前回の記事で、僕は夏が好きだと書いた。夏は高揚感と切なさが重なり合った、ちょっとした魔法の様な時間だと思うからだ。
同じ様に夏を特別だと思う人が多いのか、夏を舞台にした作品は名作ぞろいだ。アニメや小説とかで、不思議な事が起きるのは夏が多い印象だ。「君の名は」も夏の話だったし、「トトロ」も夏だ。
後ほど紹介するAIRに代表されるノベルゲームでも、夏が舞台の作品にそそられる。
名曲、と言われる音楽にも夏をイメージしたものがたくさんある。今日はその音楽の話をしたい。
僕は常々思っていたのだが、音だけで感情や情景を表現するのって本当にすごいと思う。
僕は耳が良くないので、歌詞をかみしめるというより、曲のリズムや楽器の調べを楽しむタイプなのだが、良い曲はたとえ歌詞がわからなくても感動する。思いや風景が伝わってくる。
なかでも、夏の曲は本当に独特だと思う。だって、音を聞いているだけで「あ、夏だ……!」と感じさせてくれるのだ。
今日は、そんな「夏らしい」曲を紹介したいと思う。
申し訳ないことに全部アニメやゲームの曲であり、しかも結構古い。
さらにいうと僕自身が本編のアニメやゲームをしっかり見たわけではない作品が多かったりする。
ただ、それなのに何度でも聞きたくなるということは、曲自身がすごく魅力的である証拠なのだ、きっと。
夏影 歌:Lia
と、いうわけでいきなり、ド直球で切ない系の歌から紹介したい。
「夏影」である。もうタイトルからして詩的で素敵だ。有名ゲームブランド「Key」の代表作、「AIR」のテーマ曲である。
「AIR」の発売は2000年9月とかなり昔だが、その感動的なシナリオが有名で、現在でも非常に高い人気を誇る作品である。
僕も、プレイしたことはないがあらすじだけは聞いたことがあるくらいだ。
「夏影」は日本の夏をイメージして作られた曲で、ゆったりと流れる幻想的かつ郷愁的な旋律や、繊細な歌詞がたまらない。
夏の日差しの中で遊んだ、安らかな子供の頃を想い起こさせる歌だ。
だからこそ、多くの人が、もう戻れない、越えてしまった「遥か夏」を思い、切なさに胸を焦がす。
動画サイトでは、夏になるとこの曲を聴きに来た、というコメントでいっぱいになるほどだ。
歌手のLiaが歌ったものと、歌詞のないイントロ版の両方があるが、それぞれに味があってどちらもお勧めだ。
ちなみに夏影は、AIRのヒロイン、神尾美鈴のテーマ曲でもある。美鈴というキャラクターのもつ儚さが、この曲をより切ないものにしている。
アイスキャンディー 歌:MAKO
アイスキャンディーで夏以外を想像する人がいるだろうか、いやいない(断言)。
まさに夏の歌である。
アイスキャンディーは2005年放映のアニメ「かみちゅ!」のEDテーマ。
この「かみちゅ!」は、ある日中学生の女の子が神様になっちゃった!というぶっとんだ設定の物語である。
とはいえ別に深刻なものではなくて、どこにでもいる中学生である主人公の「一橋ゆりえ」が、神様としてご町内の人々や精霊やほかの神様(!)のお願いをかなえたり、勉強に初恋にと大忙しの毎日を送るハートフルコメディ。
「アイスキャンディー」はそんな「かみちゅ!」の世界観が反映されたような、楽しい曲だ。アップテンポなメロディーが夏のきらめきと、吹き抜ける風のさわやかさ、淡い初恋のフレッシュさと切なさを感じる事が出来る。
「ソーダ味のアイスキャンディー」ってもう100点満点である。
こんな青い夏にはもう戻れないんだ、という点でいえば夏影と同じ切ない系の曲と言えるし、そもそも僕にはこんな青春がなかったという意味で夏影よりも悲しい曲と言える。
