こんにちは。今回はガンプラの旧キット ゲルググについて解説したいと思います。
ガンプラブームの1980年代初頭から90年代中期までの、10年以上の期間の中で、
MSVや、リファインデザインのOVA版モビルスーツのプラモデル化や、
1/100で往年のモビルスーツをリファインする、MG(マスターグレード)の時代になってまで、
ガンプラマニアの間では「ドムにハズレなし、ゲルググに当たりなし」と語り継がれてきた。
一番の問題はドムで、ガンプラ展開最初期の1980年に発売されたにも関わらず、
この時点で既に(色分け以外は)現代のキットと比較しても遜色の少ない完成度に至っており、
その後の1/144もMSV版も、常にそのノウハウが生かされ続けてきたので、
当然、突然変異のようにダメなキットが生まれるはずもなく、
現行のMGやHGUCに至るまで、一つもハズレキットが存在しない稀有なメカになっていった。
これはドム自体、あまり複雑な面構成や立体構造をしていない為である。
ゲルググの場合、まず、可動前提でデザインを観察してみると、肘や膝に、
いわゆる可動するための隙間、クリアランスが確保されていないデザイン構造であることが分かる。
これはガンダムやジムの連邦系にはありがちで、ジオンではむしろ、ザクやグフ、ドムなどは、
明確にクリアランスをあらかじめ確保したデザインであることが多く、
いざデザインに忠実に立体化して、可動軸を仕込んでも、
実際には可動しないという問題を生んでしまった。
同じような弊害は、似た肘や膝の関節構造を持つギャンでも生まれましたが、
それ以上に1/144でも1/100でもゲルググが可動面で損をしたのは、
何よりシルエットの鍵となる、左右へ広く突き出した肩アーマーの存在でしょう。
これが、ドムやガンダム、ジオングのような付き方の肩アーマーが、
ただ大きくなっただけのパターンであれば、それらと同じように肩アーマーを別パーツ化させて、
胴体に対して回転接続すれば良いのではあるが、
問題は、ゲルググのデザインを細かく見ていくと、この肩アーマーの、肩と胴の接続時には、
両者の面が並行になっておらず、その隙間をアコーディオン型の蛇腹が埋めているという、
特殊な構造になっているというところが仇となった。
この時代では、ガンプラ製作において、設定画への忠実性が、
バンダイとモデラー双方に最も重要視されていて、
その為、1/144も、その前の3月に発売された1/100も、なぜか肩アーマーが胴体と一体化する構造で、
肩アーマーが一切可動しない仕様になっている。
それだけではなく、肘の関節も無駄にアニメの通りなので、結果として1/144ゲルググの
腕は、固定された肩アーマーの切り欠きの範囲でしか肩が動かせず、肘が殆ど曲がらないという、
可動に関しては、1/144ザク以下の、『機動戦士ガンダム』のガンプラの中では、
1/100ゲルググとツートップで「可動に関しては最低点」の座を、
ゲルググというモビルスーツはつかみ取ってしまった。
さらに、それだけではなく。では、そこまで可動を殺した以上、完成した1/144ゲルググは、
デザイン画やアニメ劇中に似ているかというと、
実際は、足りないスカートの丈、逆に調整を間違えたジーンズの裾のようにだらしなく長い脛の裾、
小さ過ぎる足首、固定化させたのにボリュームが足りない肩アーマーなど、
不満点は山ほど出てきてしまう。挙句には、横に広がって、縦に潰されたまんじゅうのような顔。
しかも、鼻の穴のような特徴的な二つの穴がモールドさえ掘られていないという、
あまりにも残念すぎるクオリティ。
さらなる悲劇は、そんな1/144ゲルググが、名作の1/100ドムをさらにブラッシュアップして、
1/144に収めた初期ガンプラの名作キット、1/144リック・ドムとほぼ同時に発売されてしまった事。
ただでさえ比較される立場につくし、その後、MSVなどで新規金型などでリメイクされつつも、
1/100マスターグレードに至ってさえもなお、常に決定打に欠ける出来に終始した為、
結果、自然発生的に「ドムにハズレなし、ゲルググに当たりなし」という
価値観が定着していってしまったのである。
しかも、偶然にも『機動戦士ガンダム』作中での、ジオンにおけるモビルスーツ開発や
戦線配属の結果とも通ずるものがあり、ゲルググは、シャア以外の量産型は、
最終決戦での学徒動員などを描写する為の、
「兵器が高性能でもパイロットが訓練生以下では結果は出せない」という演出の
逆説的な位置づけで使われており、ゲルググが、アニメでも、ガンプラでも、
不遇なモビルスーツであった事は間違いないようです。