朝と夜を経て月日は巡り季節は移ろい夏は過ぎ去り秋がやってくる。そうするとどうなるか。
そう、秋アニメが始まるのだ。
大作ぞろいのラインナップのなかでキラリと光る作品
秋アニメは10月から始まっているので、ほとんどの作品がもう中盤くらいまで終わっているのだが、アニメが面白くなってくるのはここからである。1、2話で世界観やキャラクターに馴染んできて、3話以降から次第に伏線だったりストーリーの方向性が見え隠れしだすからだ。
さて今期だが、「リコリスリコイル」という怪物的ヒット作が現れた前期ほどのインパクトこそないものの、話題作「チェンソーマン」や「SPY×FAMILY(二期)」や、かつての超名作をほぼ忠実にリメイクした「うる星やつら」など、粒ぞろいのラインナップとなっている。豊作クールと言う人も多いが、そんな中でも注目している作品が二つ。
「アキバ冥途戦争」と「恋愛フロップス」が面白い。
共通点は「設定がおバカ(いい意味で)」であること、そして「それだけでは済まなそうな雰囲気」がひしひしと伝わってくる点である。
アキバ冥途戦争 ーメイドっていうかヤ〇ザでは?
実にイカれた作品。メイド喫茶と言いながらやっていることは某力団の抗争じゃねーか、というブラックコメディー。
舞台は1999年の秋葉原。メイドに憧れる主人公の少女、和平なごみが一人前のメイドをめざし、「メイド喫茶とんとことん」で一生懸命頑張るぞ!というアニメである。制作はPAWORKS。お仕事アニメをたくさん作ってきた会社である。
どの作品でも大体ブラック企業が舞台になることで定評のあるPAWORKS(会社自体がリアルにブラック企業の疑いがある)だが、今回はブラックはブラックでも次元が違う。パワハラとかセクハラとか長時間残業とかそんなもん生ぬるい。民法や労働基準法違反のブラックではなく刑法を違反しちゃってるタイプのブラックである。
なにせ初回からチャカ(鉄砲の事だよ)がたっぷり出てくる上に、1話でなごみに振られた仕事もひどい。名目はお手紙配達。だがその実「競合他社を潰したいから、使えない新人(主人公)に喧嘩を売らせ、あわよくば殺されることで抗争の大義名分を得る」という鉄砲玉扱いなのだ。
そう、この世界のメイド喫茶はほぼ某力団と同義であり、華やかなお店の裏にはたっぷり重火器があるし、メイドさんはみんな仁義なき戦いみたいに攻撃的で、日々勢力を広げるたびに抗争を繰り広げている。
「ごしゅじんさま~」と甘い声で接客したその1分後には「このクソ豚がァ!」と叫びながら銃をぶっ放していたりするのだ。これがギャップ萌えというやつか……。
後の話ではグループ会社に納めるべき上納金(!)をちょろまかした系列店の店長が社長のオハジキで粛清され、他のメイドさんが身代わりに出頭するなんてこともあったし、義姉妹の盃を(ラーメンで)交わすなんてこともあった。命が軽いアニメである。
1話にしてすでに命の危機に追い込まれたなごみちゃんであるが、頼れる先輩メイド、嵐子(35歳・ついこないだまで塀の中)がキレッキレのオタ芸を振りながらの神業的な銃撃を披露し、一人で敵店舗の構成員全員をジェノサイドしてくれたので無事に生きて帰ってこれた。よかったね。
他にも店長がこさえた借金を返すために店員全員で闇カジノにチャレンジ。もれなく身ぐるみはがされてベーリング海でのカニ漁船送りになるところを、又も嵐子の活躍でスッキリ全員抹殺。最後に投げられた手りゅう弾も即投げ返し、仲間があらかじめガス栓を抜いていたからビルも完全爆破で借金をチャラにしたり、地下闘技場で八百長を命じられるもついヒートアップして勝っちゃって、オーナーに殺されそうになったりする。
毎回とんでもないトラブルに巻き込まれつつ、大体の事を銃火器でスッキリ解決していく、とても愉快な痛快アクションアニメである。
恋愛フロップス ―もはやギャグと化したテンプレに潜む違和感が不穏な考察系アニメ
何処にでもいる平凡な男子高校生(実家超広い・両親海外出張で不在)柏樹 朝が何故か5人の美女美少女(外国人4人)と暮らすことになってさあ大変、全員主人公の事が大好きだから積極的アプローチをかけてきて気が休まる暇もないよトホホ~(苦笑)というラブコメの教科書みたいな設定。
勿論全員転校生と新任教師である。
1話では「パンを加えて走ってきた女の子とぶつかる」「電車の中で寄りかかられて胸があたる」「犬に追いかけられている子を(偶然)助ける」など、あるあるエピソードをこれでもかとぶち込んでくるし、もちろん全員の下着をガッツリ見ちゃう。ラブコメ系で毎度思うんだけどなんで転んだだけで相手のスカートの中に顔がINするの……?
