることも。
そんなことは実際に戦う前から、わかっていたのだ。
ソロをかけての演奏に向かう香織に「がんばってください!」とエールを送った後のこと。
重い足取りで歩く優子は夏紀を見つけると歩調を早め、ぶつかるように夏紀の背中に顔をうずめ、一瞬だけ嗚咽したあと走り去っていく。いつもなら乱暴なぶつかり方に文句を言いそうな夏紀も、優子の気持ちを理解したような眼差しを向けて黙っている。夏紀を見て思わず駆け出し、その背中で涙したのだ。
不器用な形でしか弱みを見せられない、いじましさがたまらない。

表面だけ見て「なんだこいつ」とキャラを嫌うだけでは一流の視聴者じゃないんだよなあ。一流ならそこで立ち止まってはいけない。内面を見ろ内面を。ちなみに僕は「(見た目はいいけど)なんだこいつ」と思っていました。二流です。

このソロパート決めエピソードは久美子の漢気、愛の告白、これまでちょっと切れ味鋭かった麗奈の、久美子への信頼感あふれる笑顔などなど「れいくみ」株爆上げの回で、僕も当時「麗奈イケるやん!」「れいくみ百合最高や!」と興奮していたのだが、今考えたら優子ってすごかったんだな、と感じる。
れいくみ、百合じゃなかったし。

ちなみに後日、素直に麗奈に謝れなくて気まずい感じの優子を夏紀が茶化すシーンをギャグテイストに演出することで「なかよし川」特に優子への親しみがわいてくるのだが、このあたりの演出がさすがに京アニである。

あきらかになるデカリボンちゃんの優しさ

2期では、なかよし川の良さがより一層出てくる。
夏の京都府大会を突破した北宇治高校に、一時期部を離れていた、同級生で同じ南中出身の「傘木希美」が復帰するところから物語は始まる。
そんな彼女と「鎧塚みぞれ」をめぐる一連のエピソードでは優子の激しく、まっすぐで不器用な優しさや、夏紀のぶっきらぼうさの裏の思いやりがどんどんあらわれてくる。

物静かでちょっと……かなり……天然な鎧塚みぞれは、一年生の時、自分を部に誘ってくれた希美に異常なほど依存/執着していた。
だが希美は部の雰囲気が最悪だったころ、「みぞれに何も言わずに」部をやめてしまう(理由があるのだが)。優子は傷ついてしまったみぞれのそばにずっといたのだ。

優子は希美が復帰することをずっと渋っているのだが、それはみぞれを思いやっていたからだ。
結局物語の途中で、自分を捨てた(!)希美が戻ってくる。その時パニックになったみぞれを必死に助けようとし、それでも結局希美の存在の大きさにはかなわないと分かった優子が切ない。そんな優子を軽く茶化しながら、夏紀は少し真剣な声でいう。

「――それでも、みぞれにはあんたがいてよかったとおもう」

一瞬、泣きそうな表情を浮かべながらも笑顔を浮かべて夏紀を茶化し返す優子に、二人のやさしさと気丈さがつまっている。

二人でいるときにだけ、本音が言える。

このあたりから「なかよし川」は本格的に完成されていく。
今までが「尊みが深い」だとしたら三年生時の二人は「尊み秀吉」である。そのエモさは天下統一級のといっていい。

特にこの辺りはアニメだけでなく、原作小説でも描かれており、作者もこの二人に思い入れがあることがうかがえる。原作小説も登場人物の複雑で繊細な心理が丁寧に描かれていて非常におススメだ。(原作ではキャラクターがほぼみんな関西弁だが)
久美子たちを主軸に描くアニメでは描き切れなかったなかよし川の良さが存分に表れている。

三年生となった優子はその強いリーダーシップを買われて部長に。夏紀が副部長に就任。この役割分けは卒業した田中あすかの置き土産だ。
なぜ夏紀を副部長に据えたのか。
それは「優子に、完璧な部長を演じさせないため」
である。あすかの見立てた優子の性格は

