2023冬アニメもそろそろ全部終わるころ。今期一番話題になったのは、「おにいちゃんはおしまい」
略して「おにまい」じゃないだろうか。
なにせ原作漫画がkindleの売り上げで一時あの「ワンピース」を凌いでいた時期があったのだ。しかも日本国内ではなく、何故かドイツで、である。けしてメジャー作品でないのにこのランキングというのはかなりの偉業である。
さすが世界に冠たる日本の漫画にアニメ。選手層の分厚さがハンパない。
というわけで3話くらいのタイミングで「おにまい」を紹介しようと思っていたらいつの間にか最終回。
これでは「おにいちゃんはおしまいはおしまい」である。何はともあれ実に心温まる最終回で、1クール通してクオリティが高い作品だった。そんなおにまい、どんなアニメかというと、
「ひきこもりの自宅警備員成年男性が、実の妹やその親友の女子高生に可愛がられ、女子中学生たちと友達になって中学に通う」アニメである。
やばいアニメじゃね?絵面エグくない?大丈夫?
大丈夫なのだ。
なぜなら、主人公、緒山まひろは女の子になっちゃったからである。
「おにまい」は、主人公のまひろ(♂→♀)が可愛いアニメ
お兄ちゃんは女の子(中学生相当)になってしまった。おにまいの魅力はまずこの「まひろちゃん」である。ビジュアルも声もかわいい。
元々ずっと引きこもっていたために人見知りで大勢の人間にビビったり、運動不足ゆえにフィジカルよわよわだったりと小動物的なかわいらしさ。
1、2話からいきなりお風呂からの女物の服着用、トイレ問題にブラジャー購入、さらには女の子の日などなどかっ飛ばした展開のオンパレード。もはやお兄ちゃんの男としてのアイデンティティはボロボロ。まさにおにいちゃんはおしまいである。
キャラ萌えときわどいネタてんこもりの、頭悪い系コメディかと思いきや……おにまいはそんな凡百の作品ではないのだ。
お兄ちゃんはなぜおしまいになってしまったのか。
おにまいの主人公、まひろが女の子になったのは妹、緒山みはりのせいである。
ダメダメなお兄ちゃんを真人間に戻すため、女の子にするという完璧な作戦を考案した。
みはりは高校生相当の年齢なのに飛び級で大学生になるほどの天才少女。その大学の研究室で(教授承認のもと)男が女の子になる薬(ヤク)を開発し、お兄ちゃんの飲み物に混ぜ―――目が覚めると、お兄ちゃんは女の子になっていたのだ!
どこかの小学生探偵のような展開だが、みはりは別に黒ずくめのポエマー、ジンニキのような悪人ではない。お兄ちゃん大好きないい子である。
むしろ公式で大のブラコンと言われており、Wikipediaには「兄妹の情を超えた感情」を抱いているとさえ書かれている。甘酒を飲んで酔っ払うと、まひろに「お兄ちゃーーん!」と飛びつくくらいのお兄ちゃん子である。
頭がいいだけじゃなくて運動神経も良く、中学生の頃は陸上の記録保持者でもある。料理も上手い。
みはりが何故そんなに色々出来るのかというと、愛ゆえにである。
ひとえに、お兄ちゃんに褒めてもらいたいから。まひろに食べてもらいたくて親友からお菓子作りを教わったり、お兄ちゃんからもらった髪留めを今もずっと使っていたり。けなげすぎる。
なのに、いつしか2人の距離は疎遠になってしまっていた……。
「おにまい」は兄妹の絆をつなぎなおすハートフルアニメ
世紀末の北斗な4兄弟のように、自分より優れた弟(妹)がいると兄は歪んでしまうものだ。
まひろもそうだった。
引きこもってしまったのも、出来すぎる妹と比較され続け、挫折したから。
仲の良かったみはりともほとんど会話を交わすことも無くなってしまった。
だが女の子になってから、状況は一変した。
毎日の身体検査のためにみはりは部屋に入って来る。2年ぶりの散歩にも連れ出されてしまう。さらには一緒に買い物にも出かけたり、風邪を引いたみはりの看病したり、家事を手伝ったり、さらには一緒にお風呂に入ったり(!)
疎遠になる前、仲の良かった幼いころのように、距離は縮まっていく。
まひろは、みはりだけじゃなくその親友のJKギャルかえで、その妹で中学の同級生になるもみじたちと触れ合っていく。そして、期待に応えなければと気負い過ぎていた過去の自分とは違う、ありのまま(性別以外)でいられるようになっていく。妹や友達の関係を、かけがえのないものに思えていく。そう、これは傷ついた心や壊れかけた愛情を救う物語なのだ。国語の教科書に載せていい。
しかも、それだけじゃない。この作品を見ると僕たちは賢くなれるのだ。
「おにまい」はとっても教育的なアニメ
「おにまい」ずばり、「男女の身体の違いに気がつく作品」である。
まひろは序盤からいきなり妹とお風呂に入ったり、女の子の日に苦しんだりする。
そんなアニメみてるなんて男子ってサイテーと思うかもしれないがこれは必要な展開なのである。
なぜなら、この体験を通してまひろは女性の体のつくりを学んでいくからだ。前述したデリケートなこともそうだし、日常的な事ではお風呂もそうだ。
カラスの行水みたいな入浴スタイルのまひろは物凄く嫌がっていたが、長い髪をきれいに保とうとすれば洗髪にも工夫が必要。トリートメントもじっくりすりこまなければならない。
女性のそうした大変さを感じづらかったりする男性も自然に異性の事情を学ぶことが出来る。逆に女性からしても、男性は女性の事情を実感しづらいのだということを認識できるのだ。わかりあい、宇宙である。
「おにまい」では普通の作品の3倍くらいの頻度で「お〇らし」が起きるのだが、それも男と女では体のつくりが違うからである。男の感覚で我慢していると粗相をしてしまう。男女の身体の違いをより感じさせるためのやむを得ない教育的表現なのだ。
けして作者がおも〇しフェチだからではない――まあフェチなんだろうけど。
ともかく、「おにまい」は勉強になるアニメなのだ。
おにまいは多様化する社会におすすめの作品
多様性が叫ばれるようになって久しい。
身体と心の性の違いに悩んでいる人や、同性を好きになってしまう人。自分への自信を失ってしまう人。
「おにまい」にはいろんな人が出てくる。本当のまひろはひきこもりだし、友人のもみじはまひろの事が大好きだし、同級生のみよはその様子をみて興奮する百合好き。
みはりに至っては、実の兄を異性として好き⇨実の兄を同性になっても好きだし何なら愛でるという業の深さである。
それでもみんな、誰かから排除されたりしない。やさしい世界である。
笑えるし可愛いし暖かい物語。
だからこそ、日本のみならず、ドイツでもヒットしたに違いない。
けしてお〇らしネタが大好きだというわけでは無いはずだ。