「あ、今朝のあいつ!」×5と言われながらも誤解を解く過程で、何故かみんな主人公にホの字(古い)になり、しかも同棲することが勝手に決められていて……というあらゆる古き良きラブコメを鍋にぶちまけて煮詰めたみたいなアニメ。テンプレにも限度があるだろという感じで、お笑いのあるあるネタを観ている気分。あまりにもラブコメなので嫉妬で胃が痛くなってくる……
のだが……
あからさますぎて、逆になんかおかしくない……?
そう、1話を見ているだけで、次第に違和感に気が付いてくるのだ。
考えすぎかもしれないが、「これ、本当に普通の世界か?」と疑いたくなるようなシーンがあちこちにある。
①あまりにも他の人間がいない
まず、街を歩いていても通行人とほとんど出会わない。それだけならまあわからなくもないが、問題は電車。主人公が住んでいるのは東京。通学時間帯はゴリゴリの通勤時間のはずで満員電車は必至、少なくとも車両全部ガラガラなんてことはありえないのに、誰もいないのだ。
②主人公の記憶がおかしい
主人公の朝には好雄という親友がいて、何故かヒロインたちのことを既に知っていて主人公に教えてくれるのだが……朝は彼のことを覚えていない。「誰だっけ……?」である。仮にも親友に対して、である。しかも、自分の席がどこだったかも覚えていない。というか、そもそも知らないのではないか、とすら感じるリアクションである。
自分が知らない人物が自分のことを何でも知っているかのように接してくる世界。それだけではなく、朝は自分の運動能力にも違和感を感じている。何かがおかしい世界だということがわかる。
③家になぜか5人分の部屋が出来ている
記憶と言えばこれもおかしい。転入生徒のラブコメのハプニング古典芸能を全部やってから家に帰ると、そこには彼女たち全員がずらり!オヤジからメールによると、彼女たちは主人公の結婚相手候補らしく、一緒に暮らすようにとのこと。だが朝は最初は拒否していた。女子5人と一つ屋根の下なんて急に言われても混乱してしまう。
それに何より5人も収容するほどのスペースが無い。
朝がそう抗議すると、ヒロインが一言。
「なにいってんの、ちゃんと5人分の部屋があるじゃない」
慌ててみてみるとその言葉の通り長い廊下に5人分の部屋が……。
幼いころからずっと暮らしてきた家の設計を知らないのは不自然すぎる。
まるで5人がやってきたらいきなり居住用のスペースができたみたいだ。工事をした様子もない。そんなことある?
①はともかく、②と③に関しては「主人公は記憶喪失なのでは?」という考え方もあるが……
④ところどころ意味深な描写
1話の冒頭。4月12日と表示されたデジタル時計がちらついて一瞬「9月12日」と表示される。リビングの時計はなぜか2月を示しており、朝はそれを修正する。さらに自室には朝が写った写真があるのだが、まるで隣にいたはずの人物を無理やり抹消したかのような不自然な感じになっているなど、不穏な描写がそこかしこにある。そして何より……
⑤夢
冒頭の夢が普通じゃない。朝は夢である少女と会話をしているのだが、少女は背中を向けて走り去り、消えてしまう。それと同時に世界が崩壊していく。まるで映画マトリックスのように。
1話をみるだけでこれである。実はこの後の話でも度々怪しいところが出てきており、目を凝らしてみると不自然な描写があちらこちらに散らばっている。また、ヒロインの行動もよくよく考えると妙なところがある。
この辺の空気感に僕はKeyの名作ゲーム、「リトルバスターズ!」を連想した。あの作品の設定は確か……
一見、わりと下ネタもたっぷりのある頭の悪いテンプレラブコメなんだけど、あちらこちらに世界の謎を読み解く仕掛けがたっぷりの恋愛フロップス、今もっとも先が気になるアニメである。
https://loveflops.com/
アニメって最近設定凝ってるし見るのに疲れちゃった……みたいな人にもこの2作品はオススメである。「キャッチーでインパクトある出だし」で気楽に楽しませつつ、次第に作品世界や練りこまれたストーリーを提示していくという設計が巧み。ネジが飛んでるように見せるには土台作りがとても大事であり、そこを疎かにすると滑りまくってサムイので気を付けよう。
気を付けよう。(自分の文章を見つめながら)