④お題ゾンビの日常

「『おいしいメェー』……こうして銀行強盗は失恋のショックでヤギになりましたとさ。めでたしめでたし!ひひひひひひ……」
お題ゾンビは物語を締めくくると不敵に笑った。
「ざまぁみろ。あんな悪党にはこういう惨めな末路がお似合いだ」
お題ゾンビは自分を酷い目に遭わせた銀行強盗が失恋して精神的に壊れる話を書いたのだ。
実際に敵わない相手に物語の中で復讐するというのは何とも小者じみた事ではあるが、あれだけ求めていたお題が見つかったことを思うと巻き上げられた大金も惜しくはない。
「次はこの中のこれとこれでキャラを膨らませればもう1話いけるよな……」
その時、お題ゾンビは気付いた。自分はもうお題ゾンビではなくなったことを。
そしてそれは、お題ゾンビが地に足を着く物語の世界からの脱出を意味していた。

「おおおおお、愛しの我が家あああ!」
男は現実世界の我が家との感動の再会を果たした。
「愛しの机!愛しの椅子!愛しの布団!愛しの本棚!愛しのCDラジカセ!みーんな愛してる!まとめて結婚だぁー!」
感動のあまり思いっきりボケる男だが、家具たちは何も応えない。
「あれ?みんなどうしたんだ?何でツッコミ入れないの?せっかくギャグかましてるのにから!」
数時間考えた挙句、男は気が付いた。
「そうか。ここは現実世界だから、ガラスの破片のように物が喋ったりはしないんだな……」
現実に興冷めしながらも、男は普段の日常に戻った。
元の清潔な体に戻っているがやはり気持ち悪いので、お風呂に入って見えない汚れを落とす。
「お風呂はいいなぁー」
風呂上がりのサッパリした感覚を味わって時計を見ると、もう夜の12時だった。
「もうこんな時間かぁ。今日はもう寝よう」
男は愛しの布団にくるまれて寝た。

朝になった。
「まだ眠い」
男は二度寝した。
一時間経過し、再び目を覚ました。
「まだ眠い」
ので、
「ジリリリリリリリリリリリリリリリ」
目覚まし時計の真似をしてそのうるささで目を覚ました。
冷蔵庫の中のもので適当に朝食を済ませ、ソファに座って物語の中での出来事を思い出す。
「酷い目に遭ってばかりだったけど、何だかんだ楽しかったなぁ」
昼になった。
冷蔵庫のものを出すのが面倒くさかったので、いっそ冷蔵庫を食べてしまおうとひとかじりしたが、
「まずい」
諦めて中のものを食べた。
食べ終わると、次の話を書き始めた。
夜になった。
話を書き終え、冷蔵庫へ向かった。
相変わらず中の物を出すのが面倒くさいので冷蔵庫をケチャップで食べようとしたが、
「やっぱりまずい」
諦めて中のものにケチャップをかけて食べた。
風呂に入ると、あっという間に12時である。
「おやすみ」
変な夢を見た。

朝になった。
「ジリリリリリリリリリリリリリリリ」
朝食を食べ、次の物語を考えるが思いつかない。
「思いつめたら、またお題ゾンビになってしまう。ここはゆるくいこう」
男は気楽に考え、ゆるい時間を送った。
「……」
昼になった。
「……」
夜になった。
「……」
男はゆるくあるあまり、何もしなかった。
とうとう限界がきて、
「暇じゃああああああああああああああ!」
絶叫した。
男は無趣味だったのである。
物語を考えること以外、これといってやりたいことがないのだ。

気が付くと、男は再びお題ゾンビの姿に戻っていた。
「ということは、ここは物語の世界……」
だが、今のお題ゾンビには我が身を憐れむ気持ちはなかった。
「現実であんなゆるくも退屈な人生を送らなければならないなら、この世界をあてもなく彷徨っていた方が楽しい」

今日も愉快な歌声が聞こえてくる。
「お題をおくれ♪お題をおくれ♪お題があればこの世は天国……」
お題ゾンビは明るいゾンビとして生きていくことを決めたのだった。

+2
作者
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働 久藏【はたら くぞう】

読書と特撮鑑賞と物語制作が好きです。

自分で言うのも何ですが根は真面目なはずなのに、推し作家の影響で話を書くと必ずシュールコメディものになってしまう……(笑)

頑張って働 久藏(はたらくぞう)!

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