「感情的になりやすいが、意外と他人に気を遣う性格。自分より他人を優先し、怒る理由も自分より他人のため。そして自分のダメージに鈍感すぎる」

ということ。そして、嘘が下手な直情径行な子に見えて、実は

「優子が本気で本心を隠そうとしたら誰も気づけない」

全国大会を目指すために完璧な部長を演じ、他者を常に気遣い、鼓舞し続け、自分の疲労や不安はおくびにも出さず、一人で抱え込む。きっと優子はそうする。

でも、夏紀に対しては「部長」ではなく、素の「吉川優子」としてふるまうことが出来る。部長スイッチをオフにすることが出来る。というか、部長モードでいられなくなる。それができるのは夏紀しかいない。それがあすかの見立てである。

もちろんあすかとしては優子の内面を慮ったわけではなく、優子と夏紀の親しみやすさを見せることで部の運営がより円滑になるという計算をしている面が大きい。このあたりはさすが田中あすかといったところだが、実際、夏紀の存在は優子を何度も救うことになる。

合宿で、優子は自分の練習に加え、部員たちの練習や悩み、もめごとなどすべてに対応していた。
夏紀もそれをフォローし、さらには優子に休むように何度も言いながら、優秀な優子は聞き入れず、過密なスケジュールをこなしていく。
だが当然無理がたたり、体調を崩してしまう。それすらも誰にも悟られないようにふるまう優子だが、夏紀だけは彼女の不調に気づいていた。夏紀が何度も休むように言っても、優子は頑として聞き入れない。全員の実力を底上げするため、倒れるわけにはいかないと言い張る。そんな彼女の言葉をさえぎって、いつもの喧嘩ごっことは違う、本気の厳しい口調で言うのだ。

「ホントに怒るよ」


「そんなに自分が頼りないか」という夏紀の言葉に、渋々優子は引き下がる。
一部始終を(いつものごとく)見ていた久美子に、照れ隠しのような不機嫌さを見せながら部屋に引っ込んでいくのだ。

アニメではこの部分を詳しく描かれていないが、コンクールの本番直前のみんなの前でのあいさつでは、優子の心からの感謝が伝わってくるような声色で、「ありがとう」と夏紀に告げるシーンがあり、思わず照れてしまう夏紀も含めてその関係性がうかがえる。

別の短編集では、優子がどれだけ嫌がってみせても憎まれ口をたたきながらも傍にいようとする夏紀に対し、「疲れた」と優子が柔らかな本音をこぼすシーンも描かれている。
この二人は、二人きりになったときにしか、本当の本音を言わない。

最高の部長と、支え切った副部長。夏紀だけが知る優子の涙。

北宇治の結果は、金賞。京都府大会では、金賞を手にした学校の中から3校が関西大会へと駒を進めることが出来る。最高の賞である金賞をとったとしても、3校以外は、次の大会へ進むことが出来ないのだ。そして優子と夏紀が率いた北宇治高校は、3校に選ばれなかった。
みなが見つめる表彰式では夏紀とこぶしを軽く合わせてみせる優子。
悔しさを表情にはあらわさない。

だが、悔しくないわけがないのだ。香織が麗奈に敗れた時に号泣したことを思い出せばわかる。全国だけを目指して全員で必死に練習してきた。きっと涙があふれそうになっていたに違いない。なのに、人の前では一切彼女は涙を見せない。
ただ、夏紀を除いて。

表彰式の後、泣きながら崩れ落ちる優子を支えながら、夏紀が何かを語りかけているシーンがある。どちらのセリフのない、ほんのワンカットだけのシーン。
優子が夏紀にだけ見せる姿である。
このあとの優子の行動を見ればこの二人の関係がいかに特別かがわかる。

そして次のシーンの優子がまた泣かせる。落ち込み、悄然とする部員たちの前にしっかりとした足取りで、つい先ほどまで泣いていたことなど微塵も匂わせない表情と力強い声で語りかけるのだ。