舞台が尾道というのもいい。尾道は古くは大林宣彦監督による、尾道三部作と呼ばれる映画の名作シリーズの舞台となったこともあるほど、独特の風景の町だ。坂道と海。まさに青春の象徴である。
想いを奏でて 歌:savage genius
僕はどうも、夏と言えば子供時代とか思春期と思い込んでいる節がある。トトロの歌じゃないが、子供の時にだけ不思議な出会いが訪れる、と思っているのだ。
2004年に放映されたアニメ「うた∞かた」もそのパターンの作品。
主人公の少女「橘一夏」が、不思議な少女「舞夏」と出会い、やがて試練に巻き込まれていく。そんなひと夏の物語である。実はこの試練というのがなかなかハードで、強く印象に残っている作品だ。
この「うた∞かた」のOPが「想いを奏でて」なのだが、僕はこの曲が大好きで、私的アニソンランキングのトップ5に入ってくるくらいだ。
この曲目当てでsavage geniusのライブに行ったことさえある。
空へと飛び立つような爽やかで力強いアップテンポなリズムが最高だし、透明感のある歌声には儚さや切なさがあって、本当に気持ちの良い一曲だ。
作品の舞台が夏の鎌倉ということもあって、晴れた夏の日とかに本当に良く合うと思う。
アニメOPver。大サビの部分で各話を象徴するイラストが流れるのだが、音のリズムとあっていてすごく気持ちいい。
スマイル 歌:水橋舞
「ひとひら」という作品の主題歌で、性懲りもなく学園モノである。
アニメの放映は2007年。実はチラッと見た程度、漫画も少し読んだ程度なのだが、結構印象に残っている作品。
強引に誘われて演劇同好会に入った、極度のあがり症でちょっとネガティブな主人公
「麻井麦(通称:麦チョコ)」が、演劇を通じて徐々に成長していく……というストーリー。
まず、CDジャケットが良い。ネガティブで引っ込み思案であがり症の主人公が明るい笑顔で思い切りジャンプしている所にストーリー性が表れていてグッドである。
アップテンポで心地よい曲も聞き心地がいいが、散文的な歌詞の繊細さが素晴らしい。
「風を切るペダルも軽いリズム」とか「緩やかな坂道、駆け上がれば」には躍動感を感じるし、
「少し遠回りで夕焼けを見て帰ろう」とか「オレンジの雲の向こう側に大きな夕日」は、放課後の爽やかさを感じる。
一番好きな部分は、「すぐそばに来ている夏を感じた」というあたりで、夏が目前というのがまさに思春期の少年少女にぴったりだと思う。
まさに「青春」のすがすがしさに満ちた一曲だといえる。
そろそろ語彙不足が深刻になってきたので、ここで一旦終わりにしようと思う。
今回の文章の中にはさんざん「もう戻れない」「子供時代」「青春」というワードが出てきた。
あと、「きらめき」とか「切なさ」とか。
試しにここまでの使用回数を検索してみたところ、戻れないが2回、子供が3回、青春も3回、切ない=切なさに至っては6回も使っていた。
しつこいといわれても文句は言えない。だが、夏を語ろうとしたら、これしか思いつかなかったのだ。そしてそんな乏しい語彙でも、夏を語りたいのだ、僕は。
夏らしさとはいったい何か。一言でいえばそれは「特別な時間」だと思っている。
そこでは不思議なことが起きるかもしれない、今までとは違う自分を見つけられるかもしれない。
僕の中で、それは青春時代、子供時代とイコールなのである。
だからこそ、夏は胸の高鳴る季節であると同時に、もう戻れない少年時代を思って切なくなる季節でもあるのだ。
そうしたいろいろな感情がまじりあうからこそ、夏の風景は美しい。
だから僕は夏が好きで、夏らしい曲を聴きたいと思うのだ。(また使った「青春」「戻れない」から目を背けながら)