「ちょっとちょっと、何この空気?」
「お通夜じゃないんだから」

「何落ち込んでんの?」
「私達は今日、最高の演奏をした!」
「それは事実でしょ?」

「これまで私達を支えてくれた部員のみんな、先生達や保護者の皆さんのためにも」
「胸を張って帰らなきゃ!」

「でも落ち込む必要はない」
「私達はあの瞬間、最高の演奏をした!」

「そしてこの経験は、絶対に明日につながる」
「来年につながる」

「1年間部長をやった私が断言するよ、北宇治はもっとよくなる!」
「もっともっと強くなる!」

「だから、顔を上げて!」

「今日という日は、来年のコンクールに向けての1日目!」
「明日からの練習、頑張っていきましょう!」



次第に表情に力が戻ってくる部員たち。そのとなりで夏紀はトロフィーを抱きながら、優子をしっかりと見つめていた。
優子を誇らしく思いながら。


明らかになる夏紀の心の根っこと、優子の返答の美しさに震える

響け!シリーズはアニメ、劇場版、原作小説に加えて、短編小説も展開されている。久美子以外の人物にも焦点が当たったり、退部や卒業した部員の心情が描かれるなど読みごたえがあってお勧め。

最新の短編集「飛び立つ君の背を見上げる」は、卒業を間近に迎えた中川夏紀を視点に据えた、南中4人組の物語である。
傘木希美の抱える嫉妬と友情と自己嫌悪などの葛藤への折り合いや、鎧塚みぞれの成長などが描かれるのだが、一番意外だったのは、中川夏紀の内面であった。
面倒見がよくて、頼れる「いいやつ」というイメージだった夏紀だが、彼女は彼女で、そう思われることがずっと苦しかった。
皆に優しいのは、一年生の時の自分の言葉が、傘木希美が退部する最後の一押しになってしまったのではないかと罪悪感を抱いたゆえの罪滅ぼし。そして斜に構えているようで、「特別な、オンリーワンの人間になりたい」と思っていた。なれない自分が嫌だった。

優子にとって、隠した涙を見せられる相手が夏紀だけなら、夏紀が秘めてきた淀んだ思いをぶつけることが出来るのもまた優子だけ。
ぐちゃぐちゃな思いを吐露する夏紀、そんな彼女に対して優子は言う。これがもう、胸を揺さぶる凄い名台詞なのだ。


「あんたを聖人君子とおもったことは一度もない」

「夏紀は自分の代わりが世の中にいることが嫌で嫌で仕方ないみたいやけど、うちはそんなに悪いことやとは思ってへんよ」

「いくらでもかわりがいる中で、うちはあんたを選んでこうやって一緒にいるわけ。代わりがないからじゃなくて、代わりがいくらあってもあんたを選ぶ。一緒に音楽やるのも、こうやって過ごすのも、夏紀と一緒がいいよ

良いやつじゃなくても、オンリーワンの存在じゃなくても、中川夏紀という人間が大切だ、という言葉の力強さと言ったらたまらない。こんなかっこいいことを照れ隠しもせず、まっすぐに言えるのは、たぶん吉川優子だけだろう。

優子が隠してきた本音を夏紀が引きずり出したように、夏紀の本心を引きずり出せるのも優子だけなのだ。
夏紀はいつものように照れ隠しの憎まれ口をたたきながら、何でもない風を装って言うのだ。

「うちも、一緒にいるならあんた以外考えられへんな」

というわけで、「響け!」は人間関係もめちゃくちゃ魅力的で、中でもやっぱなかよし川が一番好き。というお話でした。
ちなみに優子は夏紀に今までの感謝を述べた直筆の手紙も送っている。

「あんたが思っているよりずっとこっちは感謝しているってこと」

「あんたのこと、結構好きやぞ!」

優子の「結構好き」は「大好き」ってことである。
もしかして……ワンチャンあるのか……?
そういえば夏紀は優子に彼氏ができたときのことを想像してなんかムカついていたし、優子は部活が凄すぎて男なんか物足りないみたいなことも言っていた。
久美子と麗奈が果たすことのできなかった百合があるのか……?


そんなわけで、なかよし川のポテンシャルが素晴らしいというお話でした。
3期の制作も発表された響け!ユーフォニアム。主人公はもちろん、新部長に就任した黄前久美子。最大の試練が訪れるのだ。その伏線はこないだの映画「アンサンブルコンテスト」でしっかりまかれている。その試練を久美子はどう乗り越えるのか。
波乱の最終楽章の幕開けである。

FT

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こんにちは!
アニメや映画、プロ野球を見たり、本を読むのが好きです。
浅く広くいろんな作品に触れていくタイプなので、それを活かして記事を書いていこうと思います。よろしくお願いします!


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